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開山忌
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珠代は、三十年余り前に会社勤務の翔平と結婚して、ふたりの女の子を授かった。
長女は洋子で、次女は友美。
珠代と翔平は、数年前まで浅草観音の近くのアパートに住んでいたが、四人住むには狭く何処か良い所が無いか物色していたところ、練馬に安い一軒家が見つかり引っ越した。。
珠代の父親の弥吉は九十一歳、母千代は八十八歳は神奈川県の藤沢にふたりで暮らしていた。
一方、翔平の父親は十八年前、母親は十五年前に流行り病を患って他界した。
翔平は自分の両親に孫を見せることができなかったことを残念がっていた。
明日は藤沢の遊行寺の開山忌で、珠代たちは夜から弥吉の家に行く予定だ。
「藤沢のおじいちゃんの所に行くのは、久しぶりね」
友美が嬉しそうに言った。
「友美、おばあちゃんにおねだりしちゃだめよ」
洋子がお姉さんらしく、妹をたしなめた。
翔平が、仕事を終えて戻ってきた。
「お帰りなさい。しばらくしたら、藤沢に行きましょうか」
「一年ぶりだね。ふたりとも喜ぶよ」
四人は電車を乗り継ぎ、藤沢駅からバスに乗って遊行寺前で降りた。
「屋台の準備はもう終わっているようね」
珠代が翔平に向かって言った。
「今年もにぎわうぞ」
祭り好きな翔平は嬉しそうに応えた。
弥吉の家に着いた。
「珠代です」
「いらっしゃい」
千代が、出迎えた。
居間で弥吉が、煙草を吸っていた。
「皆元気そうで何よりだ」
「おとうさん、お土産」
珠代が風呂敷から箱を出した。
「気を遣わんでもいいのに。ありがとよ」
弥吉は、翔平に向かって言った。
「珠代、お茶入れてくれる」
千代は土産を開けて、箱を抱えながら饅頭を取り出してはほおばった。
珠代が茶を入れてくるまでに、三個を食べ終えていた。
「お母さん、よく食べますね」
翔平と娘たちは驚いた。
「今年に入って、好きなものは食べても食べてもまた食べるんだ。また、同じことを何度も聞き返してくるので、さっき言ったろうと言うんだが、すぐにまた聞いてくる。おかしいと思って、医者に診てもらったら、認知症の症状で、年のせいで仕方がないと言っていた」
弥吉があきらめ顔で言った。
茶を入れてきた珠代は千代に言った。
「おかあさん、お饅頭美味しかった」
「美味しいよ。お前たちもお食べ」
千代は、珠代たちの前に差し出した。
「開山忌にはもう行ったかい」
千代が娘たちに聞いた。
「おばあちゃん、開山忌は明日からよ」
洋子が応えた。
「そうかい」
千代はまた残り少なくなった饅頭をほおばった。
「珠代。開山忌に行ってきたかい」
千代がまた言った。
「おかあさん。開山忌は明日からよ。明日行くから心配しないで」
「そうかい。明日からか」
「千代は心配でしょうがないんだが、毎日これなんだ」
「お父さんも大変ですね」
翔平が同情した。
「翔平さん、開山忌に行ったかい」
千代が今度は翔平に向かって言った。
「お母さん、開山忌は明日からですよ」
やや苛ついた声で、翔平が応えた。
今度は、弥吉に向かって言った。
「あんた、夕飯、何か美味しいものでも買ってきたらどう」
「おかあさん。あたしが作るから心配しないで」
「そう」
「珠代。酒の支度をしてくれないか」
珠代は頷いて、台所に行って缶ビールと途中で買ってきた刺身と天麩羅を用意してきた。
「翔平君。今日はゆっくり飲もう」
徳利を持った弥吉が、翔平のグラスにビールを注いだ。
「友美ちゃん。大きくなったね」
千代が洋子に向かって言った。
「あたしは洋子です」
洋子は困った顔で珠代に眼を移した。
