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レイドア防衛編

第155部分 アイラの告白

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 次に起きた時、周りはすっかり暗くなっていた。

「なんじゃ、変な時間に起きたの」
 アイラの声がした。

 周りを見るとみんなが寝ている。
 シャルも戻ってきていた。

「のう、ハヤテ、散歩、せぬか?」

 アイラの声は少し弱かった。

「いいよ、じゃあ、外に行くかい?」

「ちょっと、後ろを向いてくれるかの」

 アイラに言われるがまま、俺は後ろを向く。

「……アイラ、いつまで、後ろを見ていればいいんだ?」

「もう少し待っておれ……良いぞ」

 俺が振り向くとそこには小さな竜がいた。

「アイラなのか?」

「そうじゃよ。背中に乗れ」

 言われるがまま、アイラの背中に乗る。
 そして、アイラは空に飛んだ。

「……って、おい、めちゃくちゃ揺れるんだけど!?」

 俺は堪らずにしがみ付いた。

「む? そうか、すまんの。人を乗せるのは初めてじゃからな」

「初めてだって!? なら、こんなに高く飛ばないでくれ! 落ちたら死ぬって!」

 俺がさらに強くしがみ付くとアイラが嬌声を漏らした。

「ど、どうしたんだい?」

「いきなり強く抱き締めるからじゃ! わかっとらんみたいじゃから、言っておくが今、儂、裸じゃからな! そんなに抱き締められたら、変な声も出るわ!」

 ……えっ?
 今、なんて言った!?

「裸だって!?」

「服を着ていたら、この姿になれんじゃろ?」

 アイラが空を飛べるのに今までやらなかった理由が分かった。

「おぬしは裸の女子おなごに跨っておるんじゃよ。どうじゃ、興奮してきたか?」

 いや、俺は竜に乗っているとしか思えない……って、言ったら、アイラは怒るかな?

 さっき、俺に後ろを向けと言ったのは服を脱いでいたのか。
 んっ? 待てよ……

「アイラ、お前って俺たちと初めて会った時、俺に構わずに着替えをしていたよな?」
(※第49部分『空間移動した先には…………』参照)

「おぬし、それはさすがに気配りが無さすぎじゃ」

 アイラは怒ったようだった。
 俺がその理由を聞こうとすると、

「まぁ、よい。おぬしはそういう奴じゃからな」
と言って、話を終わらせてしまった。

「のう、ハヤテ」

「なんだい?」

「竜人族の中にいた頃、儂は常に堂々としておらんといけなかった。四臣としての自分を演じておらんとならんかった。儂は自分の気持ちというものを素直に言うのが苦手じゃ。じゃから、このままの姿で言うことを許して欲しいのじゃ」

 アイラは大きく息を吸い、体を震わせる。

「儂を救ってくれて、ありがとう、じゃ」

「仲間なら当然だよ。それに俺だけの力じゃない。みんなの力があったから、魔王を倒せたんだ」

「ハヤテはそう言うと思っておった」

 アイラは笑うが、急に黙り込んだ。

「……もう一つ、言いたいことがあるんじゃ」

 次に発したアイラの声は震えていた。

「…………月が奇麗、じゃな」

 アイラは緊張した声でそう言った。

「月なんてどこにも見えないけど?」

 俺がそう言うとアイラは溜息をつく。

「ハヤテ、とぼけておるのかの? いや、本気じゃな」

「一体、何のこと…………!」

 アイラは俺が全てを言い終える前に急降下した。

「うわっ! おい!」

 地面が急速に接近する。
 ぶつかる寸前でアイラは減速し、着地する。

「いきなり、何をする…………!」

 文句を言おうとした口を、竜の姿から人型に戻ったアイラに塞がれてしまった。

 アイラの唇によって。

 時間が止まったような衝撃だった。
 実際、かなりの時間、俺とアイラは動きを止めていたと思う。

「……これで分かったかの? ハヤテの国では好意を持つと『月が奇麗』と言うのじゃろ?」

「いつの時代の話だい? そんな回りくどい言い回しじゃ分からなかったよ」

「じゃから、行動で示したじゃろ?」

 アイラは自分の唇に指を当てた。
 余裕がありそうな口調だが、アイラは耳まで真っ赤だった。

 俺が笑うと、

「な、なんじゃ?」
と言い、アイラは焦る。

「いや、アイラもそんな表情をするんだと思ってね」

「う、うるさいの! 儂とて、この感情をどうすればよいか、困っておる! 口づけ程度で我慢したことを褒めて欲しいの。儂の理性がもう少し弱ければ、ハヤテの服を引きちぎって、おぬしと肌を重ねておるところじゃぞ!」

