俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

文字の大きさ
13 / 134
第一話

妻と過ごす普通の日

しおりを挟む
 朝の光が、屋敷の窓から差し込んでいた。

 昨夜の戦いの疲れが残っているはずなのに、身体はすでに動きたがっていた。

 木刀を振っていると、背後で扉が静かに開く音がした。

「……おはようございます、エルド様」

 控えめな声だった。ノーラの声。

 俺は手を止めて振り返る。

「ん? ああ、おはよう、ノーラ」

 ノーラがいることを忘れて、つい体を動かしてしまっていた。

 彼女は、扉を開けて挨拶をしたと思ったその瞬間、ぱたん、と扉を閉めてしまう。

「……?」

 何か気に障っただろうか。いや、上半身裸だったからか? 配慮が足りていなかったな。

 俺は今年三十歳になる。

 十八歳のノーラからすれば、おっさんの体など見たくないだろう。

「あの、ご飯ができました」
「ありがとう」

 しばらくして朝食の準備をするという声が聞こえてきて、俺は慌てて服を着直した。

 まだまだ、距離は遠いらしい。

「いただきます」
「いただきます」

 ノーラと向かい合って食事をする。

 この三日間は歓迎やら、来客やらで色々と忙しかったが、食事の用意や台所の使い方など貴族の令嬢は知らないようなことを教えたつもりだったが、ノーラは文句も言わずにしてくれた。

 昼になって、陽射しが強くなってきた。新しく洗った衣類を干したのだが、風が強くなってきていた。

「ノーラ、洗濯物、そろそろ取り込んだほうがいいかもな」
「わたくしが……いえ、妻の仕事ですね」

 色々と慣れない様子のノーラが、脚立に上って洗濯物を取ろうとする。

 見ていて危なっかしいと思った矢先。

「わっ……!」

 脚立が傾いだ。俺は瞬時に身体を動かし、彼女を抱きとめていた。

「大丈夫か!?」
「……だ、大丈夫ですがっ……! エルド様、手が……!」
「あっ……」

 気づけば、ノーラの腰をしっかり抱いていた俺の手。慌てて離す。

 ただ、彼女の腰は折れそうなほど細くて、優しくしなければと思ってしまう。

 ノーラは真っ赤な顔で逃げるように屋敷の中へ戻っていった。

 ……悪いことをした、気がする。


 夜。布団を敷いた寝室。

 扉を二枚挟んだ三つ並んだ部屋。

 そこにノーラがいるのだと思うと、少しばかり緊張する。

 まだ、二人で眠ることは難しい。

 俺も彼女をどのように扱えば良いのか、迷ってしまう。

「あの。少しお話をしませんか?」

 意外にもお歩み寄ってきてくれたのはノーラからだった。

「ああ、構わないよ」
「……ありがとうございます」

 暖炉のあるリビングで、二人で夜にお茶を飲む。

 共に眠るのはまだ早いが、少しだけ二人の時間を過ごすこの時間を3日目にして好きだと思えた。

 その後、ノーラは真面目で、この環境に慣れようと頑張ってくれている。

 悪い子ではない。

 むしろ、どうしてこんなにも美しくて、真面目な子が犯罪者になったのか? そちらの方が気になってしまう。

 だが、それを聞くことで、ノーラが俺を避けるようになるかもしれない。

 それが怖くて聞き出すことはできない。

「おいしいよ」
「夜に温かい飲み物を摂ると眠りの質が上がると母上に習ったのです」
「優しいお母さんだね」
「はい。幼い頃に亡くなってしまったのですが、憧れの人でした」

 ノーラの話を聞くだけで、俺は胸が温かくなる。

 でも、ぎこちなくて。まだ、距離があって。それでも、一つ屋根の下でこうして過ごしている。

 それだけで、心の奥がじんわりと温かくなる。

「そろそろ寝ようか、おやすみ、ノーラ」
「はい! おやすみなさいませ。エルド様」

 それぞれの部屋に入って眠りにつくが、距離が近くなったような気がした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...