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14 積木
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優志はその場を去る。
「ア…アンノーン…大丈夫か?」
「あいつ…1週間…経つと…か必ず俺を…な…殴りに来るんだ…」
飛頼が震えているとヴォルグが寄ってくる。
「アンノーン 結局偶然だったんだろ?言ったろ 次は俺だ ってな あのジイさんの何が怖いんだよ」
「お前は知らないんだ…ヤツの強さを…」
「で?マードを扱うやつがそんなザマを晒すってか?向いてないなお前 アティスにしろヴァイスにしろ」
「何だと…もう一度やっても良いんだぞ ここならマードの制限もない」
飛頼の表情が一瞬で切り替わる。
「おいおいローウェンのルールで禁止されてるだろ やめとけって」
飛頼は止められて冷静になる。
「お前らだってあいつのヤバさを知ればこうなる…」
飛頼はそう言って一人歩き出す。
次の日、飛頼は受付の女性に一人でトレーニングできないか問いかける。
「うーん そうですね…貴方がここへ来たときもそうだったようにカードさえ持っていればある程度自由にトレーニングを受けられるので偶然一人でトレーニングを受けることは起きるかもしれませんが…意図的には難しいかもしれません…」
「そうですか…」
「お困り?」
「え?」
飛頼が受付の女性と話していると違う女性が話しかけてくる。
(めちゃくちゃ美人…てか受付の人とかトレーニング仲間とか皆顔選考なのか?アイドルとかモデルすればいいのにってヤツ多いよな…)
「私がトレーニングしよっか?今から!」
「はい?トレーナーなの?」
「まあそんなとこかな?いいですよね!お姉さん!」
女性は受付の女性へウインクする。
「え…ええ!どうぞ!」
「今からなら1時間休憩よね?マスター使っても?」
「はい!」
(随分スンナリ通るな…この人…ここの偉い人なのか?)
ルームとして使われている海辺へ向かう途中で飛頼は質問する。
「あの…ローウェンの持ち主とか何か権力持ってる人ですか?」
「え?違うよ」
「普通のトレーナーではなさそうでしたけど…さっき」
「そっちと同じここのトレーニングメンバー 他にも女子いたでしょ?」
「メンバーなら受付の人がトレーニングさせるはず無いでしょう?」
「ん~エルガイアで操作したの」
「え!?そんなことできるの!?でも確か女性はアティスに適合しないって聞いたことあるけど…」
「うっそ~♪」
「何だよ」
「ほらっ!トレーニングしたくないの?時間ないんだよ?」
「ああ…お願いします」
他のトレーナーと同じようにマードのトレーニングをしてもらう飛頼。だが本気で向かうことで怪我をさせるのではないかと全力で挑むことはなくトレーニングが終わる。
飛頼は結局女性の正体を知ることができなかったが名前はファルディアということが分かった。
「アンノーン どうして一人でトレーニングしたかったの?」
「それは…なんとなくだよ」
飛頼は最近トレーニング中の自分の強さに自信がついてきていたためよく時間帯が被るメンバーには明るく接していた。そんな中、昨日の情けない自分を見られてしまったことでメンバーとは顔を合わせたくなかった。
「てかマード出せるならやっぱアティスなんでしょ?」
「このローウェン全体がエルガイアの多い空間になっているから じゃなかったら適合低い人は皆マード出せない てか1ヶ月以上いるなら他の人に聞けなかったの?」
「女子って話しかけづらいじゃん?男に聞いてもボランダがどうとかって難しい話するし」
「プホッ」
「何だよ」
「いや 別に ボランダは多分アンノーンも知ってるはず シャボン玉みたいなエルガイアの空間 それがこのローウェン全体にあるみたいなイメージ」
「あ~!そゆこと!ファルディアは名前誰につけてもらったの?マーディアルアティスにつけてもらうんでしょ?」
「またいつか教える」
「何でもったいぶるんだよ…」
「まあまあ 着いたよ」
受付へ戻り、飛頼は拠点に帰る。
「今日はありがとうファルディア また頼むかも」
「いえいえ いつでもど~ぞ~♪」
ファルディアにトレーニングを受けてから6日後のトレーニングの帰りで飛頼は優志に警戒していた。
(そろそろ来るだろ…びびんな…大丈夫…確実に強くなっていってる…毎日欠かさず鍛えてるんだ…)
ファルディアは最初に会ったとき以来現れず飛頼は仕方なく人数が少ない時間帯にトレーニングを受け、一人で帰るようにしていた。
