あなたになりたかった

月琴そう🌱*

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第七話 最期のわがまま

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「その頃のアンドロイドは、お世辞にもこの役目を担うに相応しいとは言えませんでした けれどそれが私たちの父となるソーイチローを育てたのだと、マーガレットのお陰とも言えます」

いつもの落ち着いたブランケットの口調、整った服の着こなし、白髪を増やした頭髪。
ずっと見て来た変わらない彼の仕草。
脚の上で軽く重ねるように添えられてるふたつの手に、皺はあんなになかった。 
悲しくなるな……

「ブランケット、人間ってさ……自分の老いにふと気付いて、悲しくなる時があるんだ 昨日までは違ったのに……とかさ おかしいだろ?」

俺は君に何か出来る事はないのかなあ
老いまで付き合う事はないのに
君たちは君たちのままでいいのに

そのままでもいい
そんな世界になればいいのに


初めて会った時の彼の歳を優に超え
俺は親としての彼を超える事が、生きてる間に出来るのだろうか。 
最近そんな事をふと考える。

周りに映る自分の姿ばかりが気になっていた。
今は自分で自分を見つめる事がやっと出来るようになった という事だろうか。


「それは死が怖いという事なのでしょうか」
「う ん…… そうかな」

ブランケットの机の上には、幼い頃からの俺の写真がいくつも置かれていた。
彼の部屋の壁には日に当たってもう変色してしまっている、学校から持ち帰った絵や賞状が何枚も。

父と呼んだ事はなかったけれど、周りの親がしているだろう事を彼も当たり前のようにする。


ヒジリとは一度も会えなかった。
自身が望んだ”地上の謳歌”をしているのだろうか。
”巣立ち”が悲しい別れであっても、それを乗り越えた彼はきっと素晴らしい人生を歩んでるはず。

家族を作ろうとした事はあった。
けれどいつも寸前で踏み出せなかった。
ソーイチローの気持ちが分かるような気がした。


”彼ら”が望んでいたシナリオは本当はヒジリで
エスケープをしたのは俺の方だったのかもしれない


マーガレットはソーイチローを残して先に逝ってしまった。
彼は彼女に”命”をちゃんと感じていた。
それでも彼女はロボット
ソーイチローは、何度もマーガレットに呼び掛けた。

彼の為に新しいロボットが現れても、最初に彼をあたためた彼女だけが、彼には一番の存在だった。

そしてマーガレットは、君たちの中で生き続けている。


神の真似をしようとしても、神が作ったものと同じには出来ない。
それはどこかが弱いとか歪んでいるのではなく、
とても真っ直ぐで歪みなんかどこにもなくて、触れるのを躊躇ってしまうほどの完璧さであると、周りには映っているのかもしれない。
人の欲や理想を現実に結ぼうとする事は、愚かな事ばかりだとは思わない。

けどブランケット 気付いたんだ。
簡単な事なのに、いつの間にか難しい事にしてしまっていた。
ソーイチローはそんな人たちを、カプセルの中から見ていた。

人間として生まれてきた理由が本当はすぐそばにあって
それにちゃんと向き合わなければならない
そう    やっと分かった。

だからブランケット
もう少し君たちの力を貸してほしい
俺たち人間だけではまだ力不足だから

俺たち人間をどうか助けてほしい


「ブランケット採取セットもらって来て」
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