忘れられた姫と猫皇子

kotori

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目覚め

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 そして、夏が訪れ、秋になり、ゆっくりと冬がやってきた。

 皇子は一日のほとんどをかごの中で眠って過ごしている。
 時折目を開けてあたりを見回したりするが、水を飲む以外、ほとんどかごから出ることはなかった。
 外見上は傷は見当たらないのだが、体が弱っているのは間違いないようだ。
 グリッグは、「寝てりゃ治る」と言うので、フェリはただただ一心に皇子を見守っていた。

 一方、フェリの毎日は、今までと比べものにならないほど満ち足りた日々だった。
 レオンとステラは相変わらずの態度だったし、この頃では乾涸びた豆とか、ネズミの糞が入っているような雑穀しか持ってこなかったが、グリッグがいるので食べ物に困らなかった。

 グリッグは口は悪いが、とても優しかった。
 どうやって用意するのか分からないが、いつも温かくて美味しい食事をフェリに出してくれた。
 フェリがお礼を言うと、
「こんなこた、朝飯前だ」
 と笑って、大きな手でフェリの頭をがしがし、とした。それは全く痛くなくて気持ちよかった。

 そしてフェリの部屋は、いつの間にか床に厚地の敷物が敷かれ、ふかふかになったベッドには清潔なシーツや枕、ふんわりした羽布団が用意された。
 がらんとしていた隣の部屋には、綺麗なドレスがクローゼットに入り切らず、部屋いっぱいに並べられ、チェストにはアクセサリー、手袋、小さなバッグなど細々したものがぎっしり入っていた。

 冬のお出かけ用にと、毛皮の帽子や襟巻き、暖かそうな外套もあった。もっとも、フェリは皇子の側につききりで、水汲みもグリッグがしてくれるので、ほんの一、二度着てみただけだったが。

 そして一番不思議なのは、レオンもステラもそれが見えないらしい、ということだった。
 フェリの部屋に入ってもそれが目に入らないようで、それらが持ち去られることは、もうなかった。

 やがて雪がとけて、雪割草の芽が顔を出す頃だった。
 
 まだ寒い早朝、皇子がかごの中で首を伸ばした。
 それを見つけたフェリは、かごのそばに走ってきた。
「皇子、まだ寒いですよ。毛布に入って……」
 話しかけながら、毛布を直そうとしたフェリは、途中で目を見開いた。
 皇子がひらりとかごの縁を飛び越えたのだ。

 すくっと立った皇子はそのまま辺りを見廻し、それからかごが載せられていたテーブルの縁までニ、三歩進んだ。滑らかな動きだ。
 そこで立ち止まると、首を傾げるように振り返り、フェリの方を見た。

 白金の長めの毛並みが、まるで豪華なマントでも着ているように体を覆っている。ふさふさの尻尾の先と耳の先だけがほんのりグレー。

 まるで猫の皇子のような気高い姿だった。

 そして、青い、青い瞳。
 それは以前より一層輝きを増し、まるで二つの宝石のようだ。

「おお……じ……」
 おーじ、おーじおーじ……。
 変な声が聞こえると思ったら、それはフェリ自身の声だった。
 気づけば、フェリはわんわん泣きじゃくっていた。
 拳を握りしめて、うわーんうわーん、と泣くフェリの頭を、いつの間にかやってきたグリッグががしがししてくれた。

 皇子が元気に歩いた。
 皇子はもう大丈夫。
 死なない。
 フェリは嬉しくて、涙が止まらなかった。
 目の前のランドル皇子は、困ったような不思議そうな様子でこちらを見ていたがフェリはそれをみる余裕もなく、泣き続けたのだった。
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