(何でだ 何でこんな人避けてんだ 自信がついてたのに同時にそれを崩すようにあのクズが攻撃してくるからだ 皆の前で俺をビビらせて楽しんでやがった 今日こそ斬り刻んでやる)
「な 何で…」
「ヴァイスだ…に…逃げろ…」
一人歩いていると他のルームのトレーニングが終わった帰りであろう人達の集まりが目に入る。
「何だ?今ヴァイスって?」
飛頼は走る。
「ローウェンメンバー お前らはヴァイスとアティス どっちにつくんだ?返答次第で俺の行動は変わる バシュムドに迎えるかオーサにするか さあ 応えろ」
「…」
ローウェンメンバーはヴァイスを前に酷く怯えている。
「黙っていれば誰かが来ると思っているなら勘違いだ」
ヴァイスはそう言ってローウェンメンバーに近づく。
「らあぁー!」
反射的に飛頼はヴァイスにマードを斬りつける。ヴァイスは素手で飛頼のマードを掴む。
「何だお前」
(素手!?やっぱり相当力の差が?)
「消えろ」
ヴァイスは飛頼のマードを力で退かして吹き飛ばす。
「だぁっ!」
飛頼は20メートル近く飛ばされて体を打ちつける。
「アンノーン!大丈夫か!」
「動くな」
飛頼を心配する者を一言で止めるヴァイス。
「アハッ!カハッ!どしたんだよ皆…動けよ」
「面白い これ程の力の差でも圧倒されない だが動けるだけでは意味がない」
武器を失った飛頼に一瞬でヴァイスが接近し足を振り上げる。
(に…逃げろ…)
圧倒的力と速さに飛頼は追いつけない。
「カードの意味はあったな」
そこへダルクが割って入る。ヴァイスのキックを青いマードで止める。
「ダルク…?」
「違う流青 蒼河だ」
「え?」
「今のお前は2人なら闘える マードを取れ 上白飛頼」
「お…おう!」
飛頼はマードを拾いヴァイスの背後から斬りかかる。
ヴァイスは片手で飛頼のマードを止める。
「ダルク お前このザコについてどうするつもりだ」
「上白飛頼 マードに乗せられるものは力だけじゃない 経験 思い 感情 エルガイアは目に見えない全ての事象から力を得る」
飛頼はヴァイスからマードを離し、もう一度振りかぶる。
(積み重ねてきたもの全てぶつけろ!自信 後悔 努力 経験 怒り 不安 迷い 喜び 誇り 恨み 憎しみ 期待 楽しさ 弱さ 強さ こいつを…ヴァイスを斬る!)
マードがヴァイスの手を斬りつけるとザリーグのときのような青い液体が滲む。
「思ったよりできるな ダルクは後だ」
ヴァイスは飛頼に集中する。マードの速い斬撃が飛頼に傷をつけ始める。
(ヤバい…このままじゃ)
空かさず流青蒼河が援護に入る。
「お前は後方援護だ」
「あ…ああ」
蒼河とヴァイスの斬撃に圧倒され飛頼は戦闘に立ち入ることができない。
(隙を見つけろ)
飛頼はヴァイスの背中に斬りかかる。
「らぁ!」
ヴァイスはそれを狙って蒼河との斬り合いから一瞬下がる。空を斬る飛頼へヴァイスがマードを振り下ろす。
「おわっ!」
バランスを崩す飛頼を蒼河が引き寄せマードで攻撃を凌ぐ。
「フッ…まあ良い」
ヴァイスは攻撃を止め、その場を去る。
「助かった 何で逃げたんだ?」
蒼河は答える代わりに周りを見る。気づけば周囲は人だかりになっていた。
「HQに知られたらアティスの増援が来る」
「HQ?」
「上白飛頼 明日ローウェンへ来い」
「お…おう…てか俺の質問は?何で名前知ってんの!?おい!」
蒼河はその場を後にする。
「また無視かい…気取り過ぎだって…」
「アンノーン…お前は…」
ローウェンメンバーが話しかけてくる。
「ん…何だ?」
「ヴァイスなのか?」
「いや アティス…アティスを目指してる…者?」
「だったら何でダルクと共闘してるんだ?何でヴァイスに挑んでいけた?前線経験者か何かか?」
「だって皆が危なかったし…」
「それ…だけ?」
「ああ…何だよおかしいか?」
「名前も無い 属性もないアティスが?昨日のじいさん怖がってたアティスが?どう考えたって負け決定のアティスが何で怖くなかったんだよ?」
「そこまで言わなくても…」
「負けたら消えるって分かってるよな?」
「な…」
飛頼はザリーグが蒼河に負けたときを思い出す。
(どうして…挑めた…いや…覚悟はあった…でもヴァイスの強さはアティス一人では追いつけないって分かってた ザリーグの強さで体感した)
「恐怖と覚悟の違いは何だと思う?」
ローウェンメンバー達との会話に入ってきたのは優志だった。
「お…おまえ…」
飛頼は後ずさる。
「ゲームをしよう」
「…は?」
「君がわしに一撃当てられたらわしは君への攻撃を止める」
「当てられなかったら?」
「また続くかもしれないな」
「ハッ!」
飛頼は会話中に突然動き出す。
(これしかない あいつが油断してる時しかチャンスはない!)
