混(線)の処女

月琴そう🌱*

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第二章 ヒミツキチで……

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 妙な気分だ。夢の中でしていた事を自分の目の前に本人がいて、そしてそれを始めようとしている。
俺は空想の中だけの事だから、許されるとしていた世界だ。

 ベッドを指す事はしたのに、彼の顔を見る事は出来なかった。
俺は帰宅してからもそのまま着替えもしない、全く余裕なしの状態だったが、彼はいつものようにTシャツとパンツという姿。
俺はザッとワイシャツを脱いで、床の上に放り投げた。
彼はこれから何をされるのだろうかと、不安じゃないのだろうか。

「嫌になったら言ってよ……すぐやめるから……って、本当に……」
「やってみろ……旺汰」
  もう逃げられない
「分かった……」

 ベッドに横になる様子は、いつもと違って躊躇いながら。
普段は平気で寝っ転がれる場所が、今は自分の知らない場所になってしまったように。
〝やってみろ〟とは言ったけど、それは彼にも勇気がいた事だったと分かる不安な表情。
きっと俺も同じ顔をしている。
こんな事になるとは思いもしなかった。
つい昨日までは、退屈で退屈で仕方がなかった。
それがずっと前の事だったように、今は感じる。

 彼が横になったのを見て、彼の隣に横になった。
ふたりして眠気に我慢出来なくて、昼寝を一緒にした事はある。
タオルケットを引っ張り合い、いつの間にか眠りに入り目が覚めるとお互いの寝相でまた言い合いになる。
今やろうとしている事は、そんな事ではない。
遊びのようで遊びじゃない。
もしかしたら許される事でもない。
それは彼に対してだけの事なのだろうか……。

 こんな、改まって向き合うなんて事恥ずかしいったらない。
でもザツにしてはいけない事。
オンナに間違われる事に彼が腹を立てていたのを一番知ってる俺が、それよりも酷い事で彼をキズ付けてしまった。
俺は彼に酷い事をしていた。だから余計に中途半端にしてはいけない。
ふざけてない。遊んでもいない。
彼にその気持ちを、まず分かってもらわなければ。
そう気を振り絞ったが、震える手は冷たいまま。
腹をくくり冷えた手のまま、彼の頬に触れてみた。
虹生は一瞬ピクリと動いたが、すぐに平気を装うのが見て取れた。
お前は本当は本気で〝やってみろ〟とは言っていないのでは?
こういう事は普通、オトコとオンナがするものだ。

「本当にやるの?」
「本当にやれ!」

 彼も腹をくくったらしい。胸がせり上がり、深呼吸をした。
俺が彼に近寄るほどに、彼の大きな瞳が閉じて行く。そして視覚を手放した。
先ほど彼が自分にしたように、今度は自分が彼に唇を合わせた。
合わせながらゆっくり開いて行く唇は、誘い誘われているように、どちらともなくお互いを確かめ絡ませる。
軽い風のようだった呼吸は段々熱を帯びて、ピンと張ったシーツの上を滑る音と共に、お互いのカラダを抱き寄せ動き出す。
混ざり合う呼吸はさっきまでの事を全て上書きして行くように甘く響き、自分の中が彼だけになって行く。
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