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第五話
巨人の異形
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《side エルド・カレヴィ》
エルフの里から、解毒薬を獲得して、戻ってすぐに子供達に飲ませた。
「一人ずつ、焦らず飲ませてやれ」
俺はティオと共に、解毒薬を運び終えた木箱の中身を確認しながら、子どもたちの元に歩を進めた。
小さな手が、震えながらも薬を受け取ってくれる。
その瞳に、ようやく生気が戻りつつあるのを見て、俺はようやく息を吐いた。
苦しそうに息をしていた子どもたちの顔が、少しずつ落ち着いていく。
それは、たしかにルティアたち、エルフから託された解毒薬の力だ。
数日が過ぎると、アルヴィが聖水を届けてくれた。
「これが、ノーラ様が作られた聖水です!」
アルヴィが、箱の中から慎重に取り出した瓶を差し出してきた。
「ノーラはどうしたのだ?」
聖水が手に入った。しかし、ノーラは帰って来なかった。
「アルヴィ、ノーラは?」
「……申し訳ありません。第一王子の軍勢が教会を襲撃した際に、私は聖水を届けるように命令を受けました。バルトとアカネが残り、ノーラ様を護衛しております」
俺は瞬間的に、アルヴィを殴っていた。
「ぐっ! 申し訳ありません」
「お前を使わせたのは、聖水を届けさせるためじゃない。ノーラを命懸けで守ってもらうためだ」
俺は怒りを感じていた。理不尽なことを言っているのはわかっている。
だが、ノーラが命を懸けて、ヨンクの民を救ってくれることよりも、俺はノーラの命の方が大事だと思うようになっていた。
「すまない。アルヴィ……よくやってくれた」
俺は瓶を手に取り、子どもの額に一滴垂らした。瞬間、淡い光が宿り、苦悶していた顔が穏やかになっていく。
毒が解毒され、呪いのように侵されていた奇妙な症状が落ち着きを取り戻す。
これで、間に合った。
間に合ったんだ。
「……」
だが、ノーラがいない。
ティオが感嘆の息をついた。その肩には、ミュリナが隠れていた。
「ノーラを取り戻しにいく」
俺の怒りに、その場にいた者たちが震えている。
「かしこまりました。すぐに手配を……」
アルヴィが応じると同時に――ドォォォォォン!!
轟音が、大地を揺らした。
何かが、門に叩きつけられた。
空気が変わった。風が止まり、魔物たちの方向がヨンク全体を包み込んだ。
遠くに見える結界門。そして、魔物と人族が住む壁。
その重々しい扉が、震えていた。
「……門が、鳴いている……!」
アルヴィが叫び、俺はすでに走り出していた。
門の前には、すでに配置されていたガルドの衛兵たちが剣を抜いていた。
空に亀裂が走る。
そして、門の向こうから、現れた。
巨大な化け物。いや、異形なのか? 背に複数の眼を持ち、体から煙を背負っていた。
その存在は、確実に「何か」が起きたことを告げていた。
俺の手が、自然と剣に伸びる。
「ノーラ……すまない。少しだけ、遅れるかもしれない」
そう呟いて、俺は紅の魔力を解き放った。
戦が、始まる。
エルフの里から、解毒薬を獲得して、戻ってすぐに子供達に飲ませた。
「一人ずつ、焦らず飲ませてやれ」
俺はティオと共に、解毒薬を運び終えた木箱の中身を確認しながら、子どもたちの元に歩を進めた。
小さな手が、震えながらも薬を受け取ってくれる。
その瞳に、ようやく生気が戻りつつあるのを見て、俺はようやく息を吐いた。
苦しそうに息をしていた子どもたちの顔が、少しずつ落ち着いていく。
それは、たしかにルティアたち、エルフから託された解毒薬の力だ。
数日が過ぎると、アルヴィが聖水を届けてくれた。
「これが、ノーラ様が作られた聖水です!」
アルヴィが、箱の中から慎重に取り出した瓶を差し出してきた。
「ノーラはどうしたのだ?」
聖水が手に入った。しかし、ノーラは帰って来なかった。
「アルヴィ、ノーラは?」
「……申し訳ありません。第一王子の軍勢が教会を襲撃した際に、私は聖水を届けるように命令を受けました。バルトとアカネが残り、ノーラ様を護衛しております」
俺は瞬間的に、アルヴィを殴っていた。
「ぐっ! 申し訳ありません」
「お前を使わせたのは、聖水を届けさせるためじゃない。ノーラを命懸けで守ってもらうためだ」
俺は怒りを感じていた。理不尽なことを言っているのはわかっている。
だが、ノーラが命を懸けて、ヨンクの民を救ってくれることよりも、俺はノーラの命の方が大事だと思うようになっていた。
「すまない。アルヴィ……よくやってくれた」
俺は瓶を手に取り、子どもの額に一滴垂らした。瞬間、淡い光が宿り、苦悶していた顔が穏やかになっていく。
毒が解毒され、呪いのように侵されていた奇妙な症状が落ち着きを取り戻す。
これで、間に合った。
間に合ったんだ。
「……」
だが、ノーラがいない。
ティオが感嘆の息をついた。その肩には、ミュリナが隠れていた。
「ノーラを取り戻しにいく」
俺の怒りに、その場にいた者たちが震えている。
「かしこまりました。すぐに手配を……」
アルヴィが応じると同時に――ドォォォォォン!!
轟音が、大地を揺らした。
何かが、門に叩きつけられた。
空気が変わった。風が止まり、魔物たちの方向がヨンク全体を包み込んだ。
遠くに見える結界門。そして、魔物と人族が住む壁。
その重々しい扉が、震えていた。
「……門が、鳴いている……!」
アルヴィが叫び、俺はすでに走り出していた。
門の前には、すでに配置されていたガルドの衛兵たちが剣を抜いていた。
空に亀裂が走る。
そして、門の向こうから、現れた。
巨大な化け物。いや、異形なのか? 背に複数の眼を持ち、体から煙を背負っていた。
その存在は、確実に「何か」が起きたことを告げていた。
俺の手が、自然と剣に伸びる。
「ノーラ……すまない。少しだけ、遅れるかもしれない」
そう呟いて、俺は紅の魔力を解き放った。
戦が、始まる。
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