「っらあ!」
飛頼は優志の左肩から右脇腹へマードを斬りつける。優志は優しく笑う。
「え…」
飛頼は優志に魂心の一撃を当てたが傷1つつかない。
「それでいいのか?斬りたくて仕方ない相手が無傷で無防備で突っ立ってるんだぞ?」
「バカにしてんのか?」
「いや」
「わざと当てさせてやっと届いた攻撃も意味がないって言いてんだろ!」
「反省かな」
「は?」
「君を恐怖のどん底へ叩き落とした反省 大丈夫簡単に傷つかないから」
優志はまた笑う。
「じゃあ…」
飛頼は剣の形になっているマードを優志の顔へ向ける。
「何でそんなことした」
「気分で」
「んん!」
飛頼はもう一度斬りつける。
(マジで斬れない…)
「首から上を斬ったらどうなる」
「さあ 試してみたらどうだ?」
飛頼は優志の余裕に更に強い怒りを表す。マードを握る手に力が入る。
「力みすぎじゃ それでは振り抜く度に強くなれないぞ」
その言葉と同時に飛頼は顔に向けてマードを振り抜く。
優志は瞬き1つせずただ飛頼を見ている。
「それも嘘だろ!」
飛頼は蒼河の時と同じ自分に気づくが考えより先に体が動く。それを止められない。
「いい加減はっきり言えよ!」
飛頼は全く通らない攻撃に目、鼻、口、耳、と狙いを変える。
それでも無傷の優志に対して飛頼の腕は疲弊する。マードを振っているうちにマードが手から離れるが飛頼は気にせず素手で殴りにかかる。
優志は全く動じない。
「フッ!フッ!…あ?…」
殴りながら飛頼は自分の手の異変に気づく。
「え…これ…」
飛頼の拳から青い血が流れていた。
「どうした?」
「俺はアティスになる予定だったはず…」
「君はアティスじゃよ?」
「だったら…これは何だよ」
「ベルアを習得したんじゃよ」
「…」
「ベルアは君を護っているエルガイアだが護りきれないと傷ついていく 傷ついてベルアの内側のエルガイアが外気に触れると液化して青くなる 地球の言葉ではBA」
「BA?」
「アラートブルー 現状での戦闘継続を検討しなければならない状態」
「だったら紫は」
「PCで コーションパープル 戦闘継続を即座に中止しなければならない注紫だけに…ブフッ!」
「ふざけてんじゃねぇ」
「まあピリピリしなさんな」
「無理があるだろ」
「最後がRD デンジャーレッド 消失寸前」
「し…消失…」
「エルガイアを司る者はエルガイアを失うと代償として自分自身がエルガイアになってしまう」
飛頼はザリーグが消えたときを思い出す。
(じゃあ…あのヴァイスはやっぱり…やっぱり俺は甘えてたんだこの翼神の存在に 覚悟が出来てた…そう思ってた…でも…怖いのは変わらない…いや…怖かったか?マードを通して伝わる奴らの力は勝てないと分かるのに…そうだ…怖くなかった…こいつで積み上げた恐怖のせいで…)
「ア…アンノーン…大丈夫か?」
「あいつ…1週間…経つと…か必ず俺を…な…殴りに来るんだ…」
飛頼が震えているとヴォルグが寄ってくる。
「アンノーン 結局偶然だったんだろ?言ったろ 次は俺だ ってな あのジイさんの何が怖いんだよ」
「お前は知らないんだ…ヤツの強さを…」
「で?マードを扱うやつがそんなザマを晒すってか?向いてないなお前 アティスにしろヴァイスにしろ」
「何だと…もう一度やっても良いんだぞ ここならマードの制限もない」
飛頼の表情が一瞬で切り替わる。
「おいおいローウェンのルールで禁止されてるだろ やめとけって」
飛頼は止められて冷静になる。
「お前らだってあいつのヤバさを知ればこうなる…」
飛頼はそう言って一人歩き出す。
次の日、飛頼は受付の女性に一人でトレーニングできないか問いかける。
「うーん そうですね…貴方がここへ来たときもそうだったようにカードさえ持っていればある程度自由にトレーニングを受けられるので偶然一人でトレーニングを受けることは起きるかもしれませんが…意図的には難しいかもしれません…」
「そうですか…」
「お困り?」
「え?」