「おかあさんは洋子と友美の見分けがつかなくなったのよ。病気だから勘弁してあげて」
「友美ちゃん、開山忌に行ったの」
今度は間違いなく、千代は友美に向かって言った。
「おばあちゃん。開山忌は明日だって」
友美が諭すように言った。
翔平は珠代に言ってペンと紙を持ってこさせて、『開山忌は、あしたからです』と紙に書いた。
「お母さん、開山忌の事を聞く前にこれを読んでください」
翔平が書いた紙を千代の前に置いた。
千代は紙をじっと眺めた。
それから、千代が口を開くと、
「お母さん、紙を見てください」
と、翔平が直ぐに言った。
書いた紙も何度か役に立ったが、その後は紙はどこかにしまわれてしまった。
翔平はがっかりした。
「翔平さん、病気だからしょうがないわよ」
「毎日これじゃお父さんが可哀そうだ」
「翔平君、ありがとう。医者に聞いたんだが、千代よりもっとひどい人がいるそうだ。例えば、いつの間にか家を出てしまってどこにいるのか分からなくなってしまったとか。まだ千代はそんなことがないから安心だ」
「さあ、あたしたちも食事にしましょう」
珠代は娘たちに配膳を手伝わせて、皆で夕食を囲んだ。
「おとうさん、仕事はどうなの」
珠代が心配そうに聞いた。
「千代がお金の勘定ができなくなったんで、店には出ないようにさせているよ。俺も体がゆうことをきかなくなってきたんで、そろそろ店じまいしようかと考えている」
弥吉は花屋を営んでいた。
寺近くに多数の墓があるため、墓参り用としての仏花が主に売れ筋だった。
「そうなんだ。おかあさん、食事の支度はできるの」
「料理を全く忘れている。無理して作ろうとするときがあるんだが、火の扱い方すら心もとない」
「火事にでもなったら大変だわ」
「お父さんが、ご飯の支度をするんですか」
翔平が弥吉のグラスにビールを注ぎながら言った。
「毎日はできないから、一週間に一回業者に頼んで三日分ほど作ってもらっているよ。それ以外は大体インスタントで済ませている」
「ちゃんと三度食べなきゃだめよ」
珠代は無理を言ったと反省した。
「最近は俺も飯を炊いたり、味噌汁も作れるようになったから、心配しなくて大丈夫だ」
「わかったわ。そろそろ、翔平さん、お風呂に入って来て」
珠代は、片づけしながら言った。
「おかあさんはゆっくりしていて。娘たちも手伝ってくれるから」
「珠代、いつもわるいわね」
千代は、いったん立ったが、また座りなおした。
珠代と娘たちも風呂から上がってきた。
「おかあさん、お風呂どうぞ」
珠代が千代を促したが固辞した。
「あたしは今日はいいよ」
「しょうがないわね」
「昨日も行かなかったんだ。人の言うことを聞かなくなってしまったよ」
弥吉が嘆いた。
開山忌の当日の朝五時。
珠代が台所からの物音に気付いて行くと、千代が立っていた。
ガスレンジに火が着いていないのに、鍋に水と味噌を入れていつまでもかき混ぜていた。
「おかあさん、おはよう。ちょっと待って」
レンジに火を着けた珠代の目から、涙がこぼれた。
朝食を終えると、珠代は洗濯、掃除そして、昼食の支度と忙しかった。
翔平と娘たちは庭で草取りに励んでいた。
三時を過ぎると、珠代たちは開山忌に行く支度をした。
「さあ、おかあさんも開山忌に行きましょう」
珠代が、千代に声をかけた。
「あたしは疲れたからいいよ」
「おばあちゃん、いこうよ」
洋子も誘ったが、動こうとしなかった。
「いい加減にしろ。せっかく、みんなが誘ってくれているのに」
弥吉が怒鳴った。
「おとうさん、おかあさんは病気なんだから、好きにさせてあげましょう」
珠代は、弥吉をなだめた。
「この人はすぐ怒るんだから、情けない男だよ」
千代が言った。
「この野郎」
弥吉が千代に掴みかかろうとした。
