俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第二話

一災 鉄眼のゴウラ 3

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 ……強い。

 打ち合うたびに、骨が軋む。剣を伝って、衝撃が心臓まで響く。

 俺の渾身の一撃を受けたはずのゴウラは、ほとんど揺らがなかった。再生した肉体。鋼鉄を凌駕する殻。六つの眼が、俺の動きをすべて見ている。

「ふぅ~」

 大きく息を吐く。ゴウラを見据えながら、《第五区・旧マギラ鉱山跡地》を見渡す。

 薄暗い誰も人が住めなくなった土地。

 今では地図の端にすら載っていない。

 かつては黒鉄と希少金属を産出する豊かな鉱山として栄えていた。

 二十年前、異形の出現と共に突如として崩落。以降、その地は人の手によって封鎖され、今では立ち入りすら禁じられている。

 鉱山へと続く峡谷には霧が立ち込め、陽光を遮るようにねじれた枝の密林が空を覆っている。木々はまるで何かに怯えるように細く、葉は黒ずみ、枝先は鉱毒に蝕まれたように裂けていた。

 地面は乾いておらず、かといって湿っているわけでもない。

 足を踏み入れるたびに、粘性を帯びた土が靴裏に絡みつき、不快な吸着音を立てる。どこか遠くで風が鳴っているような音がするが、それは風ではなく、坑道の奥から漏れ聞こえる獣のうめきのようにも聞こえた。

「うしっ!」

 辺りには生命の気配がほとんどない。

 鳥も、獣も、この地を避けているのだろう。

 時折、見かけるのは、異様に膨らんだ甲殻を背負う魔虫や、片目だけが肥大化した奇形のトカゲのようなものばかり。

 どれも異形の影響を受け、変質した魔物たち。

 周囲の空間は、どこか捻じれているようにも感じられた。

 距離感や音の反響、風の向きすら、自然の摂理とは少しずつ異なっている。

「どうした? その剣、まだ震えているぞ」

 言葉と同時に、ゴウラの肘から突き出た棘が音もなく振るわれた。

 反射で剣を横に構える。激突。衝撃。

 体ごと数メートル、地面を滑った。

 脇腹が焼けるように痛む。わずかに受け遅れた……。

 破片が鎧を削り、皮膚を裂いている。

(どんどん速くなってやがるな)

 呼吸を整えながら、距離を取る。 

 動くな……観ろ。

 ゴウラの構え。重心はわずかに左後方。棘は撓る前に鳴く。

 ……タイミングを読むには、音が鍵になる。

 速度も、硬度も、回復も上。だが……完璧な存在なんていない。

 動きながら、剣を低く構える。斬るのではない。観る。

 息を吐き、魔力の流れを研ぎ澄ませた。

「戦闘中に意識を逸らすとは……無防備だな」

 ゴウラが踏み込んできた。地が抉れ、巨大な拳が俺の視界を覆う。

 かわす! 斜めに身を捻り、空いた腕で後頭部をかすめるように通過。

 肘が鳴いた……次は棘が来る!

「そこだッ!」

 構えていた剣を逆手に持ち替え、棘の軌道へ。火花と火花がぶつかり合い、初めてゴウラの棘の一本が、折れた。

「ほう……これは」

 初めて、ゴウラの声にわずかな驚きが混じった。

 棘は再生していない。

「……お前は強い。でも、見えてきたぞ。お前の動きの癖がな」

 これまでの経験が、剣が、身体が、教えてくれる。

 俺はこの戦いに、勝ち目がないとは思っていない。
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