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(めちゃくちゃ美人…てか受付の人とかトレーニング仲間とか皆顔選考なのか?アイドルとかモデルすればいいのにってヤツ多いよな…)
「私がトレーニングしよっか?今から!」
「はい?トレーナーなの?」
「まあそんなとこかな?いいですよね!お姉さん!」
女性は受付の女性へウインクする。
「え…ええ!どうぞ!」
「今からなら1時間休憩よね?マスター使っても?」
「はい!」
(随分スンナリ通るな…この人…ここの偉い人なのか?)
ルームとして使われている海辺へ向かう途中で飛頼は質問する。
「あの…ローウェンの持ち主とか何か権力持ってる人ですか?」
「え?違うよ」
「普通のトレーナーではなさそうでしたけど…さっき」
「そっちと同じここのトレーニングメンバー 他にも女子いたでしょ?」
「メンバーなら受付の人がトレーニングさせるはず無いでしょう?」
「ん~エルガイアで操作したの」
「え!?そんなことできるの!?でも確か女性はアティスに適合しないって聞いたことあるけど…」
「うっそ~♪」
「何だよ」
「ほらっ!トレーニングしたくないの?時間ないんだよ?」
「ああ…お願いします」
他のトレーナーと同じようにマードのトレーニングをしてもらう飛頼。だが本気で向かうことで怪我をさせるのではないかと全力で挑むことはなくトレーニングが終わる。
飛頼は結局女性の正体を知ることができなかったが名前はファルディアということが分かった。
「アンノーン どうして一人でトレーニングしたかったの?」
「それは…なんとなくだよ」
飛頼は最近トレーニング中の自分の強さに自信がついてきていたためよく時間帯が被るメンバーには明るく接していた。そんな中、昨日の情けない自分を見られてしまったことでメンバーとは顔を合わせたくなかった。
「てかマード出せるならやっぱアティスなんでしょ?」
「このローウェン全体がエルガイアの多い空間になっているから じゃなかったら適合低い人は皆マード出せない てか1ヶ月以上いるなら他の人に聞けなかったの?」
「女子って話しかけづらいじゃん?男に聞いてもボランダがどうとかって難しい話するし」
「プホッ」
「何だよ」
「いや 別に ボランダは多分アンノーンも知ってるはず シャボン玉みたいなエルガイアの空間 それがこのローウェン全体にあるみたいなイメージ」
「あ~!そゆこと!ファルディアは名前誰につけてもらったの?マーディアルアティスにつけてもらうんでしょ?」
「またいつか教える」
「何でもったいぶるんだよ…」
「まあまあ 着いたよ」
受付へ戻り、飛頼は拠点に帰る。
「今日はありがとうファルディア また頼むかも」
「いえいえ いつでもど~ぞ~♪」
ファルディアにトレーニングを受けてから6日後のトレーニングの帰りで飛頼は優志に警戒していた。
(そろそろ来るだろ…びびんな…大丈夫…確実に強くなっていってる…毎日欠かさず鍛えてるんだ…)
ファルディアは最初に会ったとき以来現れず飛頼は仕方なく人数が少ない時間帯にトレーニングを受け、一人で帰るようにしていた。
(何でだ 何でこんな人避けてんだ 自信がついてたのに同時にそれを崩すようにあのクズが攻撃してくるからだ 皆の前で俺をビビらせて楽しんでやがった 今日こそ斬り刻んでやる)
「な 何で…」
「ヴァイスだ…に…逃げろ…」
一人歩いていると他のルームのトレーニングが終わった帰りであろう人達の集まりが目に入る。
「何だ?今ヴァイスって?」
飛頼は走る。
「ローウェンメンバー お前らはヴァイスとアティス どっちにつくんだ?返答次第で俺の行動は変わる バシュムドに迎えるかオーサにするか さあ 応えろ」
「…」
ローウェンメンバーはヴァイスを前に酷く怯えている。
「黙っていれば誰かが来ると思っているなら勘違いだ」
ヴァイスはそう言ってローウェンメンバーに近づく。
「らあぁー!」
反射的に飛頼はヴァイスにマードを斬りつける。ヴァイスは素手で飛頼のマードを掴む。
「何だお前」
(素手!?やっぱり相当力の差が?)
