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闇は強大だ 闇は全てを覆い尽くす 闇は訳もなく不安を与える 不安は恐怖を生じさせ、恐怖は混乱を招く 混乱が誤解を生み、誤解が恨みを創り出す 恨みは憎しみを伴い、憎しみは復讐に変わる 復讐はやがて暴君を呼び起こし、暴君は殺戮へとつながる
殺戮は闇を育て上げ、肥大化した闇は最後、二度と光を受け付けなくなる
DIRECTION
快晴の大空の下に広がるグラウンド、その光景を校舎の窓から眺める青年は日々馳せる思いを今日も募らせる。
(授業暇……帰りて~)
黒板を走るチョークの音で教師の視線がこちらにないことを確信している上白飛頼はペンの手を止めて気を抜く。クラスメイトと楽しく過ごす時間はあれど昼食も午後の授業も掃除も何となく過ぎ、ホームルームを迎えた飛頼の耳に隣の女子生徒の楽しそうなささやきが聞こえてきた。
「ね~聞いた?転校生の話」「うん……見た。噂通りだったけど想像以上だった」
「嘘⁉上白は見た?転校生!」
急に話を振られた飛頼は答える。
「いや、その話自体今知ったし」
答えた後で飛頼は思う。
(イケメン転校生ね~。さ~て誰が彼女になるかな。てか俺も彼女いたら学校楽しかったりするんだろ~な~)
一人考えを巡らせながら帰路に着くころ、急な雨に自分が傘を持っていないことに気づき、飛頼は走り出す。
(今日快晴って聞いてたぞ!お天気お姉さ~ん!相合傘して~!)
体を打ち付ける大雨に堪らず、飛頼は目に入ったカフェのオーニングの下に入り込んだ。
「なんだこの天気……」
そうぼやいているとベルの音とともにカフェのドアが開いた。
「いらっしゃい」
60代だろうと思われる男が笑顔で飛頼を迎える。
「いや、俺はちょっと雨をしのごうと思いまして……すみません」
そう告げてまた走り出そうとする飛頼をカフェの男性は止める。
「ちょっと待つんじゃ。コーヒー飲んで行けなんて思ってないから大丈夫じゃよ。この雨はもうすぐ止む。それまでここで雨宿りしていくといい」「なぜ雨が止むってわかるんですか?」「わしは超能力者なんじゃよ」
サラッとジョークをかましてくるカフェの男性に飛頼は思わず笑みを浮かべる。
「ふふっ君は素直じゃの。まあただの夕立だからじゃよ」
そう言ってカフェの男性はドアを開けた。
店内は主に暗めのブラウンの配色と暖かみのある照明で落ち着いた雰囲気を感じさせる。
カフェの男性はバックヤードへ向かい、飛頼は入り口付近のカウンター席に座りテレビを見る。テレビではニュースが流れていた。
「昨日午後9時頃○○県△△市で殺人事件がありました。犯人は未だ逃亡中で……」
(どーせ捕まっても死刑にはならないんだろ)
飛頼はニュースを見ながら諦めにも似た殺意を覚えた。こういった理不尽を目の当たりにするたびに自分に力があればと思うのは以前から飛頼に宿る正義感にも似た危険な思考であった。
(同じ目に合わせねーと気がすまねぇだろーな。被害の当人もその周囲のに……⁉)
被害側の痛みを考えていた飛頼はいきなり正体不明の圧迫感に襲われた。
(なんだ⁉金縛りか?……後ろを振り向けない……!)
飛頼は体が動かない中で何とか視線を下におろし自分の体を確認する。
(カウンターに押さえつけられてねぇのにどうして動かないんだよ……)
押し付けるような圧迫感に苦しくなり,鼓動が速くなる。飛頼が次第に意識が遠のいていくのを感じているとそこへカフェの男性が戻ってきた。
「聞こえるかの?しっかりするんじゃ」
意識が遠のく飛頼にカフェの男性は冷静に呼びかけるが飛頼は意識を失ってしまう。
ーー
「ん?」
飛頼は目覚めると外にいた。見渡す限りの大地に飛頼は違和感を覚える。
(俺は……どうしてここに……)
「こんなもので私を抑え込めると?お前たちの講じた策が一時的なものにすぎないことをいずれ思い知ることになる。その時に教えてやる。私の望む世界を」
急に聞こえてきた声に振り向くと6人の人間が何か会話をしていた。
「この一時的な策がわしらに長い時間と大きな力をもたらす。お前の考える世界がどんなものかは知らんが力を封じた程度でお前を完全に抑えられるほど簡単とは思っておらんよ」
そう話すのはさっきまでいたはずのカフェの男性だった。服装は全く違ったが飛頼ははっきりと顔を確認することができた。しかし反対にもう一人の声の主とカフェの男性の隣にいた4人の人物の顔を確認する間もなく目の前の光景がゆがみ始める。
(目覚めたんじゃない。夢の中ってことか?でもやけにはっきりしてんだよな)
歪んだと思った目の前の光景は違う光景を映し出した。それはどこの誰とも知らぬ人々の日常だった。一見平和に見える光景だが映し出される人たちの目はどこか冷たく、光がさしていないように見えた。
(ただ機嫌が悪いとかそういうレベルじゃないな。何かの病気なのか?)
