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13 春風
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飛頼はダルクの落としたプラスチックカードを拾う。
「いつつ…やる気でね…マジでうぜ…あ?学生証?でも名前と写真がない…エルガイアローウェン…」
飛頼は拠点に入りプラスチックカードに書いてあるエルガイアローウェンという文字を検索にかける。
「あった…アクセスしか載ってないけど…そんなに遠くないな」
飛頼はエルガイアローウェンへ向かうか躊躇する。
(アティスに関係する何かだろ もう痛い目みたくな…)
飛頼は自分の言葉に気づく。
(俺はあの人が守ってくれると思って甘えてたのか?そうだ…でも実際守ってくれるって言ってた…じゃなきゃ普通来ないだろ)
『退屈な日常から逃げた 机に向かってペンを走らせることから逃げた 現実から逃げたんだよ』
『世界のためではなく力を得るためだろ』
『俺は自分を戒める力がない!』
(何大声で叫んでんだよ…ダッセ…明日行ってみるか…)
飛頼は翌日 エルガイアローウェン という施設に向かう。アクセスに従って着いた先は小さい建物だった。
「あれ?ここらへんのはずだけど…まさか…これ?」
飛頼が近づくとドアが開く。
(前情報無さすぎて分かんねーよ)
未知の世界の未知の施設に戸惑いながらもドアを抜けるとスピーカーから声が聞こえる。
「カードをお持ちですか?」
「え?ああ…これですか?」
「はい そちらを左手にあるレンズに提示してください」
飛頼はカードをレンズに向ける。
「ローウェンメンバー アンノーン キーをアンロックします」
そのアナウンスとともに部屋が静かに動く感覚が伝わってくる。
(エレベーター?)
ドアが開くとそこには地上からは想像できない空間が広がっていた。
(マジか…)
地球に存在する一般的な学校のグラウンド程の広さのホールに多くの人が歩いている。ライトに照らされるその空間はあたり一面、白で統一されていて地下とは思えないほどの明るさと清潔感がある。
「こんにちは」
呆気に取られていると先程のスピーカーの男性が話しかけてくる。
「こんにちは…」
「カードはどういった経路で入手されましたか?」
「え?あ…ダルクっていうアティスから貰いました」
そう言った直後、飛頼は少し考えた。
(待て 言っていいのか?あいつヴァイスに『お前もヴァイスだろ』って…)
「かしこまりました 受付へ案内いたします」
「あ…はい…」
(皆が皆知ってるって感じでもないのか…)
受付ではプラスチックカードへのデータ入力がされ、飛頼は女性にエルガイアローウェンの説明を受ける。
「データはこのローウェン全ての端末に入りました ここは全てのエルガイアを極める方へ提供される トレーニングエリアです このカードはローウェンを使用する資格のある方へ提供資格者から渡されるカード 渡された者はその時点でこの施設の使用権を与えられます 全てのトレーナーへ貴方のデータは転送済みです ここから見える5つのドアどこからでもお進みいただけます 左から 栄養補給 体質管理 体質強化を行うボディメイキング エルガイアを使った術式エルグを極めるエルグアップ マードの斬撃 剣術を極めるマスター 体を守るエルガイアのベルアを強化するベルアアップ 精神の強化 恐怖心の希薄化 集中力を高めるフォーカスサポート となっております」
(ベルア…俺が知りたかった防御のエルガイアだ)
「これってどこからでも大丈夫ですか?」
「ええ お好きなところをどうぞ」
女性は笑顔で応える。
「わかりました ありがとうございます」
飛頼は迷わずベルアアップのドアをぶ。
「わぁ チャレンジャー…」
「え…ヤバい?」
「行ってらっしゃいませ♪」
飛頼は急に不安にさせられたがそのまま進んだ。長方形の空間に電車の吊り革のような持ち手が付いている。
「行ってらっしゃいませ♪ニコッ じゃねぇよ こえ…おわ!」
急に慣性の力がかかり飛頼はバランスを崩す。
「何だ?電車か?」
持ち手に掴まり飛頼は気づく。
「海だ!海の中走ってる!」
窓の外を魚を始めとする生き物が泳いでいる。少しして窓は地下鉄のように暗くなり動きが止まる。ドアの向こうへ進むと最初とは反対に部屋ごと飛頼は上に移動する。
「下がって…海の中走って…上がって…この施設どれだけ広いんだ?」
ドアが開くとそこは砂浜だった。振り返れば飛頼を運んできた電車のような移動装置が止まっていて後ろには綺麗な海が広がっている。
「こんにちは アンノーン お待ちしてました」
「あ…こんにちは…よろしくお願いします」
若い男性が飛頼を迎える。
「マード…出せますか?」
「え?…ええ」
飛頼はマードを出す。そこへ相手が軽くマードを当てる。
「ベルアアップを担当しています ヴァイケンと言います よろしく アンノーンは今の貴方の仮称です 名前はマーディアルアティスに命名されるまでお待ち下さい」
(マ…何だって?階級的な?)