「消えろ」
ヴァイスは飛頼のマードを力で退かして吹き飛ばす。
「だぁっ!」
飛頼は20メートル近く飛ばされて体を打ちつける。
「アンノーン!大丈夫か!」
「動くな」
飛頼を心配する者を一言で止めるヴァイス。
「アハッ!カハッ!どしたんだよ皆…動けよ」
「面白い これ程の力の差でも圧倒されない だが動けるだけでは意味がない」
武器を失った飛頼に一瞬でヴァイスが接近し足を振り上げる。
(に…逃げろ…)
圧倒的力と速さに飛頼は追いつけない。
「カードの意味はあったな」
そこへダルクが割って入る。ヴァイスのキックを青いマードで止める。
「ダルク…?」
「違う流青 蒼河だ」
「え?」
「今のお前は2人なら闘える マードを取れ 上白飛頼」
「お…おう!」
飛頼はマードを拾いヴァイスの背後から斬りかかる。
ヴァイスは片手で飛頼のマードを止める。
「ダルク お前このザコについてどうするつもりだ」
「上白飛頼 マードに乗せられるものは力だけじゃない 経験 思い 感情 エルガイアは目に見えない全ての事象から力を得る」
飛頼はヴァイスからマードを離し、もう一度振りかぶる。
(積み重ねてきたもの全てぶつけろ!自信 後悔 努力 経験 怒り 不安 迷い 喜び 誇り 恨み 憎しみ 期待 楽しさ 弱さ 強さ こいつを…ヴァイスを斬る!)
マードがヴァイスの手を斬りつけるとザリーグのときのような青い液体が滲む。
「思ったよりできるな ダルクは後だ」
ヴァイスは飛頼に集中する。マードの速い斬撃が飛頼に傷をつけ始める。
(ヤバい…このままじゃ)
空かさず流青蒼河が援護に入る。
「お前は後方援護だ」
「あ…ああ」
蒼河とヴァイスの斬撃に圧倒され飛頼は戦闘に立ち入ることができない。
(隙を見つけろ)
飛頼はヴァイスの背中に斬りかかる。
「らぁ!」
ヴァイスはそれを狙って蒼河との斬り合いから一瞬下がる。空を斬る飛頼へヴァイスがマードを振り下ろす。
「おわっ!」
バランスを崩す飛頼を蒼河が引き寄せマードで攻撃を凌ぐ。
「フッ…まあ良い」
ヴァイスは攻撃を止め、その場を去る。
「助かった 何で逃げたんだ?」
蒼河は答える代わりに周りを見る。気づけば周囲は人だかりになっていた。
「HQに知られたらアティスの増援が来る」
「HQ?」
「上白飛頼 明日ローウェンへ来い」
「お…おう…てか俺の質問は?何で名前知ってんの!?おい!」
蒼河はその場を後にする。
「また無視かい…気取り過ぎだって…」
「アンノーン…お前は…」
ローウェンメンバーが話しかけてくる。
「ん…何だ?」
「ヴァイスなのか?」
「いや アティス…アティスを目指してる…者?」
「だったら何でダルクと共闘してるんだ?何でヴァイスに挑んでいけた?前線経験者か何かか?」
「だって皆が危なかったし…」
「それ…だけ?」
「ああ…何だよおかしいか?」
「名前も無い 属性もないアティスが?昨日のじいさん怖がってたアティスが?どう考えたって負け決定のアティスが何で怖くなかったんだよ?」
「そこまで言わなくても…」
「負けたら消えるって分かってるよな?」
「な…」
飛頼はザリーグが蒼河に負けたときを思い出す。
(どうして…挑めた…いや…覚悟はあった…でもヴァイスの強さはアティス一人では追いつけないって分かってた ザリーグの強さで体感した)
「恐怖と覚悟の違いは何だと思う?」
ローウェンメンバー達との会話に入ってきたのは優志だった。
「お…おまえ…」
飛頼は後ずさる。
「ゲームをしよう」
「…は?」
「君がわしに一撃当てられたらわしは君への攻撃を止める」
「当てられなかったら?」
「また続くかもしれないな」
「ハッ!」
飛頼は会話中に突然動き出す。
(これしかない あいつが油断してる時しかチャンスはない!)