異様な雰囲気に気を取られていると年老いた女性がベンチに座る光景が映し出され、そこへ5・6才の男の子が現れる。この男の子も冷たい目をした少年だった。少年は板チョコを取り出しバリバリとかみ砕き始める。味を分かっているのかいないのか苦みの強いブラックのチョコレートを一気に食べてしまった。
「うぅ……」
その横で先に座っていたおばあさんが急に苦しみ始める。俯きながら苦しむおばあさんの横で少年はそれを気にせず立ち上がり、その場を立ち去ろうとしている。
「おいおい、待てよ。誰か呼べよ……おい!」
飛頼は届かない声を少年にぶつけるように発するが、少年は助けを探すどころか去り際に一言だけ残していった。
「うるさいなぁ」
その言葉に飛頼は怒りを超えて絶望した。
「このガキ……マジか」
そしてその光景を最後に目の前が真っ白になり、飛頼は夢から覚める。
「ん……?」
「目覚めたかの?これを飲むといい」
カフェの男性は飛頼に水を差しだす。
「今、変なゆ……⁉」
話し始めて飛頼はとっさに後ろを振り向く。そこには壁に掛けられた奇妙なプレートがあった。そのプレートは真っ白で、目をイメージさせるオブジェにチェーンのついたネックレスを型どっている。そして飛頼は瞬間的に察した。
(こいつだ。この変な石板に夢を見させられたんだ。でもそんなことってあるのか?いや、この人も怪しくないか?どうして俺の夢に出てきた?さっきの会話の意味は何だ?)
疑いの目を奇妙なプレートとカフェの男性に向ける飛頼。そんな飛頼にカフェの男性は話しかける。
「見た夢の内容を教えてくれるかの?」「その前に、何者なんですか?そしてこの石板みたいなものは何ですか?どうして俺が夢を見たとわかるんですか?」「ん~……話してもよいがここから先の話は信じられんじゃろうな。まあ気にするなと言う方が無理な話か」
カフェの男性はそう言って自己紹介をし始める。
「わしは翼神優志。ただのカフェのマスターじゃよ。その石板の説明は君の夢の話を聞いてからでもよいかの?」
飛頼はその自己紹介に満足していなかった。
「ただのカフェのマスターがなぜ俺の夢に出てきたんですか?偶然とは思えないのですが……」
そう言いながら飛頼は夢の中で見た内容をすべて伝えた。
「まず君が見たのは夢ではなくこのプレートが見せた過去と未来じゃ。君は過去のわしを見たというわけじゃよ。そして過去で見た場所はこの世界ではない海鏡というもう一つの世界」「ビュート?」「この世界に似ておるが流れる空気が違っての。酸素・二酸化炭素・窒素等に加えて亜活気と言う目に見えぬエネルギーが流れておる。それは一般的な人間には何も影響せず地球の人間が仮に触れることがあっても問題ない。しかしある一定の者には絶大な力をもたらす」「どんな人に力を与えるんですか?」「光伝と闇潜と言うエルガイアを扱える人間じゃよ。アティスはエルガイアを使ってビュートを繁栄させることを考え、ヴァイスはエルガイアを使ってビュートから争いを無くそうと考えておる者たちでの、対立しておる」「目的が繁栄と争いのない世界だったら協力出来そうですけど……」「繁栄と平和だったらの。わしが言ったのは争いがない世界、ヴァイスのやり方は人の心を削ることで憎しみや恨みと言った感情を抑え込もうとする考えでの。アティスの目的とは反対なんじゃよ」「心を削る=喜びや悲しみ、楽しみや悩みも削ってしまうから……と言うことですか」「その通り。そして君が後から見た光景は人間が心を削られた世界の光景じゃよ。つまり未来じゃの」