その後に続き、生徒らしき人達と次々とマードを交わしていく。交わしていく内に飛頼は2つのことに気づく。
(これ…相手の力量が分かる…いや…エルガイア?鍛えてるだけあるな…てか皆も名前ないのか?誰も教えてくれないけど…待った!女の子いんじゃん!アティスって男しか成れないんじゃなかったっけ?)
「それではアンノーン以外はさっきまでの続きを!アンノーンはこちらへ!」
「あっはい!」
「君はガテア出身?ビュート出身?」
「ガテア?」
「OK地球ね!ガテアとは地球のことを指す言葉です」
(ガテア…どこかで…)
飛頼が考えているとヴァイケンは話を進める。
「早速ベルアを身に付けましょう!腹筋を鍛えてみましょう!」
「腹筋?…それって上体を起こすやつですか?」
「そうです!」
飛頼はその日ヴァイケンによってひたすら筋力をつけさせられた。
(絶対筋肉痛だわ…しんど…)
「お疲れ様 アンノーン君に課題を与えるよ 時間をかけていいから帰ってからも今日やったことを反復してください 各種最低100回!」
「分かりました」
アティスになり始めた飛頼にとってその回数は決して厳しいものではなかった。ベルアアップをメインにして他のルームのトレーニングも重ねて一週間が経った。中庭で休んでいると優志が現れる。
「は?」
飛頼は攻撃に移りたかったが周囲の目が気になり動けなかった。
「やあ アンノーン」
「何しに来た」
「分かってるだろう?」
飛頼は身構えるが優志は既に目の前にいた。
「うっ!」
飛頼は優志の攻撃に受け身を取るが大きく吹き飛ばされる。
顔を上げると既に優志は姿を消していた。
(くっ!今までとは比にならない力じゃねーかよ ダメだ一人じゃ勝てない)
それからも一週間ごとに優志は姿を現しては飛頼を殴り飛ばし蹴り飛ばした。
「またかよ!もういいだろ!」
飛頼は訴えかけるが吹き飛ばされる。
「なあ 俺が何かしたのか?」
吹き飛ばされる。
「分かった!俺は甘いよ!だからもういいだろ?」
吹き飛ばされる。
気づけば飛頼は、優志への怒りより恐怖が勝っていた。だが飛頼は拠点に引きこもりはせずひたすらローウェンへ通った。
「はぁ! ふん!」
「そこまで!アンノーンいい動きです!」
飛頼は1年間地球でマードを振り続けていたためか5つのルームの内、マスターだけは成績が良かった。
「あいつここへ来て1ヶ月くらいだろ?」
「ねぇねぇ あれが噂の?」
「多分どこかで鍛えてたんだろ?」
「でもガテア出身らしいぞ」
「ガテアでも適合レベル高いやつはいるだろ?」
「俺は見たことないけどな」
飛頼は気分が良かった。優志には適正がないDランクと伝えられていたためローウェンでも苦労すると覚悟していたが実際は周囲が尊敬するほどの実力があると判明した。
「じゃあ俺が相手になるぜ」
一人の大男が飛頼に近づいてくる。マスタールームのトレーニングとして試合が始まる。
「アンノーン 実力があるのに名前が当てられてないのは何故だ?」
「さあ こっちが聞きたい」
飛頼はまっすぐ見つめて返す。
(何だろう…勝負事だってのに緊張しない…)
「それではヴォルグVSアンノーンによるマスタールーム マードデモプレイを開始する!」
トレーナーの声とともに二人は互いに斬りかかる。マスタールームのデモプレイエリアには強力なエルガイアによってマードが剣に切り替わらないようになっているため互いに本気でぶつかることができる。体格差では圧倒的ヴォルグが優勢だったが飛頼はそれを気にせず真っ向からマードを受ける。
(ガタイだけじゃない こいつはエルガイアを全力で使ってきてる)
「はぁ!」
マードを押し返して攻撃へ転じる。
(この1ヶ月ボディメイキングでできるだけご飯食べて ベルアアップで筋肉つけた マードに関してはあのクズから1年間ずっと訓練してもらったからな この場はエルグも要らない だとしたら…)
飛頼はマードでの攻撃を続けていく。ヴォルグは何度も反撃に転じようとするが飛頼はその全てを先読みして完封していく。
(気持ちで負けずに集中するだけ!)
