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4日目
第22話 四日目:ラム肉バーベキュー@士別バーベキュー
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ワインとイカスミチーズを楽しんでいると、あっという間に夜になった。
私と親友は狸小路へ向かい、予約していた「士別バーベキュー」へ向かう。
「士別バーベキュー」は純国産ラム肉を扱う、新鮮なラム肉店として有名だ。
ラム肉のレバ刺しやユッケなどを提供していることからも、新鮮さに自信があることが分かるだろう。
ラム肉を食べたことがない私は少し緊張していた。
ラム肉はクセェというイメージが私の中にあったからだ。
しかし、親友曰く「士別バーベキュー」のラム肉は他のジンギスカン店より臭みがなく、ラム肉初心者でも抵抗なく食べられるだろうとのこと。
といっても、私も冬場には毎年牡丹鍋を楽しんでいるので、ジビエ特有の臭みにも慣れているはずだ。きっと大丈夫だ、と自分に言い聞かせて店内に入った。
ひとまず私たちはラム肉五種盛を注文した。それなのに七種盛が届いた。店員さんに言うと、注文ミスなのでそのまま食べてくださいと言ってもらえた。
私と親友の顔がほころぶ。なんだなんだ、ラム肉が私たちに食べられたがっているじゃねえか。こりゃあ可愛がってやらねえとな。
届いたのは、チョップ、タンシタ、カルビ、モモ、肩ロース、ラムランプ、イチボ。
肉に疎い私には、肩ロースとモモ以外はどこの部位か全く分からなかった。
ひとまず一番テンションが上がった、骨付き肉のチョップを網の上に載せた。脂がたっぷりなので炎がチョップを舐めまわす。それを親友がヒィヒィ言いながらひっくり返し、ほどよい焼き加減になるまで面倒を見てくれた。
ミディアムレアくらいの焼き加減で、親友がチョップの一片を私の皿に載せる。
どきどきしながら口に入れ、私は「ん"っ!!」と思わず声を上げた。
たぬきの味がする。
いや、たぬきを食べたことがないので分からないが、これはたぬきの味だ。
他の肉では感じたことのない獣臭さが口の中に広がる。
しかし、チョップを頬張る親友はこう言った。
「あっ! すごーい! 全然臭みないね!!」
なんだと。するじゃねえかたぬきの味が。
ラム肉を食べ慣れた親友には感じないのか。
私にしか見えない幽霊が親友のまわりをうろついている気分だ。
私はその幽霊に気付かないふりをして、「うん! おいしいねー!」と言った。
言っておくが、ラム肉は美味い。この臭みがまたジビエ感があって良いし、「士別バーベキュー」だからこそ、濃い味付けをしなくてもラム肉を楽しめた。
しかし私は一種の恐怖を感じたのだ。
このたぬきの味は私だけが感じている幻なのだろうか。私の舌はおかしくなっちまったのだろうか。そもそもなんだたぬきの味って。これはラムだし、たぬきなんか食べたことねえよ。
そしてもうひとつ、私を悩ませたことがあった。
私の胃の唯一の弱点、それが肉だったのだ。
私は乳製品は無限に食べられるが、肉は一般の人よりも少量しか摂取できない。すぐにおなかいっぱいになってしまう。
届いた七種盛は、二~三切れずつ載っていたのだが、私は一切れずつ食べただけで限界を迎えた。
舌の問題ではない。胃の問題だ。ラム肉はうまかった。だから悔しい。
旅行四日目にして、北海道に見抜かれた。私の弱点を……。
なるほど……注文ミスで七種盛を届けたのも北海道の罠か……。やるじゃねえか……。ただでさえ強いのに、容赦なく弱点にクリティカルヒットを食らわせてきやがる。くそぉっ……。
「え? ぽみー食べないの? じゃあ私食べていい?」
「えっ……?」
打ちひしがれていた満身創痍の私に、親友が救いの手を差し伸べた。
「でも……大丈夫……? さっきおなかいっぱいって言ってたのに……」
「あ、うん。赤身肉食べたらおなか減った。もっと食べたい」
「神ぃっ……!」
そう、スウィーツに特化した私と違い、親友は肉も甘い物もいけるオールラウンダーなのだ。そしてなぜか酒と赤身肉を摂取したらおなかが減るらしい。強すぎる。チートスキルだろそんなの。
北海道、見てるか……? 私の目の前にいる、お前が生んだ北海道の民は……こんなに立派に育ったぜ。お前に似て寛大で、料理が上手で、なんでも美味い美味いと言って吸い込む掃除機だ。誇らしいだろう。私も誇らしい。そして心強い。
こうして親友は、残りの肉もぺろりと平らげた。それでも足りなかったのか、チョップの骨にかぎりついて肉を余さず食べ尽くした。親友の食べたあとの皿は本当に綺麗だ。
こうして私は、人生初のラム肉を経験した。
