14 / 134
第一話
二人のメイド
しおりを挟む
屋敷はいつになく賑やかだった。
ノーラの元にメイドとして派遣された二人の亜人の女性たちが、台所で一緒に動いている。
アカネとシロ。
アカネはオーガ族で、身長が高く、がっしりとした体つきだが、笑顔が朗らかで見ていて温かさを感じる。
もう一人のコボルト族のシロは、腰までしかない小柄な体格で、毛並みは白く、動きも素早い。見た目は中型犬のようだが、手際は見事だった。
「ノーラ様、これ、洗っておきましたワン!」
「ありがとうございます、シロさん。では、そのまま棚の方へ……アカネさん? それ、割れやすいので!」
ガチャン、と嫌な音がした。
「ああっ!? また割っちゃったです! す、すみません、ノーラ様!」
アカネが手にしていた陶器の皿が、力加減を間違えて真っ二つに割れていた。しかも、指から血がにじんでいる。
「怪我……してます!」
「へへっ、これくらい慣れてるから大丈夫ですよ~」
「怪我はバイキンが入るかもしれません。アカネさん、動かないでください」
ノーラが落ち着いた声で近づくと、そっとアカネの手を取り、目を閉じた。
「……聖なる癒しの光よ、傷を包み、穢れを祓い、元の姿へと還せ! 《ヒール》」
やわらかな白い光が、ノーラの指先からアカネの傷口に広がっていく。
その光はとても優しく、まるで春の陽射しのように温かく、すぐに血は止まり、傷跡すら残らなかった。
「うわ……すっご……え? え? え!? 今、ノーラ様、神聖魔法を使ったんですか!? 光っぽいやつ!? 凄いのです!」
「はい。ちょっとした傷程度なら治せるので」
「うわ~初めて見ましたワン」
「私もです!」
アカネやシロが感心したように驚いていると、照れくさそうに視線を逸らすノーラに、アカネとシロが大はしゃぎする。
「すごいです!」
「ほんとに綺麗な光でしたワン!」
俺も、棚の影からその様子を見ていた。
……すげぇ。素直に、そう思った。
連合国の人間で神聖魔法が使えるのは、エルフたちぐらいだ。
それも白エルフと呼ばれる。森の住民で、あまり他の連合国と交流を持っていない種族なので、とても珍しい。
彼女の手から放たれた光は、確かに癒しの力だったけど、それだけじゃない。
傷を癒やす“力”に、心まで和らぐような“優しさ”が宿っていた。
ノーラは、自分の力を誇らない。けれど、確かにそれを誰かのために使っていた。
「ノーラ」
俺は歩み寄り、彼女の前で立ち止まる。
「……すごいな。人を治せる神聖魔法なんて、この国じゃ誰も使えないぞ!」
「い、いえ。癒しの魔法は、ただの神聖術で……」
「いや、違う。あれは……優しい力だった。これからも一緒に国のために頑張ってほしい」
ノーラがぽかんと俺を見上げて、やがて目をそらすように小さく俯いた。
「はい……! ありがとうございます」
その頬は、わずかに赤く染まっていた。
台所には、まだ慣れていない手つきの皿洗いや、割れた欠片が転がっていたけど。
それでも、不思議と心地よい温かさに満ちていた。
「さぁ、せっかく俺も来たから、片付けを手伝うよ」
「私も頑張る!」
アカネと二人で、割れた食器を片付けて、シロが指示を出してくれる。
俺の屋敷に、人の気配がある。
誰かの笑い声がする。そして、誰かの優しさがある。
そんな当たり前が、今、何よりも幸せに思えた。
「ふふ」
「えっ?」
俺たちのやり取りを唖然として見ていた、ノーラが笑った。
「皆さん元気ですね」
「おう! それが取り柄だ!」
「はいなのです! 私も元気です!」
「私もですワン」
ノーラの言葉に、俺たちは顔を見合わせて、三人で元気に返事をする。
新たな仲間が加わって、賑やかな家をノーラに好きになってもらいたい。
