上 下
156 / 200
レイドア防衛編

第156部分 これからのこと

しおりを挟む
 戦いが終わってから三日が過ぎた。
 ロキア王国軍が中心になって、街の瓦礫の撤去が進んでいる。

 リスネさんの話だと街の七割が焼失したらしい。
 この戦争で人と物資、その多くが失われた。

 街の惨状を見て、俺が一度だけ「もっとできたことはあったのかな」と呟いたことがある。
 するとローランに怒られた。

「ハヤテ、君は全知全能の神じゃない。自分が全てを救えると思うな。失ったものより、守ったモノを見るようにしろ」
と言われた。

 街は戦争の悲しみの中から立ち上がろうとしている。
 生き残った人たち、戦争が終わって戻ってきた人たちがまた街を作る。

 街の復興は急速に進んでいき、僅か一カ月でレイドアは街としての機能は回復した。

 それには俺たち冒険者も全力で協力したし、ドラズさんたちドワーフの存在が心強かった。

「まだまだやることは山積みよ。今度は周辺の村がどうなったかをきちんと調べて、復興するか、廃村にせざる負えないか、決めないと……」

 仮説ギルドに立ち寄った時、リスネさんがそんなことを愚痴っていた。
 けれど、リスネさんはその忙しさが嬉しいようだった。
 物事がいい方向へ向かっているのだからだ。

「で、英雄パーティの皆様はクエストに行くつもりかしら?」

 そういえば、一つ、決まったことがある。
 俺たちパーティの名前だ。
 決まったというより、レイドアを救った英雄のパーティが『名無し』では格好がつかないとリスネさんが言い、勝手に決めていた。

「でも、このパーティ名はどうなんだろう?」

 すでに周囲が認知してしまった為に、今更の変更は出来ない。

「いいじゃない。ハヤテさんのハーレムには相応しい名前よ。結構迷ったのよね。ハヤテハーレム、略して『H×H』と」

「もし、そっちだったら、断固拒否していたからね!」

 リスネさんが俺たちのパーティに付けた名前は〝ミストローン〟だった。

 俺たちとリザたちを繋いだ召喚盤、その元になったカードゲームの名前である。

「で、ミストローンの皆様が何のご用件で?」

「クエストじゃないんだ。ちょっと報告があってね」

「ご結婚おめでとうございます。ハヤテさんは誰を選んだのかしら?」

 リスネさんはとても笑顔だった。

「……いや、結婚の予定はないんだけど」

「あら、そうなの、じゃあ、何かしら?」

「俺たちレイドアを離れようと思ってね」

「それはハネムーン?」

 リスネさんはどうしてもそっちに話を持っていきたいらしい。

「違うから。竜人族に会いに行こうと思ってね」

 それを聞くとリスネさんは急に真面目な表情になる。

「理由は?」

「多くの種族が共存できる未来の為に」

 魔王のせいでこの世界の種族は二つに分かれて戦うことになってしまった。

 人間により近い種族は人間側。
 人間と少し離れた姿をした種族は魔族側。

 魔王は倒れた。

 しかし、種族の間に出来た溝は簡単には修復できない。
 もしかしたら、竜人族や巨人族のように力を持った種族から、第二の魔王が誕生してしまうかもしれない。
 そんなことになったら、この戦いの犠牲が無駄になってしまう。

「ハヤテさんのやりたいことは分かるわ。でも、それは難しいことよ」

「だとしても、やってみたい」

 そう宣言すると、リスネさんは笑った。

「分かったわ。それなら、ハヤテさんにとっては良い知らせ、ってことでいいのかしらね。西方連合の権威が失墜しつつあるわ」

「それはどうして? それになんでそれが俺にとって良い知らせなんだい?」

「レイドア攻防戦で結局、西方連合は援軍を送れなかった。それが西方連合各地に広がったのよ。主戦派の西方連合の力が弱くなれば、侵攻なんてことを言い出す馬鹿はいなくなるでしょうね」

「それはありがたいことだけど、なんでそんなに急速に情報が広がっているんだい?」

「なんででしょうね? 誰かが主導して、情報を流しているかもしれないわよ? レイドアに援軍を送らなかったことに激高した誰かの仕業かもね」

 リスネさんはとても悪い笑みを浮かべた。

 うん、やっぱりこの人を本気で怒らせない方が良さそうだ。

「今後は唯一、援軍を送ったロキア王国の発言力が増すことになるでしょうね」

「ロキア王国か、そうなんだ…………」

 それを聞いた時、俺にはある構想が浮かんだ。
しおりを挟む

処理中です...