女たちは言う。イケメン、美男子、美青年と。

でぃくし

文字の大きさ
22 / 49

人狼はやっぱり人狼なのか……?

しおりを挟む
「デカい虫だな……」

何度目の同じセリフだろうか。
いつの間にか口癖のようになっているが、たかしにその自覚はない。

たかしたちはまだ土の匂いが強く漂う夕刻の工事現場に立っていた。

項垂れたクレーン車の黄色い体が、ライオンに襲われたキリンのように血塗れの土くれの上に横たわる様は、人間たちの日常が突然に奪い去られたことを示しているかのようであった。

「うっす!カニムシは分類上、昆虫ではなくめちゃサソリに近いっす!」
「……」

ありちゃんの言葉にたかしは思う。

(成長したな、ありちゃん)

ハサミムシ討伐の後もたかしたちの快進撃は続いていた。

異形の怪物たちが見るものは犠牲者の臓腑ではなく、金属バットを楽し気に振り上げるありちゃんの姿だ。
そして、怪物たちが最後に聞くものは人間の断末魔ではなく、自身の五体がばらばらに砕け散る音だ。

(俺たちは最強のチームだ)

ありちゃんが暴れ、たかしはお茶を濁す。
ありちゃんが殺し、たかしはお茶は飲む。

ありちゃんだけでも、もはや殲滅は余裕なのだから、そこにたかしの力が加わればこの世に敵など存在しない。
そんな風にたかしは考えていた。

しかし……。

「……大丈夫か、二人とも」

目の前で怪物の残骸がぐつぐつと煮えたぎっている。
赤変したコンクリートはひび割れており、強い力を加えられた鉄骨はぐにゃりと形を変えていた。

工事現場に突如として現れた裂け目の怪物たち。

急遽、殲滅に乗り出した『チームたかしあたけありちゃんズ』だったが、結果は惨々たるものだった。
怪物に逃げられたとか犠牲者が出てしまったとかそういう問題ではない。

近隣の住民や現場の作業員たちは、ありちゃんの暴走によってとっくに蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまっている。
この場に彼ら以外の人影はない。

「うっす!先輩ってすげえかっこいいっす!ちょーつええっす!」
「ありちゃん、あたけを守ってくれてありがとうな」

「……あ、ありがとう。ありちゃん」
「うっす!あたけ先輩は仲間っす!お安い御用っす!」
「あ、あはは」

ありちゃんの脇に抱えられたままあたけは引きつった笑みを浮かべ、ありちゃんはきらきらと目を輝かせながらたかしを見つめていた。

たかしは思う。

(……あたけにはもっと頑張ってもらわないとな)

結果として、工事現場に突如として現れたカニムシのような裂け目の怪物のすべてはたかしがあっさり倒してしまった。

ちょっと雑魚を相手に新必殺技を試してみたいという気持ちもあったものの、それよりもたかしはあたけに活躍の場を与えようとしていた。

しかし、いくらたかしが薔薇を背負った美青年と言えど何もかも彼の想定通りに行くとは限らない。

特にイケメンの傍らに、かわいらしく元気いっぱいで、身長185センチを超える筋肉質な女の子がいる場合はトラブルが起きる。世の中そういうものなのだ。

工事現場に到着した際、ありちゃんはどうしても金属バットではなく鉄骨を振り回したくなったようで、なんとコンクリートの基礎の上ですでに組み立てられてボルトで固定されている鉄骨を引きずりだそうという暴挙に出たのだ!

彼女を見れば誰もが思うはずだろう。
せめて地面に並べて置いてあるものを使えよと。

ありちゃんが突然持っていた金属バットを放り投げて、建物を崩すような勢いで鉄骨を持ち上げ始めた時、たかしは慌てて彼女を止めようとした。

だが、あたけはありちゃんが唸り声を上げて鉄骨を引き抜こうとしたことに驚き、後ずさりした拍子にモルタルをかき混ぜるバケツに足を取られ、バケツの中にすっぽりとはまり込んでしまった。

