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第二章 ヒミツキチで……
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「ごめん!」
俺が話せた精一杯はその一言だけ。それだけ言って、彼のそばから消えようとした。
明日の事は今はいい。早くここからいなくなりたい。こんな大失敗から逃げたい。
許してくれ虹生。俺はお前を決してオモチャにしたわけではない。
早くウチに帰って自分のバカ振りに泣こう。
そう思ったのに彼は俺の腕を掴み、俺が逃げる事を許してはくれなかった。
「ごめん……オレのせい……だよね……」
自分の想像の真逆の反応で返して来た彼に今度は俺が驚かされ、走り逃げようとしていた足からチカラが抜けて、フラリと後ろによろけた。
聞こえて来た言葉は、自分の聞き違いかとも思った。
きつねに包まれたような気持ちで彼の顔を見ると真面目な顔をした彼が真っ直ぐに俺を見ていて、自分が丸裸にされ全てを知られてしまうような気がして合った視線からすぐに逸らした。
「……どうしようか」
「な……なにを?」
「オレは……何て言うのかなこういう時 例えば誰かからコクられてさ、自分にその気がなかったら〝ゴメン〟ってなるじゃん これは告白じゃないけど……何て言うか……〝ゴメン〟って言うのと違う……オマエだから余計……ああっ何て言ったらいいんだろう!」
虹生こっちが〝ゴメン〟だ……
こんな突拍子もない事のせいで、俺たちは道の真ん中で止まったまま。
虹生は何を思っているのか、俺の顔をジーッと見たまま。
俺はそれを自分の視界の中で感じるのが精一杯だった。
彼の顔を見る事が出来ない。
「キモい!」
と、俺の事を蹴っ飛ばすでもしてくれたらいい。
そんな事より本当は、今の話をなかった事にして欲しい。
……いや……むしろ強烈過ぎて、忘れられない一件になるのだろう。
「……キスとか……またしてみる?」
え?
虹生が女装して現れたあの雨の日、俺と虹生はお互い初めてのキスをした。
この時は〝ただの遊び〟オフザケだった。
◇ ◇ ◇
どう帰宅したのか分からない空白を感じている。
空はせっかくの晴れの青なのに、俺の目には色どころか何も映らなかった。
抜け殻のカラダに、鉛を引きずっているような感覚だ。
そのままいつものように、ふたりで家に着いてしまった。
帰路の間も彼は俺の顔を、神妙な面持ちでずっと見ていた。
さっきの話は、俺たちの間に中途半端に浮いたまま。
あれからずっと、苦しい無言状態が続いている。
着替えもせずにそのまま机の前に座り、パソコン開いてゲームを始めた。
彼を構う余裕なんてカケラもない。
それでもいつもと同じように振る舞おうと、心の中で懸命になっていた。
〝なかった事に出来たら〟その願いはきっと無理な話。
意識はゲームに行かず、酷い結果ばかりが出る。
虹生の気配にも意識していた。
彼は部屋に投げっ放しになっていた雑誌を、パラパラと見始めたらしい。
俺は絞り出されるような汗をずっと感じていた。
俺が話せた精一杯はその一言だけ。それだけ言って、彼のそばから消えようとした。
明日の事は今はいい。早くここからいなくなりたい。こんな大失敗から逃げたい。
許してくれ虹生。俺はお前を決してオモチャにしたわけではない。
早くウチに帰って自分のバカ振りに泣こう。
そう思ったのに彼は俺の腕を掴み、俺が逃げる事を許してはくれなかった。
「ごめん……オレのせい……だよね……」
自分の想像の真逆の反応で返して来た彼に今度は俺が驚かされ、走り逃げようとしていた足からチカラが抜けて、フラリと後ろによろけた。
聞こえて来た言葉は、自分の聞き違いかとも思った。
きつねに包まれたような気持ちで彼の顔を見ると真面目な顔をした彼が真っ直ぐに俺を見ていて、自分が丸裸にされ全てを知られてしまうような気がして合った視線からすぐに逸らした。
「……どうしようか」
「な……なにを?」
「オレは……何て言うのかなこういう時 例えば誰かからコクられてさ、自分にその気がなかったら〝ゴメン〟ってなるじゃん これは告白じゃないけど……何て言うか……〝ゴメン〟って言うのと違う……オマエだから余計……ああっ何て言ったらいいんだろう!」
虹生こっちが〝ゴメン〟だ……
こんな突拍子もない事のせいで、俺たちは道の真ん中で止まったまま。
虹生は何を思っているのか、俺の顔をジーッと見たまま。
俺はそれを自分の視界の中で感じるのが精一杯だった。
彼の顔を見る事が出来ない。
「キモい!」
と、俺の事を蹴っ飛ばすでもしてくれたらいい。
そんな事より本当は、今の話をなかった事にして欲しい。
……いや……むしろ強烈過ぎて、忘れられない一件になるのだろう。
「……キスとか……またしてみる?」
え?
虹生が女装して現れたあの雨の日、俺と虹生はお互い初めてのキスをした。
この時は〝ただの遊び〟オフザケだった。
◇ ◇ ◇
どう帰宅したのか分からない空白を感じている。
空はせっかくの晴れの青なのに、俺の目には色どころか何も映らなかった。
抜け殻のカラダに、鉛を引きずっているような感覚だ。
そのままいつものように、ふたりで家に着いてしまった。
帰路の間も彼は俺の顔を、神妙な面持ちでずっと見ていた。
さっきの話は、俺たちの間に中途半端に浮いたまま。
あれからずっと、苦しい無言状態が続いている。
着替えもせずにそのまま机の前に座り、パソコン開いてゲームを始めた。
彼を構う余裕なんてカケラもない。
それでもいつもと同じように振る舞おうと、心の中で懸命になっていた。
〝なかった事に出来たら〟その願いはきっと無理な話。
意識はゲームに行かず、酷い結果ばかりが出る。
虹生の気配にも意識していた。
彼は部屋に投げっ放しになっていた雑誌を、パラパラと見始めたらしい。
俺は絞り出されるような汗をずっと感じていた。
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