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レイドア防衛編

第141部分 天国への階段

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 ※また、ローランの視点になっております。




 私は天に続く階段の前に立っていた。
 どうやら死んでしまったらしい。
 
 死んだことを冷静に自覚できた。
 それに思ったより、取り乱さない。

 もっと絶望すると思ったが、案外冷静で「あっ、こんなものか」ぐらいにしか思わなかった。

 死んで思考が変わったのかもしれない。
 最後の光景で覚えているのは、香がガンウォールを倒したこと、リスネが叫んでいたことだ。
 結局、リスネには学生時代から助けてもらってばかりだったな……

 ……さて、行こうか。
 一歩目を歩み出した。

「おい、待て!」

 聞き覚えのある声がした。
 振り返るとリザちゃんと香がいた。

 何か声を掛けようとしたが、何もしゃべれない。
 そうか、私はもう死んだから、生きている人間とはしゃべれないのか。

 そうだ、早く行かないと……

「おい、待て! 戻ってこい!! なんで私たちはこの先に行けないんだ!? 壁みたいなものがあるみたいだ。香、早く斬れ!」

「無茶言わないでください! 刀なんてないですよ!」

「なんで持ってこなかったんだ!?」
「ここ、そういう世界じゃないでしょ!」

 二人は賑やかだ。
 普段は頼りになるが、ああ言う声を聞くとやっぱり年下なんだな、と思ってしまう。

 けど、二人は私なんかより凄い。
 二人がいれば、シャルロッテ様もハヤテも安心だ。

「おい、ローラン!」
「待ってください、ローラン!」

 二人は必死に私の名前を呼ぶ。
 その声は階段を登っていく度に遠くなる。

 そして、二人の声は聞こえなくなった。

 無音の世界。
 優しい光。

 もうすぐは私はあそこに……

「まったくなんでおぬしがここにいるのかのぉ」

 それは階段の上から聞こえた。

「アイラ?」

 あれ、声が出る?

「おぬし、この先に行けば、戻れぬぞ?」

 アイラの声は悲しそうだった。

「死んだのだから仕方がないだろ?」

「うむ、潔いのぉ。じゃが、言葉と表情が一致しておらぬぞ」

「えっ?」

 頬に手を当てると涙が流れ続けていた。
 
「自分に嘘をつくのはよせ。おぬしはまだ死にたいなどとは思っておらん」

「だとしても、これ以上、私に何ができる? ハヤテたちが凄すぎて、私は足手纏いだ。ここで終われば、奇麗に私は人生を閉じられる。私はハヤテたちの足枷になりたくない!」

「まったくおぬしは責任感が強いの、ローラン。強いことだけが重要ではない。少なくともハヤテはそう考える男じゃ」

 アイラは立ち上がり、私の胸に手を当てた。

「戻れ。まだ引き返せる。儂もすぐにそちらへ行くから、ハヤテたちと共に待っておれ」

 そう言って、アイラは私を階段から突き落とした。

「そうじゃ、二つ言っておくぞ。良くガンウォールを倒した。それとこの世界で儂に会った褒美じゃ。受け取れ」

「受け取る? 一体何を?」

 アイラはその問いに答えてくれなかった。
 私の体が階段を転がり落ちていく。
 それなのに痛みはなかった。

 やがて、私は止まった。
 起き上がると一番下まで落ちてしまったみたいだ。


 あれ、なんで階段から落ちたんだ?
 誰かに押されたような……
 いや、どうでもいい。
 もう一回、登らないと……

「待て! なんでまた登ろうとしているんだ!?」

「そうです。転がり落ちて来た時は驚きましたけど、もう離しませんからね!!」

 リザちゃんと香が掴まれた。
 しかし、体には抵抗感がない。

「香、ちゃんと力を入れろ!」
「やってますよ! でも、止まらないんです!!」

 私がまた階段に片足を掛けた時だった。


「この大馬鹿!!!」


 リスネの声がした。
 その声に体が固まる。

「あんた、どこに行くつもり!?」

「リ……スネ……?」

「なに、人生、奇麗に終わらせようとしてんのよ!? そんなの許さないわよ!」

 なんでリスネがここにいる?
 それにあれ、そういえば、リザちゃんや香も……

「帰るぞ、ローラン」
「そうです、帰りましょう」

 私は三人に引っ張られて、別の光の下へ連れて行かれた…………
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