 肌を重ねる。
 その言い回しにまた笑ってしまった。

「な、なんじゃ?」

「いや、積極的な割にアイラも実は直線的な言い方は苦手なんだな、と思って」

 アイラなら、その辺は気にしないと思っていた。

「その、『アイラも』と言うあたり、どっかのハーフエルフの存在がちらつくの。言っておくが、儂はリザとは違うぞ。儂はあんな小娘と違って大人じゃからな! というより、なんでハヤテは平気そうなんじゃ!?」

「あんまりに突然すぎて、何も反応できなかったんだよ」

 付け加えるなら、もしアイラの全裸が大人状態だったら、俺の反応も違ったかもしれない。
 
「な、なんで儂だけこんなに取り乱しておるんじゃ……情けないの……じゃが、次はハヤテが焦る番のようじゃな」

 アイラは意地の悪い笑みを浮かべた。

「えっ? それはどういう意…………」

「ハヤテ」

 理由を聞き返す前に複数の声がした。
 それで全てを理解した。

「や、やぁ、おはよう、みんな」

 心臓の鼓動が早くなる。

「いきなり突風が吹いたと思ったら、なんでハヤテは裸のアイラと一緒なんだ?」
 リザは顔を赤くしていた。

「それは事前ですか? それとも事後ですか?」
 香の眼からは完全に光が消えていた。

 二人に迫られる。

「ア、アイラ、何とかしろ!」

「リザ、香、すまんの。儂が一番乗りじゃ」

 口づけをしたことを言っているなら、良い。
 やってしまったことは認める。

 だけど……

「なんで腹を擦りながら言うんだ!!?」

 絶対に誤解されるだろ!

「アイラ、ちょっとお腹見せてもらってもいいですか? 嘘ですよね? 中には誰もいませんよね?」

 香さんは二本の刀を抜いていた。

「なんじゃ、やるか、香、どれだけ強くなったか、見せてみよ」

 アイラは楽しそうに構える。

「おい、こら、お前たちが戦ったら、近所迷惑だろ!」

「リザちゃんや香ではなく、アイラとは大穴だったな。賭けはシャルロッテ様の一人勝ちか」
 ローランは渋い顔をしていた。

「アイラだったら、やってくれると思ってました」
 シャルはニコニコしていた。

「賭けって何?」

「ハヤテが誰と最初に性交を行うかを賭けていたんだ。ちなみにナターシャとサリファちゃんとルイスちゃんがリザ、私とリスネが香に賭けていた。アイラに賭けていたのはシャルロッテ様だけだ」

 見るとナターシャ、サリファ、ルイスも笑っていた。

「俺の知らないところで、俺の貞操を賭けの対象にしないでくれるかな!? それに俺はアイラとヤってない!」

 こんなに分かりやすい失言はあまりないだろう。

「まだ、って言ったか?」とリザ。
「ええ、まだ、って言いましたよね?」と香。

「お、おい、お前たち…………」

「ふ~~ん、そうか」
 リザさん、激おこである。

 そ、そうだ、リンクすれば……って、もうカードがないんだった!

「ハヤテは私と戦え。性的に!」
 リザが馬乗りになる。

「あっ、ズルい! 私だって…………!」
 香に腕を掴まれる。

「おい、止めろ……! ローラン、助けてくれ!」

「期待に応えてやればいいじゃないか」

 ローランたちは笑っていた。
 なんだか、こんな風に騒ぐのは久しぶりな気がする。
 楽しい、それは認める。

 認めるが…………

「香、俺のズボンを脱がそうとするんじゃない!」

 少しだけ騒がしすぎる気もした。
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