流石にたかしはありちゃんを叱ったのだが、当の本人はたかしに肩を掴まれてその美しく鋭い瞳で見つめられてしまうと、消え入りそうな声でうっすうっすと頬を染めながらもじもじと照れるばかりで反省している様子はまったくなかった。

「……俺たちはチームだからな」

そして結局、裂け目の怪物はたかしが倒すことになってしまった。

あたけはバケツに尻を入れたまま腰を抜かし、ありちゃんはあたけを入れたバケツを抱えて走り回っただけに終わった。

カニムシに関しては特筆すべきことは何もない。

たかしにとってそれについて考えるのは、椅子から立ち上がった後になって、クッションの上に微生物がいたかどうかを気にすることと同じく、無意味極まりないことだ。

「うっす!先輩もあたけ先輩もチームっす!家族っす!」
「……そうだね」

「あたけ先輩、立てるっすか?」
「あ、ああ……ありがとう、大丈夫だよ」
「……」

あたけの存在は日に日に強くなるありちゃんの陰に隠れて縮こまっているようだった。
カニムシの残骸を回収しながら、たかしは口を開く。

「あたけ、お前はまだ弱い。だから強くなれ」
「……ああ」
「これからも俺と一緒に訓練を続けよう」
「わかってるよ」
「うっす!先輩!あたしも先輩と訓練するっす!」

「もちろんだ。……だけどありちゃんはもう十分強いから、あたけとは別メニューだな」
「うっす!わかりましたっす!」

「あたけ、お前はこの俺がガンドライドの訓練生の中からわざわざ引き抜いた逸材なんだぞ。もう少し自信を持て」
「ははは……がんばるよ……」

たかしはあたけににこりと微笑んでみせる。物は言いようだ。
しかし、あたけはその言葉に焦りを感じたかのように力なく笑うだけであった。

ありちゃんがくんくんと鼻をならし、期待に満ちた目で焦げついた怪物の残骸を見つめる。

「うっす!たかし先輩!あたし、このカニムシが食えるのか試してみるっす!」

たかしはちらりとありちゃんの視線の先を見て、首を横に振った。

「やめておいたほうがいいな」
「ええ~どうしてっすか?だってカニだし、先輩も食ってみたいっしょ?ほら、これとか美味しそうな匂いするっすよ」

「いや、その……そもそもカニじゃないし、そういうことじゃなくてだな……」
「どういうことっすか?」

ありちゃんは不思議そうに首を傾げる。

「いや、だって……そいつらは人間を食べる怪物なんだぞ?」
「へっ?」
「うわっ!?手っ、手が出ているじゃないか!き、気持ち悪い!」
「あっ、本当っす!ちょーこえーっす!」

バケツの中でじたばたともがいていたあたけはそのままと横に倒れ、地面をごろんと転がる。

たかしの指先でずたずたに切り裂かれたカニムシの腹からは血塗れの人間の手や髪の毛がついた皮膚が飛び出ていた。
あたけを入れたバケツが残骸にぶつかると、あたけは悲鳴を上げながらそれを見まいと目を背けるのだった。

「ひぃーっ!!」

たかしは思う。

(まあ、確かにいい匂いはするけどな……食いたいのか、人間の手とか……)

たかしは相変わらず少しズレていたが、それでも彼はチームを想い、彼なりに仲間のことを考えて行動していた。

そんなイケメンに対し、ありちゃんが先輩と後輩、上司と部下という立場を越えた思いを寄せてしまうことは無理からぬことなのかもしれない。

(うっす!先輩にあたしのことをもっと見てもらいたいっす!もっともっと暴れて、押しまくってやるっすよ~♪)

しかし、たかしの喫緊の課題は、戦士の家系に生まれたエリート人狼の女ではなく同族たる吸血鬼のあたけだ。

彼はどういうわけか、吸血鬼としての力を発揮しないままに日々を過ごしている。
それは機会に恵まれないのか、もしくはあたけ自身にそのつもりがないのか。

(あたけがこのままでは、俺たちのチームはいずれ空中分解してしまう)

俺たちのチーム、そう『チームたかしあたけありちゃんズ』を守らねば……。

たかしはあたけをじっと見つめ、そして決意を新たにするのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...