そう言われ飛頼は未来の光景を思い出す。
(あんな世界、心削られなくてもおかしくなりそうだが……)
「さて、そこで石板が何なのかを教えるかの。これは眼鎖と言ってな、力を与えたり奪ったりするプレートじゃ。力を与えると消え、力を奪うと現れる」「もしかして力を奪った相手ってさっきの……」「わしが過去の光景の中で話しておった相手じゃよ。奴は強力で危険な存在だったため排除することが決まっておったんじゃがそれは難しくてな。力をこのアイデックの中に封じたんじゃよ」
飛頼は信じがたいファンタジーとアイデックと呼ばれるプレートの説明を受け、考えを巡らせる。
(この人が言ってることは超怪しいって言うか信じがたいのだけど俺が見た過去ってやつに出てきてんだよな~ ただこのカフェはこの人が元々いた空間、つまりは何か細工をして催眠術をかけてきてるのかも……とりあえずここから離れた方が良さそうだよな)
席を立ち、飛頼は雨宿りの礼と他言無用を約束する。
「タオルと水、ありがとうございました。ここでのことは他の人には言いません」
「いや、言っても信じる者は一人としておらんじゃろ いるとしたら非現実的な話に興味を持つ者か君をヤバイヤツと思う者かじゃな」
そう言ってカフェのマスターは微笑み、飛頼もつられて笑い返しながらカフェのドアを開ける。
「言い忘れておったがアイデックが見せた過去はビュートじゃが、おそらく未来はこの世界を見せたはず その未来が100年後なのか明日なのかは分からんが、止められる者、止めるべき者が止めない限り必ず来るじゃろう わしはそう言った者を探しておるだけじゃよ 何か困ったときはまた来なさい」
意味深な言葉に引っ掛かりながらも飛頼は分かったとだけ返事をしてカフェを出た。
帰路の中、赤信号で足を止めてカフェで聞いた話を振り返る。
「いつもだったらそんな話聞けば楽しいのにマジっぽいから笑えないんだよな……ふっ」
言葉とは矛盾した笑みを浮かべた飛頼は信号が青く光ったことに気づかなかったが、急に背後から吹く風に飛頼は背中を押されて前を見る。
歩みを進める飛頼はいつもの日常に帰っていく。
殺戮は闇を育て上げ、肥大化した闇は最後、二度と光を受け付けなくなる
DIRECTION
快晴の大空の下に広がるグラウンド、その光景を校舎の窓から眺める青年は日々馳せる思いを今日も募らせる。
(授業暇……帰りて~)
黒板を走るチョークの音で教師の視線がこちらにないことを確信している上白飛頼はペンの手を止めて気を抜く。クラスメイトと楽しく過ごす時間はあれど昼食も午後の授業も掃除も何となく過ぎ、ホームルームを迎えた飛頼の耳に隣の女子生徒の楽しそうなささやきが聞こえてきた。
「ね~聞いた?転校生の話」「うん……見た。噂通りだったけど想像以上だった」
「嘘⁉上白は見た?転校生!」
急に話を振られた飛頼は答える。
「いや、その話自体今知ったし」
答えた後で飛頼は思う。
(イケメン転校生ね~。さ~て誰が彼女になるかな。てか俺も彼女いたら学校楽しかったりするんだろ~な~)
一人考えを巡らせながら帰路に着くころ、急な雨に自分が傘を持っていないことに気づき、飛頼は走り出す。
(今日快晴って聞いてたぞ!お天気お姉さ~ん!相合傘して~!)