最後までたぬきの味がしたが、これはこれの美味さがあった。
今度はガチのジンギスカンが食べてみたい。
私と親友は狸小路へ向かい、予約していた「士別バーベキュー」へ向かう。
「士別バーベキュー」は純国産ラム肉を扱う、新鮮なラム肉店として有名だ。
ラム肉のレバ刺しやユッケなどを提供していることからも、新鮮さに自信があることが分かるだろう。
ラム肉を食べたことがない私は少し緊張していた。
ラム肉はクセェというイメージが私の中にあったからだ。
しかし、親友曰く「士別バーベキュー」のラム肉は他のジンギスカン店より臭みがなく、ラム肉初心者でも抵抗なく食べられるだろうとのこと。
といっても、私も冬場には毎年牡丹鍋を楽しんでいるので、ジビエ特有の臭みにも慣れているはずだ。きっと大丈夫だ、と自分に言い聞かせて店内に入った。
ひとまず私たちはラム肉五種盛を注文した。それなのに七種盛が届いた。店員さんに言うと、注文ミスなのでそのまま食べてくださいと言ってもらえた。
私と親友の顔がほころぶ。なんだなんだ、ラム肉が私たちに食べられたがっているじゃねえか。こりゃあ可愛がってやらねえとな。
届いたのは、チョップ、タンシタ、カルビ、モモ、肩ロース、ラムランプ、イチボ。
肉に疎い私には、肩ロースとモモ以外はどこの部位か全く分からなかった。
ひとまず一番テンションが上がった、骨付き肉のチョップを網の上に載せた。脂がたっぷりなので炎がチョップを舐めまわす。それを親友がヒィヒィ言いながらひっくり返し、ほどよい焼き加減になるまで面倒を見てくれた。
ミディアムレアくらいの焼き加減で、親友がチョップの一片を私の皿に載せる。
どきどきしながら口に入れ、私は「ん"っ!!」と思わず声を上げた。
たぬきの味がする。
いや、たぬきを食べたことがないので分からないが、これはたぬきの味だ。
他の肉では感じたことのない獣臭さが口の中に広がる。
しかし、チョップを頬張る親友はこう言った。
「あっ! すごーい! 全然臭みないね!!」
なんだと。するじゃねえかたぬきの味が。
ラム肉を食べ慣れた親友には感じないのか。
私にしか見えない幽霊が親友のまわりをうろついている気分だ。
私はその幽霊に気付かないふりをして、「うん! おいしいねー!」と言った。
言っておくが、ラム肉は美味い。この臭みがまたジビエ感があって良いし、「士別バーベキュー」だからこそ、濃い味付けをしなくてもラム肉を楽しめた。
しかし私は一種の恐怖を感じたのだ。
このたぬきの味は私だけが感じている幻なのだろうか。私の舌はおかしくなっちまったのだろうか。そもそもなんだたぬきの味って。これはラムだし、たぬきなんか食べたことねえよ。
そしてもうひとつ、私を悩ませたことがあった。
私の胃の唯一の弱点、それが肉だったのだ。
私は乳製品は無限に食べられるが、肉は一般の人よりも少量しか摂取できない。すぐにおなかいっぱいになってしまう。
届いた七種盛は、二~三切れずつ載っていたのだが、私は一切れずつ食べただけで限界を迎えた。
舌の問題ではない。胃の問題だ。ラム肉はうまかった。だから悔しい。
旅行四日目にして、北海道に見抜かれた。私の弱点を……。
なるほど……注文ミスで七種盛を届けたのも北海道の罠か……。やるじゃねえか……。ただでさえ強いのに、容赦なく弱点にクリティカルヒットを食らわせてきやがる。くそぉっ……。
「え? ぽみー食べないの? じゃあ私食べていい?」
「えっ……?」
打ちひしがれていた満身創痍の私に、親友が救いの手を差し伸べた。
「でも……大丈夫……? さっきおなかいっぱいって言ってたのに……」
「あ、うん。赤身肉食べたらおなか減った。もっと食べたい」
「神ぃっ……!」
そう、スウィーツに特化した私と違い、親友は肉も甘い物もいけるオールラウンダーなのだ。そしてなぜか酒と赤身肉を摂取したらおなかが減るらしい。強すぎる。チートスキルだろそんなの。
北海道、見てるか……? 私の目の前にいる、お前が生んだ北海道の民は……こんなに立派に育ったぜ。お前に似て寛大で、料理が上手で、なんでも美味い美味いと言って吸い込む掃除機だ。誇らしいだろう。私も誇らしい。そして心強い。
こうして親友は、残りの肉もぺろりと平らげた。それでも足りなかったのか、チョップの骨にかぎりついて肉を余さず食べ尽くした。親友の食べたあとの皿は本当に綺麗だ。
こうして私は、人生初のラム肉を経験した。
最後までたぬきの味がしたが、これはこれの美味さがあった。
今度はガチのジンギスカンが食べてみたい。
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