飛頼はヴォルグの左膝にマードを振り抜く。
「くあっ!」
マードが叩きつけられた音が響き渡る。
「ヴォルグに勝ったぞ!」
「アンノーン!」
「剣裁きハンパねえ」
「私達もマード教えてもらっちゃう?」
「あり!」
「君たち…そういう話はトレーナーの俺がいないところでしなさい…」
飛頼は倒れているヴォルグに手を差し出すがヴォルグはそれを振り払う。
「次は俺だ まあ待ってろ」
ヴォルグは立ち去る。
(そんな睨まなくっても…)
「うい」
一人の男子が拳を向けてきたため飛頼はそれに応える。
「お…おう」
飛頼は称賛の嵐の中で内心高揚していた。
(もっと強くなるぞ)
それからは飛頼の周りに人が集まるようになっていた。
(何か…アティスも普通の人間も変わらないな…魅力 実力 権力 財力 腕力 体力 あらゆる力に皆惹かれる)
飛頼は地球では感じたことのないような優越感と同時にアティスへの勝手な理想が崩れてしまったことへの失望を感じていた。
(俺は…ねじ曲がってる…?)
トレーニングからの帰りも飛頼の話を聞くため人が集まりがちだった。
「さて週一の試練じゃ」
飛頼がその日同じ時間帯にトレーニングしていた仲間と話していると優志が現れる。
「ん?アンノーンどした?」
「何か震えてね?」
優志との一方的な戦闘はいつしか飛頼に完全な恐怖を与えていた。
「ねえ どしたの?」
「聞こえてねーのか…?」
飛頼は動けない。優志は一瞬で飛頼に詰め寄る。
「うわぁ!」
飛頼はその場にしゃがみ込む。
「何だ今の動き!」
「あんた…誰だよ…」
優志は笑顔で応える。
「いやいや 強そうな者がいるな~と思ったけど わしの勘違いだったようじゃ 君らはわしが怖いかい?」
「え…いや…」
「だろう?ほら 彼は大したことない 皆 気をつけてかえるんじゃよ?」
「いつつ…やる気でね…マジでうぜ…あ?学生証?でも名前と写真がない…エルガイアローウェン…」
飛頼は拠点に入りプラスチックカードに書いてあるエルガイアローウェンという文字を検索にかける。
「あった…アクセスしか載ってないけど…そんなに遠くないな」
飛頼はエルガイアローウェンへ向かうか躊躇する。
(アティスに関係する何かだろ もう痛い目みたくな…)
飛頼は自分の言葉に気づく。
(俺はあの人が守ってくれると思って甘えてたのか?そうだ…でも実際守ってくれるって言ってた…じゃなきゃ普通来ないだろ)
『退屈な日常から逃げた 机に向かってペンを走らせることから逃げた 現実から逃げたんだよ』
『世界のためではなく力を得るためだろ』
『俺は自分を戒める力がない!』
(何大声で叫んでんだよ…ダッセ…明日行ってみるか…)
飛頼は翌日 エルガイアローウェン という施設に向かう。アクセスに従って着いた先は小さい建物だった。
「あれ?ここらへんのはずだけど…まさか…これ?」
飛頼が近づくとドアが開く。
(前情報無さすぎて分かんねーよ)
未知の世界の未知の施設に戸惑いながらもドアを抜けるとスピーカーから声が聞こえる。
「カードをお持ちですか?」
「え?ああ…これですか?」
「はい そちらを左手にあるレンズに提示してください」
飛頼はカードをレンズに向ける。
「ローウェンメンバー アンノーン キーをアンロックします」
そのアナウンスとともに部屋が静かに動く感覚が伝わってくる。
(エレベーター?)