体を打ち付ける大雨に堪らず、飛頼は目に入ったカフェのオーニングの下に入り込んだ。
「なんだこの天気……」
そうぼやいているとベルの音とともにカフェのドアが開いた。
「いらっしゃい」
60代だろうと思われる男が笑顔で飛頼を迎える。
「いや、俺はちょっと雨をしのごうと思いまして……すみません」
そう告げてまた走り出そうとする飛頼をカフェの男性は止める。
「ちょっと待つんじゃ。コーヒー飲んで行けなんて思ってないから大丈夫じゃよ。この雨はもうすぐ止む。それまでここで雨宿りしていくといい」「なぜ雨が止むってわかるんですか?」「わしは超能力者なんじゃよ」
サラッとジョークをかましてくるカフェの男性に飛頼は思わず笑みを浮かべる。
「ふふっ君は素直じゃの。まあただの夕立だからじゃよ」
そう言ってカフェの男性はドアを開けた。
店内は主に暗めのブラウンの配色と暖かみのある照明で落ち着いた雰囲気を感じさせる。
カフェの男性はバックヤードへ向かい、飛頼は入り口付近のカウンター席に座りテレビを見る。テレビではニュースが流れていた。
「昨日午後9時頃○○県△△市で殺人事件がありました。犯人は未だ逃亡中で……」
(どーせ捕まっても死刑にはならないんだろ)
飛頼はニュースを見ながら諦めにも似た殺意を覚えた。こういった理不尽を目の当たりにするたびに自分に力があればと思うのは以前から飛頼に宿る正義感にも似た危険な思考であった。
(同じ目に合わせねーと気がすまねぇだろーな。被害の当人もその周囲のに……⁉)
被害側の痛みを考えていた飛頼はいきなり正体不明の圧迫感に襲われた。
(なんだ⁉金縛りか?……後ろを振り向けない……!)
飛頼は体が動かない中で何とか視線を下におろし自分の体を確認する。
(カウンターに押さえつけられてねぇのにどうして動かないんだよ……)
押し付けるような圧迫感に苦しくなり,鼓動が速くなる。飛頼が次第に意識が遠のいていくのを感じているとそこへカフェの男性が戻ってきた。
「聞こえるかの?しっかりするんじゃ」
意識が遠のく飛頼にカフェの男性は冷静に呼びかけるが飛頼は意識を失ってしまう。
ーー
「ん?」
飛頼は目覚めると外にいた。見渡す限りの大地に飛頼は違和感を覚える。
(俺は……どうしてここに……)
「こんなもので私を抑え込めると?お前たちの講じた策が一時的なものにすぎないことをいずれ思い知ることになる。その時に教えてやる。私の望む世界を」
急に聞こえてきた声に振り向くと6人の人間が何か会話をしていた。
「この一時的な策がわしらに長い時間と大きな力をもたらす。お前の考える世界がどんなものかは知らんが力を封じた程度でお前を完全に抑えられるほど簡単とは思っておらんよ」
そう話すのはさっきまでいたはずのカフェの男性だった。服装は全く違ったが飛頼ははっきりと顔を確認することができた。しかし反対にもう一人の声の主とカフェの男性の隣にいた4人の人物の顔を確認する間もなく目の前の光景がゆがみ始める。
(目覚めたんじゃない。夢の中ってことか?でもやけにはっきりしてんだよな)
歪んだと思った目の前の光景は違う光景を映し出した。それはどこの誰とも知らぬ人々の日常だった。一見平和に見える光景だが映し出される人たちの目はどこか冷たく、光がさしていないように見えた。
(ただ機嫌が悪いとかそういうレベルじゃないな。何かの病気なのか?)
異様な雰囲気に気を取られていると年老いた女性がベンチに座る光景が映し出され、そこへ5・6才の男の子が現れる。この男の子も冷たい目をした少年だった。少年は板チョコを取り出しバリバリとかみ砕き始める。味を分かっているのかいないのか苦みの強いブラックのチョコレートを一気に食べてしまった。
「うぅ……」
その横で先に座っていたおばあさんが急に苦しみ始める。俯きながら苦しむおばあさんの横で少年はそれを気にせず立ち上がり、その場を立ち去ろうとしている。
「おいおい、待てよ。誰か呼べよ……おい!」
飛頼は届かない声を少年にぶつけるように発するが、少年は助けを探すどころか去り際に一言だけ残していった。
「うるさいなぁ」
その言葉に飛頼は怒りを超えて絶望した。
「このガキ……マジか」
そしてその光景を最後に目の前が真っ白になり、飛頼は夢から覚める。
「ん……?」
「目覚めたかの?これを飲むといい」
カフェの男性は飛頼に水を差しだす。
「今、変なゆ……⁉」
話し始めて飛頼はとっさに後ろを振り向く。そこには壁に掛けられた奇妙なプレートがあった。そのプレートは真っ白で、目をイメージさせるオブジェにチェーンのついたネックレスを型どっている。そして飛頼は瞬間的に察した。
(こいつだ。この変な石板に夢を見させられたんだ。でもそんなことってあるのか?いや、この人も怪しくないか?どうして俺の夢に出てきた?さっきの会話の意味は何だ?)