皆、唖然とした。
「お父さん、やめて下さい」
翔平が、千代の前に立ちふさがった。
「開山忌に行ったかい」
千代が言った。
「これから行ってくるから、おかあさん、留守番してね」
珠代は、皆を促した。
外は、皆の重い気持ちと打って変わって、空は青く澄み渡っていた。
弥吉の足元が、おぼつかなかった。
「おじいちゃん、大丈夫」
洋子と友美が両側から弥吉を支えながら歩いた。
「いくらおかあさんが病だと言っても、おとうさんも大変ね。どうしたらいいのかしら」
歩きながら、珠代は翔平に相談した。
「このままふたりだけにしておくのは、心配だな。いつ何が起こるか、分からないよ。一緒に住むかどうかは後で考えるとして、まずは、俺たちが店を継ごうか」
「そうね。洋子と友美に今まで通り練馬の家に住んでもらって、あたしたちは店の近くにアパートを借りてもいいし、おとうさんたちがいいと言ったら一緒に住んでもいいわね」
翔平が頷いた。
「家に帰ったら、俺からお父さんとお母さんに話してみるよ」
珠代の重い気持ちが、急に軽くなった。
寺まで続く長い階段の両サイドには、屋台がびっしりと並んでおり、階段の上り下りの見物客であふれていた。
「すごい人だな。どうする」
階段の下に来た時、翔平が皆に向かって言った。
娘たちは行きたそうだった。
「おとうさん、行く」
弥吉は頷いた。
「おとうさん、行きたいって。洋子と友美、頼んだわよ」
再び弥吉の両側を娘たちが支えて、階段を上り始めた。
やっとのことで、階段を登りきると見世物小屋が数件立ち並んでいた。
弥吉の眼が、輝いていた。
「いつ見ても、なつかしいわ」
珠代は小学生の時を思い出した。
翔平も昔のことが自然と頭に浮かんできた。
珠代の承諾を得た娘たちは、弥吉と一緒に見世物小屋に入って行った。
「おかあさんも無理して連れてくればよかったかしら」
「明日は絶対に連れてこよう」
珠代が頷いた。
秋空は赤く染まり、屋台の店店に明かりがともり始めた。
了
長女は洋子で、次女は友美。
珠代と翔平は、数年前まで浅草観音の近くのアパートに住んでいたが、四人住むには狭く何処か良い所が無いか物色していたところ、練馬に安い一軒家が見つかり引っ越した。。
珠代の父親の弥吉は九十一歳、母千代は八十八歳は神奈川県の藤沢にふたりで暮らしていた。
一方、翔平の父親は十八年前、母親は十五年前に流行り病を患って他界した。
翔平は自分の両親に孫を見せることができなかったことを残念がっていた。
明日は藤沢の遊行寺の開山忌で、珠代たちは夜から弥吉の家に行く予定だ。
「藤沢のおじいちゃんの所に行くのは、久しぶりね」
友美が嬉しそうに言った。
「友美、おばあちゃんにおねだりしちゃだめよ」
洋子がお姉さんらしく、妹をたしなめた。
翔平が、仕事を終えて戻ってきた。
「お帰りなさい。しばらくしたら、藤沢に行きましょうか」
「一年ぶりだね。ふたりとも喜ぶよ」
四人は電車を乗り継ぎ、藤沢駅からバスに乗って遊行寺前で降りた。
「屋台の準備はもう終わっているようね」
珠代が翔平に向かって言った。
「今年もにぎわうぞ」
祭り好きな翔平は嬉しそうに応えた。
弥吉の家に着いた。
「珠代です」
「いらっしゃい」
千代が、出迎えた。
居間で弥吉が、煙草を吸っていた。
「皆元気そうで何よりだ」
「おとうさん、お土産」
珠代が風呂敷から箱を出した。
「気を遣わんでもいいのに。ありがとよ」
弥吉は、翔平に向かって言った。
「珠代、お茶入れてくれる」
千代は土産を開けて、箱を抱えながら饅頭を取り出してはほおばった。
珠代が茶を入れてくるまでに、三個を食べ終えていた。
「お母さん、よく食べますね」
翔平と娘たちは驚いた。