ドアが開くとそこには地上からは想像できない空間が広がっていた。
(マジか…)
地球に存在する一般的な学校のグラウンド程の広さのホールに多くの人が歩いている。ライトに照らされるその空間はあたり一面、白で統一されていて地下とは思えないほどの明るさと清潔感がある。
「こんにちは」
呆気に取られていると先程のスピーカーの男性が話しかけてくる。
「こんにちは…」
「カードはどういった経路で入手されましたか?」
「え?あ…ダルクっていうアティスから貰いました」
そう言った直後、飛頼は少し考えた。
(待て 言っていいのか?あいつヴァイスに『お前もヴァイスだろ』って…)
「かしこまりました 受付へ案内いたします」
「あ…はい…」
(皆が皆知ってるって感じでもないのか…)
受付ではプラスチックカードへのデータ入力がされ、飛頼は女性にエルガイアローウェンの説明を受ける。
「データはこのローウェン全ての端末に入りました ここは全てのエルガイアを極める方へ提供される トレーニングエリアです このカードはローウェンを使用する資格のある方へ提供資格者から渡されるカード 渡された者はその時点でこの施設の使用権を与えられます 全てのトレーナーへ貴方のデータは転送済みです ここから見える5つのドアどこからでもお進みいただけます 左から 栄養補給 体質管理 体質強化を行うボディメイキング エルガイアを使った術式エルグを極めるエルグアップ マードの斬撃 剣術を極めるマスター 体を守るエルガイアのベルアを強化するベルアアップ 精神の強化 恐怖心の希薄化 集中力を高めるフォーカスサポート となっております」
(ベルア…俺が知りたかった防御のエルガイアだ)
「これってどこからでも大丈夫ですか?」
「ええ お好きなところをどうぞ」
女性は笑顔で応える。
「わかりました ありがとうございます」
飛頼は迷わずベルアアップのドアをぶ。
「わぁ チャレンジャー…」
「え…ヤバい?」
「行ってらっしゃいませ♪」
飛頼は急に不安にさせられたがそのまま進んだ。長方形の空間に電車の吊り革のような持ち手が付いている。
「行ってらっしゃいませ♪ニコッ じゃねぇよ こえ…おわ!」
急に慣性の力がかかり飛頼はバランスを崩す。
「何だ?電車か?」
持ち手に掴まり飛頼は気づく。
「海だ!海の中走ってる!」
窓の外を魚を始めとする生き物が泳いでいる。少しして窓は地下鉄のように暗くなり動きが止まる。ドアの向こうへ進むと最初とは反対に部屋ごと飛頼は上に移動する。
「下がって…海の中走って…上がって…この施設どれだけ広いんだ?」
ドアが開くとそこは砂浜だった。振り返れば飛頼を運んできた電車のような移動装置が止まっていて後ろには綺麗な海が広がっている。
「こんにちは アンノーン お待ちしてました」
「あ…こんにちは…よろしくお願いします」
若い男性が飛頼を迎える。
「マード…出せますか?」
「え?…ええ」
飛頼はマードを出す。そこへ相手が軽くマードを当てる。
「ベルアアップを担当しています ヴァイケンと言います よろしく アンノーンは今の貴方の仮称です 名前はマーディアルアティスに命名されるまでお待ち下さい」
(マ…何だって?階級的な?)
その後に続き、生徒らしき人達と次々とマードを交わしていく。交わしていく内に飛頼は2つのことに気づく。
(これ…相手の力量が分かる…いや…エルガイア?鍛えてるだけあるな…てか皆も名前ないのか?誰も教えてくれないけど…待った!女の子いんじゃん!アティスって男しか成れないんじゃなかったっけ?)
「それではアンノーン以外はさっきまでの続きを!アンノーンはこちらへ!」
「あっはい!」
「君はガテア出身?ビュート出身?」
「ガテア?」
「OK地球ね!ガテアとは地球のことを指す言葉です」
(ガテア…どこかで…)
飛頼が考えているとヴァイケンは話を進める。
「早速ベルアを身に付けましょう!腹筋を鍛えてみましょう!」
「腹筋?…それって上体を起こすやつですか?」
「そうです!」
飛頼はその日ヴァイケンによってひたすら筋力をつけさせられた。
(絶対筋肉痛だわ…しんど…)
「お疲れ様 アンノーン君に課題を与えるよ 時間をかけていいから帰ってからも今日やったことを反復してください 各種最低100回!」
「分かりました」
アティスになり始めた飛頼にとってその回数は決して厳しいものではなかった。ベルアアップをメインにして他のルームのトレーニングも重ねて一週間が経った。中庭で休んでいると優志が現れる。
「は?」
