俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第三話

ノーラの過去との決別

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《side エルド・カレヴィ》

 帰ってきたのは、出立してから二日後の夕日が地平に沈む頃だった。

 ヨンクの石畳の街並みは、いつもの静けさを取り戻していた。兵たちの気配は減り、子どもたちの笑い声がどこか遠くで響いている。

 剣を腰に下げたまま、俺は屋敷の門をくぐった。

 扉の前に立つと、不思議と胸が落ち着いていくのがわかる。

 もう、戦は終わったのだ。

「おかえりなさいませ」

 その声は、扉が開く前に聞こえた。

 やっぱり、待っててくれたんだな。

 ノーラは、玄関先に立っていた。控えめな笑みを浮かべ、けれどその目は潤んでいた。

「ただいま」

 そう言って玄関をまたぎ、無言で彼女を抱きしめる。

 細い体が、小さく震えていた。

 俺は何も言わず、しばらくその髪に額を押し当てた。

「……ご無事で……よかった……」
「ああ。ちゃんと帰ってきた」

 静かに、言葉を交わし、彼女の手を引いて屋敷の奥へ向かう。

 二人だけの時間が欲しかった。

 いつもの小さな裏庭。陽が落ちて、空は濃い青に染まりはじめている。

 ノーラと並んで腰を下ろすと、彼女が小さな声で問いかけた。

「……戦は、もう終わったんですか?」
「ああ。終わった」
「……ドウマ王子は……どうなったんですか?」

 その言葉に、俺はしばし黙った。

 怒りがないと言えば嘘になる。だが、今の俺の中には、もう戦の感情は残っていなかった。

「捕らえたよ。牢に閉じ込めて、問いただした。最初は吐かなかったが、最後には……全部、認めた。そのことも王国に含めて、ドウマが仕掛けた内容を導入して、君の冤罪を王国の王に伝えた」

 ノーラは唇をきゅっと結び、目を伏せる。

「そうですか……でも、もう……そのことに関して、私は良いのです」
「よい?」
「はい。私はここに来て生きていることを実感できています。自分の罪が晴れることは嬉しくはありますが、私の生活はすでにここにあります」
「そうか」

 ノーラの目が、静かに揺れた。

「ドウマの処遇はどうなるのでしょうか……?」
「王国に引き渡す。連合としての立場を守るためにもな。王族同士で処罰すれば、王国もこれ以上強く出られない。俺が殺したら、それこそ大戦になってしまう」
「……よかった」

 その一言には、憎しみでも悲しみでもない、ただ一つの“解放”があった。

 ノーラが、少しだけ寄りかかってきた。

 俺はその肩に、自分の上着をそっとかけた。

「これで、ようやく日常に戻れる。連合も、ヨンクも、そしてノーラも」
「……エルド様。ありがとうございます。私を王国の呪縛から解き放ってくださり。そして、無事に帰ってきてくださり。よかった。おかえりなさい」
「ああ。ただいま、ノーラ」

 夜風が、そっと吹いた。

 ノーラの過去との決別。

 それを成し遂げた。
 
 もう、ドウマがノーラに何かをすることはできない。

 これ以降の、ドウマの処遇は俺の預かり知らぬことだ。

 王国がどのように出るのか、予測しなければならないが、俺はどんなことがあってもノーラとの生活を守り通す。
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