「今年に入って、好きなものは食べても食べてもまた食べるんだ。また、同じことを何度も聞き返してくるので、さっき言ったろうと言うんだが、すぐにまた聞いてくる。おかしいと思って、医者に診てもらったら、認知症の症状で、年のせいで仕方がないと言っていた」
弥吉があきらめ顔で言った。
茶を入れてきた珠代は千代に言った。
「おかあさん、お饅頭美味しかった」
「美味しいよ。お前たちもお食べ」
千代は、珠代たちの前に差し出した。
「開山忌にはもう行ったかい」
千代が娘たちに聞いた。
「おばあちゃん、開山忌は明日からよ」
洋子が応えた。
「そうかい」
千代はまた残り少なくなった饅頭をほおばった。
「珠代。開山忌に行ってきたかい」
千代がまた言った。
「おかあさん。開山忌は明日からよ。明日行くから心配しないで」
「そうかい。明日からか」
「千代は心配でしょうがないんだが、毎日これなんだ」
「お父さんも大変ですね」
翔平が同情した。
「翔平さん、開山忌に行ったかい」
千代が今度は翔平に向かって言った。
「お母さん、開山忌は明日からですよ」
やや苛ついた声で、翔平が応えた。
今度は、弥吉に向かって言った。
「あんた、夕飯、何か美味しいものでも買ってきたらどう」
「おかあさん。あたしが作るから心配しないで」
「そう」
「珠代。酒の支度をしてくれないか」
珠代は頷いて、台所に行って缶ビールと途中で買ってきた刺身と天麩羅を用意してきた。
「翔平君。今日はゆっくり飲もう」
徳利を持った弥吉が、翔平のグラスにビールを注いだ。
「友美ちゃん。大きくなったね」
千代が洋子に向かって言った。
「あたしは洋子です」
洋子は困った顔で珠代に眼を移した。
「おかあさんは洋子と友美の見分けがつかなくなったのよ。病気だから勘弁してあげて」
「友美ちゃん、開山忌に行ったの」
今度は間違いなく、千代は友美に向かって言った。
「おばあちゃん。開山忌は明日だって」
友美が諭すように言った。
翔平は珠代に言ってペンと紙を持ってこさせて、『開山忌は、あしたからです』と紙に書いた。
「お母さん、開山忌の事を聞く前にこれを読んでください」
翔平が書いた紙を千代の前に置いた。
千代は紙をじっと眺めた。
それから、千代が口を開くと、
「お母さん、紙を見てください」
と、翔平が直ぐに言った。
書いた紙も何度か役に立ったが、その後は紙はどこかにしまわれてしまった。
翔平はがっかりした。
「翔平さん、病気だからしょうがないわよ」
「毎日これじゃお父さんが可哀そうだ」
「翔平君、ありがとう。医者に聞いたんだが、千代よりもっとひどい人がいるそうだ。例えば、いつの間にか家を出てしまってどこにいるのか分からなくなってしまったとか。まだ千代はそんなことがないから安心だ」
「さあ、あたしたちも食事にしましょう」
珠代は娘たちに配膳を手伝わせて、皆で夕食を囲んだ。
「おとうさん、仕事はどうなの」
珠代が心配そうに聞いた。
「千代がお金の勘定ができなくなったんで、店には出ないようにさせているよ。俺も体がゆうことをきかなくなってきたんで、そろそろ店じまいしようかと考えている」
弥吉は花屋を営んでいた。
寺近くに多数の墓があるため、墓参り用としての仏花が主に売れ筋だった。
「そうなんだ。おかあさん、食事の支度はできるの」
「料理を全く忘れている。無理して作ろうとするときがあるんだが、火の扱い方すら心もとない」
「火事にでもなったら大変だわ」
「お父さんが、ご飯の支度をするんですか」
翔平が弥吉のグラスにビールを注ぎながら言った。
「毎日はできないから、一週間に一回業者に頼んで三日分ほど作ってもらっているよ。それ以外は大体インスタントで済ませている」
「ちゃんと三度食べなきゃだめよ」
珠代は無理を言ったと反省した。
