俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

文字の大きさ
76 / 134
第五話

巨人の異形

しおりを挟む
《side エルド・カレヴィ》

 エルフの里から、解毒薬を獲得して、戻ってすぐに子供達に飲ませた。

「一人ずつ、焦らず飲ませてやれ」

 俺はティオと共に、解毒薬を運び終えた木箱の中身を確認しながら、子どもたちの元に歩を進めた。

 小さな手が、震えながらも薬を受け取ってくれる。

 その瞳に、ようやく生気が戻りつつあるのを見て、俺はようやく息を吐いた。

 苦しそうに息をしていた子どもたちの顔が、少しずつ落ち着いていく。

 それは、たしかにルティアたち、エルフから託された解毒薬の力だ。

 数日が過ぎると、アルヴィが聖水を届けてくれた。

「これが、ノーラ様が作られた聖水です!」

 アルヴィが、箱の中から慎重に取り出した瓶を差し出してきた。

「ノーラはどうしたのだ?」

 聖水が手に入った。しかし、ノーラは帰って来なかった。

「アルヴィ、ノーラは?」
「……申し訳ありません。第一王子の軍勢が教会を襲撃した際に、私は聖水を届けるように命令を受けました。バルトとアカネが残り、ノーラ様を護衛しております」

 俺は瞬間的に、アルヴィを殴っていた。

「ぐっ! 申し訳ありません」
「お前を使わせたのは、聖水を届けさせるためじゃない。ノーラを命懸けで守ってもらうためだ」

 俺は怒りを感じていた。理不尽なことを言っているのはわかっている。

 だが、ノーラが命を懸けて、ヨンクの民を救ってくれることよりも、俺はノーラの命の方が大事だと思うようになっていた。

「すまない。アルヴィ……よくやってくれた」

 俺は瓶を手に取り、子どもの額に一滴垂らした。瞬間、淡い光が宿り、苦悶していた顔が穏やかになっていく。

 毒が解毒され、呪いのように侵されていた奇妙な症状が落ち着きを取り戻す。

 これで、間に合った。

 間に合ったんだ。

「……」

 だが、ノーラがいない。

 ティオが感嘆の息をついた。その肩には、ミュリナが隠れていた。

「ノーラを取り戻しにいく」

 俺の怒りに、その場にいた者たちが震えている。

「かしこまりました。すぐに手配を……」

 アルヴィが応じると同時に――ドォォォォォン!!

 轟音が、大地を揺らした。

 何かが、門に叩きつけられた。

 空気が変わった。風が止まり、魔物たちの方向がヨンク全体を包み込んだ。

 遠くに見える結界門。そして、魔物と人族が住む壁。

 その重々しい扉が、震えていた。

「……門が、鳴いている……!」

 アルヴィが叫び、俺はすでに走り出していた。

 門の前には、すでに配置されていたガルドの衛兵たちが剣を抜いていた。

 空に亀裂が走る。

 そして、門の向こうから、現れた。

 巨大な化け物。いや、異形なのか? 背に複数の眼を持ち、体から煙を背負っていた。

 その存在は、確実に「何か」が起きたことを告げていた。

 俺の手が、自然と剣に伸びる。

「ノーラ……すまない。少しだけ、遅れるかもしれない」

 そう呟いて、俺は紅の魔力を解き放った。

 戦が、始まる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

処理中です...