忘れられた姫と猫皇子

kotori

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ランドル皇子

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 フェリシアが今向かっているところ。
 それは、フェリを何よりも幸せにしてくれる人のいる場所だった。

 ここジグラール帝国の第二皇子。
 ……といっても、第一皇子である兄が亡くなっているので、今では皇太子、ランドル・レイ・シアドラー皇子の宮だ。

 初めてランドル皇子に会ったとき、フェリは五歳だった。

 フェリには兄と姉がいる。
 ラムズ公爵夫人との間に生まれた兄、リンジー。
 側室との間に生まれた姉、ラティーシャ。

 側室といっても、ラティーシャの母は由緒正しい貴族の令嬢。
 どこの馬の骨かわからないフェリの母とは全く違うらしい。
 これはステラから聞き飽きるほど聞かされた。でも、五歳のフェリはそんなことは全く知らなかった。
 その頃はまだこの館は賑やかで、フェリの面倒をみてくれる優しい人がたくさんいた。
 家庭教師もたくさんいて、ステラはその一人に過ぎなかった。

 その五歳の秋、兄リンジーの誕生パーティーが開かれた。
 そこにフェリも参加したのだ。
 パーティーなど大人のもので、フェリは見たこともなかったが、
「今日はお兄様のお祝いなので、特別にお呼ばれしたのですよ」
 と周りのみんなが嬉しそうに教えてくれた。

 フェリは可愛らしいドレスを着せてもらい、髪に飾りを付けてパーティーに行った。
 普段離れて暮らしているので、滅多に会わない兄や姉と会い、それから……。
 そう、そこにリンジーの御学友だといって、ランドル皇子も来ていたのだ。
 そのときフェリは……。

 神様がやってきたのかと本気で思った。

 この人は聖堂の壁の絵から抜け出てきたのだと。でなければ、こんなに綺麗な人がいるはずがない、と驚いた。

 ランドル皇子が動くたび、白金プラチナブロンドの髪が揺れる。
 飲み物を飲むとき、何かお話をするとき、綺麗な唇が動く。そしてその瞳。なんて素敵な青だろう。

 こんなに綺麗な人がいるものなのか、と驚いた。
 フェリがあんまりじっと見つめていたので、皇子の隣のリンジーが気付いて声をかけた。
「どうしたの?」
 フェリはランドル皇子の顔から目を離すことが出来ず、そのまま皇子を見上げながら、

「聖堂の天使ですか?」

 と尋ね、一瞬後にあたりはどっと笑い声に包まれた。
 皇子が何かフェリに向かって言ってくれたようだが、周りがうるさいので聞こえなかった。
 
 でも、そのとき確かに、王子はフェリをまっすぐ見てくれたのだ。

 フェリの瞳いっぱいに皇子の顔が広がり、フェリは息をするのも忘れて皇子を見つめた。
 そして、実際息を止めたまま倒れてしまったのだが、フェリにとっては、一生忘れられない宝物のひとときだった。

 あれからずっと、フェリはあのときのランドル皇子の顔を思い浮かべて毎日を過ごした。
 もう一度パーティーに行きたかったが、それから二度とフェリがパーティーに呼ばれることはなかった。

 パーティーどころか、そのあとすぐ、館の使用人たちは一人減り二人減り……、大好きだった家庭教師の先生たちもステラ以外来てくれなくなってしまった。
 優しかった執事はやめてしまい、代わりにレオンが来て……。

 フェリの生活はすっかり変わってしまった。
 なぜみんな居なくなってしまったのかわからなかったが、ステラとレオンが、


 どこの馬の骨かわからない
 愛人の子
 だから
 本当だったら
 追い出されても仕方がない
 のだから


 と繰り返し言うので、そうなのかなと思った。

 最初は寂しくて、居なくなったみんなが恋しかったが、皇子のことを思い出すと我慢することができた。

 自分の持っている、一番美しい思い出……。

 誰もいない館で一人ぼっちの夜も、熱が出て喉が痛く、パンは固すぎて水しか飲めなかったときも、その水を井戸まで汲みに行けなかった日も、雪が降ってるのに薪が足らず、火の気のない部屋のベッドで震えていたときも、……フェリは皇子の顔を思い浮かべれば幸せになれた。

 フェリはいつも皇子を思い浮かべ、それを抱きしめるようにして眠った。
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