疑いの目を奇妙なプレートとカフェの男性に向ける飛頼。そんな飛頼にカフェの男性は話しかける。
「見た夢の内容を教えてくれるかの?」「その前に、何者なんですか?そしてこの石板みたいなものは何ですか?どうして俺が夢を見たとわかるんですか?」「ん~……話してもよいがここから先の話は信じられんじゃろうな。まあ気にするなと言う方が無理な話か」
カフェの男性はそう言って自己紹介をし始める。
「わしは翼神優志。ただのカフェのマスターじゃよ。その石板の説明は君の夢の話を聞いてからでもよいかの?」
飛頼はその自己紹介に満足していなかった。
「ただのカフェのマスターがなぜ俺の夢に出てきたんですか?偶然とは思えないのですが……」
そう言いながら飛頼は夢の中で見た内容をすべて伝えた。
「まず君が見たのは夢ではなくこのプレートが見せた過去と未来じゃ。君は過去のわしを見たというわけじゃよ。そして過去で見た場所はこの世界ではない海鏡というもう一つの世界」「ビュート?」「この世界に似ておるが流れる空気が違っての。酸素・二酸化炭素・窒素等に加えて亜活気と言う目に見えぬエネルギーが流れておる。それは一般的な人間には何も影響せず地球の人間が仮に触れることがあっても問題ない。しかしある一定の者には絶大な力をもたらす」「どんな人に力を与えるんですか?」「光伝と闇潜と言うエルガイアを扱える人間じゃよ。アティスはエルガイアを使ってビュートを繁栄させることを考え、ヴァイスはエルガイアを使ってビュートから争いを無くそうと考えておる者たちでの、対立しておる」「目的が繁栄と争いのない世界だったら協力出来そうですけど……」「繁栄と平和だったらの。わしが言ったのは争いがない世界、ヴァイスのやり方は人の心を削ることで憎しみや恨みと言った感情を抑え込もうとする考えでの。アティスの目的とは反対なんじゃよ」「心を削る=喜びや悲しみ、楽しみや悩みも削ってしまうから……と言うことですか」「その通り。そして君が後から見た光景は人間が心を削られた世界の光景じゃよ。つまり未来じゃの」
そう言われ飛頼は未来の光景を思い出す。
(あんな世界、心削られなくてもおかしくなりそうだが……)
「さて、そこで石板が何なのかを教えるかの。これは眼鎖と言ってな、力を与えたり奪ったりするプレートじゃ。力を与えると消え、力を奪うと現れる」「もしかして力を奪った相手ってさっきの……」「わしが過去の光景の中で話しておった相手じゃよ。奴は強力で危険な存在だったため排除することが決まっておったんじゃがそれは難しくてな。力をこのアイデックの中に封じたんじゃよ」
飛頼は信じがたいファンタジーとアイデックと呼ばれるプレートの説明を受け、考えを巡らせる。
(この人が言ってることは超怪しいって言うか信じがたいのだけど俺が見た過去ってやつに出てきてんだよな~ ただこのカフェはこの人が元々いた空間、つまりは何か細工をして催眠術をかけてきてるのかも……とりあえずここから離れた方が良さそうだよな)
席を立ち、飛頼は雨宿りの礼と他言無用を約束する。
「タオルと水、ありがとうございました。ここでのことは他の人には言いません」
「いや、言っても信じる者は一人としておらんじゃろ いるとしたら非現実的な話に興味を持つ者か君をヤバイヤツと思う者かじゃな」
そう言ってカフェのマスターは微笑み、飛頼もつられて笑い返しながらカフェのドアを開ける。
「言い忘れておったがアイデックが見せた過去はビュートじゃが、おそらく未来はこの世界を見せたはず その未来が100年後なのか明日なのかは分からんが、止められる者、止めるべき者が止めない限り必ず来るじゃろう わしはそう言った者を探しておるだけじゃよ 何か困ったときはまた来なさい」
意味深な言葉に引っ掛かりながらも飛頼は分かったとだけ返事をしてカフェを出た。
帰路の中、赤信号で足を止めてカフェで聞いた話を振り返る。
「いつもだったらそんな話聞けば楽しいのにマジっぽいから笑えないんだよな……ふっ」
言葉とは矛盾した笑みを浮かべた飛頼は信号が青く光ったことに気づかなかったが、急に背後から吹く風に飛頼は背中を押されて前を見る。
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