飛頼は攻撃に移りたかったが周囲の目が気になり動けなかった。
「やあ アンノーン」
「何しに来た」
「分かってるだろう?」
飛頼は身構えるが優志は既に目の前にいた。
「うっ!」
飛頼は優志の攻撃に受け身を取るが大きく吹き飛ばされる。
顔を上げると既に優志は姿を消していた。
(くっ!今までとは比にならない力じゃねーかよ ダメだ一人じゃ勝てない)
それからも一週間ごとに優志は姿を現しては飛頼を殴り飛ばし蹴り飛ばした。
「またかよ!もういいだろ!」
飛頼は訴えかけるが吹き飛ばされる。
「なあ 俺が何かしたのか?」
吹き飛ばされる。
「分かった!俺は甘いよ!だからもういいだろ?」
吹き飛ばされる。
気づけば飛頼は、優志への怒りより恐怖が勝っていた。だが飛頼は拠点に引きこもりはせずひたすらローウェンへ通った。
「はぁ! ふん!」
「そこまで!アンノーンいい動きです!」
飛頼は1年間地球でマードを振り続けていたためか5つのルームの内、マスターだけは成績が良かった。
「あいつここへ来て1ヶ月くらいだろ?」
「ねぇねぇ あれが噂の?」
「多分どこかで鍛えてたんだろ?」
「でもガテア出身らしいぞ」
「ガテアでも適合レベル高いやつはいるだろ?」
「俺は見たことないけどな」
飛頼は気分が良かった。優志には適正がないDランクと伝えられていたためローウェンでも苦労すると覚悟していたが実際は周囲が尊敬するほどの実力があると判明した。
「じゃあ俺が相手になるぜ」
一人の大男が飛頼に近づいてくる。マスタールームのトレーニングとして試合が始まる。
「アンノーン 実力があるのに名前が当てられてないのは何故だ?」
「さあ こっちが聞きたい」
飛頼はまっすぐ見つめて返す。
(何だろう…勝負事だってのに緊張しない…)
「それではヴォルグVSアンノーンによるマスタールーム マードデモプレイを開始する!」
トレーナーの声とともに二人は互いに斬りかかる。マスタールームのデモプレイエリアには強力なエルガイアによってマードが剣に切り替わらないようになっているため互いに本気でぶつかることができる。体格差では圧倒的ヴォルグが優勢だったが飛頼はそれを気にせず真っ向からマードを受ける。
(ガタイだけじゃない こいつはエルガイアを全力で使ってきてる)
「はぁ!」
マードを押し返して攻撃へ転じる。
(この1ヶ月ボディメイキングでできるだけご飯食べて ベルアアップで筋肉つけた マードに関してはあのクズから1年間ずっと訓練してもらったからな この場はエルグも要らない だとしたら…)
飛頼はマードでの攻撃を続けていく。ヴォルグは何度も反撃に転じようとするが飛頼はその全てを先読みして完封していく。
(気持ちで負けずに集中するだけ!)
飛頼はヴォルグの左膝にマードを振り抜く。
「くあっ!」
マードが叩きつけられた音が響き渡る。
「ヴォルグに勝ったぞ!」
「アンノーン!」
「剣裁きハンパねえ」
「私達もマード教えてもらっちゃう?」
「あり!」
「君たち…そういう話はトレーナーの俺がいないところでしなさい…」
飛頼は倒れているヴォルグに手を差し出すがヴォルグはそれを振り払う。
「次は俺だ まあ待ってろ」
ヴォルグは立ち去る。
(そんな睨まなくっても…)
「うい」
一人の男子が拳を向けてきたため飛頼はそれに応える。
「お…おう」
飛頼は称賛の嵐の中で内心高揚していた。
(もっと強くなるぞ)
それからは飛頼の周りに人が集まるようになっていた。
(何か…アティスも普通の人間も変わらないな…魅力 実力 権力 財力 腕力 体力 あらゆる力に皆惹かれる)
飛頼は地球では感じたことのないような優越感と同時にアティスへの勝手な理想が崩れてしまったことへの失望を感じていた。
(俺は…ねじ曲がってる…?)
トレーニングからの帰りも飛頼の話を聞くため人が集まりがちだった。
「さて週一の試練じゃ」
飛頼がその日同じ時間帯にトレーニングしていた仲間と話していると優志が現れる。
「ん?アンノーンどした?」
「何か震えてね?」
優志との一方的な戦闘はいつしか飛頼に完全な恐怖を与えていた。
「ねえ どしたの?」
「聞こえてねーのか…?」
飛頼は動けない。優志は一瞬で飛頼に詰め寄る。
「うわぁ!」
飛頼はその場にしゃがみ込む。
「何だ今の動き!」
「あんた…誰だよ…」
優志は笑顔で応える。
「いやいや 強そうな者がいるな~と思ったけど わしの勘違いだったようじゃ 君らはわしが怖いかい?」
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