「最近は俺も飯を炊いたり、味噌汁も作れるようになったから、心配しなくて大丈夫だ」
「わかったわ。そろそろ、翔平さん、お風呂に入って来て」
珠代は、片づけしながら言った。
「おかあさんはゆっくりしていて。娘たちも手伝ってくれるから」
「珠代、いつもわるいわね」
千代は、いったん立ったが、また座りなおした。
珠代と娘たちも風呂から上がってきた。
「おかあさん、お風呂どうぞ」
珠代が千代を促したが固辞した。
「あたしは今日はいいよ」
「しょうがないわね」
「昨日も行かなかったんだ。人の言うことを聞かなくなってしまったよ」
弥吉が嘆いた。
開山忌の当日の朝五時。
珠代が台所からの物音に気付いて行くと、千代が立っていた。
ガスレンジに火が着いていないのに、鍋に水と味噌を入れていつまでもかき混ぜていた。
「おかあさん、おはよう。ちょっと待って」
レンジに火を着けた珠代の目から、涙がこぼれた。
朝食を終えると、珠代は洗濯、掃除そして、昼食の支度と忙しかった。
翔平と娘たちは庭で草取りに励んでいた。
三時を過ぎると、珠代たちは開山忌に行く支度をした。
「さあ、おかあさんも開山忌に行きましょう」
珠代が、千代に声をかけた。
「あたしは疲れたからいいよ」
「おばあちゃん、いこうよ」
洋子も誘ったが、動こうとしなかった。
「いい加減にしろ。せっかく、みんなが誘ってくれているのに」
弥吉が怒鳴った。
「おとうさん、おかあさんは病気なんだから、好きにさせてあげましょう」
珠代は、弥吉をなだめた。
「この人はすぐ怒るんだから、情けない男だよ」
千代が言った。
「この野郎」
弥吉が千代に掴みかかろうとした。
皆、唖然とした。
「お父さん、やめて下さい」
翔平が、千代の前に立ちふさがった。
「開山忌に行ったかい」
千代が言った。
「これから行ってくるから、おかあさん、留守番してね」
珠代は、皆を促した。
外は、皆の重い気持ちと打って変わって、空は青く澄み渡っていた。
弥吉の足元が、おぼつかなかった。
「おじいちゃん、大丈夫」
洋子と友美が両側から弥吉を支えながら歩いた。
「いくらおかあさんが病だと言っても、おとうさんも大変ね。どうしたらいいのかしら」
歩きながら、珠代は翔平に相談した。
「このままふたりだけにしておくのは、心配だな。いつ何が起こるか、分からないよ。一緒に住むかどうかは後で考えるとして、まずは、俺たちが店を継ごうか」
「そうね。洋子と友美に今まで通り練馬の家に住んでもらって、あたしたちは店の近くにアパートを借りてもいいし、おとうさんたちがいいと言ったら一緒に住んでもいいわね」
翔平が頷いた。
「家に帰ったら、俺からお父さんとお母さんに話してみるよ」
珠代の重い気持ちが、急に軽くなった。
寺まで続く長い階段の両サイドには、屋台がびっしりと並んでおり、階段の上り下りの見物客であふれていた。
「すごい人だな。どうする」
階段の下に来た時、翔平が皆に向かって言った。
娘たちは行きたそうだった。
「おとうさん、行く」
弥吉は頷いた。
「おとうさん、行きたいって。洋子と友美、頼んだわよ」
再び弥吉の両側を娘たちが支えて、階段を上り始めた。
やっとのことで、階段を登りきると見世物小屋が数件立ち並んでいた。
弥吉の眼が、輝いていた。
「いつ見ても、なつかしいわ」
珠代は小学生の時を思い出した。
翔平も昔のことが自然と頭に浮かんできた。
珠代の承諾を得た娘たちは、弥吉と一緒に見世物小屋に入って行った。
「おかあさんも無理して連れてくればよかったかしら」
「明日は絶対に連れてこよう」
珠代が頷いた。
秋空は赤く染まり、屋台の店店に明かりがともり始めた。
了
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