「っらあ!」
飛頼は優志の左肩から右脇腹へマードを斬りつける。優志は優しく笑う。
「え…」
飛頼は優志に魂心の一撃を当てたが傷1つつかない。
「それでいいのか?斬りたくて仕方ない相手が無傷で無防備で突っ立ってるんだぞ?」
「バカにしてんのか?」
「いや」
「わざと当てさせてやっと届いた攻撃も意味がないって言いてんだろ!」
「反省かな」
「は?」
「君を恐怖のどん底へ叩き落とした反省 大丈夫簡単に傷つかないから」
優志はまた笑う。
「じゃあ…」
飛頼は剣の形になっているマードを優志の顔へ向ける。
「何でそんなことした」
「気分で」
「んん!」
飛頼はもう一度斬りつける。
(マジで斬れない…)
「首から上を斬ったらどうなる」
「さあ 試してみたらどうだ?」
飛頼は優志の余裕に更に強い怒りを表す。マードを握る手に力が入る。
「力みすぎじゃ それでは振り抜く度に強くなれないぞ」
その言葉と同時に飛頼は顔に向けてマードを振り抜く。
優志は瞬き1つせずただ飛頼を見ている。
「それも嘘だろ!」
飛頼は蒼河の時と同じ自分に気づくが考えより先に体が動く。それを止められない。
「いい加減はっきり言えよ!」
飛頼は全く通らない攻撃に目、鼻、口、耳、と狙いを変える。
それでも無傷の優志に対して飛頼の腕は疲弊する。マードを振っているうちにマードが手から離れるが飛頼は気にせず素手で殴りにかかる。
優志は全く動じない。
「フッ!フッ!…あ?…」
殴りながら飛頼は自分の手の異変に気づく。
「え…これ…」
飛頼の拳から青い血が流れていた。
「どうした?」
「俺はアティスになる予定だったはず…」
「君はアティスじゃよ?」
「だったら…これは何だよ」
「ベルアを習得したんじゃよ」
「…」
「ベルアは君を護っているエルガイアだが護りきれないと傷ついていく 傷ついてベルアの内側のエルガイアが外気に触れると液化して青くなる 地球の言葉ではBA」
「BA?」
「アラートブルー 現状での戦闘継続を検討しなければならない状態」
「だったら紫は」
「PCで コーションパープル 戦闘継続を即座に中止しなければならない注紫だけに…ブフッ!」
「ふざけてんじゃねぇ」
「まあピリピリしなさんな」
「無理があるだろ」
「最後がRD デンジャーレッド 消失寸前」
「し…消失…」
「エルガイアを司る者はエルガイアを失うと代償として自分自身がエルガイアになってしまう」
飛頼はザリーグが消えたときを思い出す。
(じゃあ…あのヴァイスはやっぱり…やっぱり俺は甘えてたんだこの翼神の存在に 覚悟が出来てた…そう思ってた…でも…怖いのは変わらない…いや…怖かったか?マードを通して伝わる奴らの力は勝てないと分かるのに…そうだ…怖くなかった…こいつで積み上げた恐怖のせいで…)
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