ノーラの元にメイドとして派遣された二人の亜人の女性たちが、台所で一緒に動いている。
アカネとシロ。
アカネはオーガ族で、身長が高く、がっしりとした体つきだが、笑顔が朗らかで見ていて温かさを感じる。
もう一人のコボルト族のシロは、腰までしかない小柄な体格で、毛並みは白く、動きも素早い。見た目は中型犬のようだが、手際は見事だった。
「ノーラ様、これ、洗っておきましたワン!」
「ありがとうございます、シロさん。では、そのまま棚の方へ……アカネさん? それ、割れやすいので!」
ガチャン、と嫌な音がした。
「ああっ!? また割っちゃったです! す、すみません、ノーラ様!」
アカネが手にしていた陶器の皿が、力加減を間違えて真っ二つに割れていた。しかも、指から血がにじんでいる。
「怪我……してます!」
「へへっ、これくらい慣れてるから大丈夫ですよ~」
「怪我はバイキンが入るかもしれません。アカネさん、動かないでください」
ノーラが落ち着いた声で近づくと、そっとアカネの手を取り、目を閉じた。
「……聖なる癒しの光よ、傷を包み、穢れを祓い、元の姿へと還せ! 《ヒール》」
やわらかな白い光が、ノーラの指先からアカネの傷口に広がっていく。
その光はとても優しく、まるで春の陽射しのように温かく、すぐに血は止まり、傷跡すら残らなかった。
「うわ……すっご……え? え? え!? 今、ノーラ様、神聖魔法を使ったんですか!? 光っぽいやつ!? 凄いのです!」
「はい。ちょっとした傷程度なら治せるので」
「うわ~初めて見ましたワン」
「私もです!」
アカネやシロが感心したように驚いていると、照れくさそうに視線を逸らすノーラに、アカネとシロが大はしゃぎする。
「すごいです!」
「ほんとに綺麗な光でしたワン!」
俺も、棚の影からその様子を見ていた。
……すげぇ。素直に、そう思った。
連合国の人間で神聖魔法が使えるのは、エルフたちぐらいだ。
それも白エルフと呼ばれる。森の住民で、あまり他の連合国と交流を持っていない種族なので、とても珍しい。
彼女の手から放たれた光は、確かに癒しの力だったけど、それだけじゃない。
傷を癒やす“力”に、心まで和らぐような“優しさ”が宿っていた。
ノーラは、自分の力を誇らない。けれど、確かにそれを誰かのために使っていた。
「ノーラ」
俺は歩み寄り、彼女の前で立ち止まる。
「……すごいな。人を治せる神聖魔法なんて、この国じゃ誰も使えないぞ!」
「い、いえ。癒しの魔法は、ただの神聖術で……」
「いや、違う。あれは……優しい力だった。これからも一緒に国のために頑張ってほしい」
ノーラがぽかんと俺を見上げて、やがて目をそらすように小さく俯いた。
「はい……! ありがとうございます」
その頬は、わずかに赤く染まっていた。
台所には、まだ慣れていない手つきの皿洗いや、割れた欠片が転がっていたけど。
それでも、不思議と心地よい温かさに満ちていた。
「さぁ、せっかく俺も来たから、片付けを手伝うよ」
「私も頑張る!」
アカネと二人で、割れた食器を片付けて、シロが指示を出してくれる。
俺の屋敷に、人の気配がある。
誰かの笑い声がする。そして、誰かの優しさがある。
そんな当たり前が、今、何よりも幸せに思えた。
「ふふ」
「えっ?」
俺たちのやり取りを唖然として見ていた、ノーラが笑った。
「皆さん元気ですね」
「おう! それが取り柄だ!」
「はいなのです! 私も元気です!」
「私もですワン」
ノーラの言葉に、俺たちは顔を見合わせて、三人で元気に返事をする。
新たな仲間が加わって、賑やかな家をノーラに好きになってもらいたい。
59
あなたにおすすめの小説
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる