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第六話
禍々しい存在
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《side:ノーラ・フィアステラ》
ヨンクに戻ったエルド様の姿を見つけたとき、私は自然と駆け寄っていた。
「おかえりなさい……!」
彼のマントには砂と灰が付き、疲労の色が滲んでいた。けれど、その目は揺るぎなく、まっすぐだった。
「ただいま、ノーラ」
その言葉に、ほっと息が漏れる。
でも、次の瞬間。
エルド様の後ろから、白い髪の少女が現れた。
静かな足音。無表情のまま、けれど敵意はなく、どこか無垢な子どものような空気をまとっている。
だけど、神聖魔法を帯びている私が見ると、あまりにも禍々しい存在。
異形。
これが人類の敵であり、エルド様の敵……なんて恐ろしい。
その瞳は、何かを拒絶するように、何かを渇望するように、白く、空虚だった。
「……彼女は?」
問いかけると、エルド様は真剣な表情のまま、私に向き直った。
「ノーラ、話がある」
屋敷の奥、小さな応接間。
私とエルド様が向かい合い、少し離れた壁際に、あの少女ネルが黙って立っている。
「彼女は、“八災”の一柱だ。名前は、ネル。俺が……主従契約を結んだ」
その言葉を聞いたとき、心臓が大きく跳ねた。
契約? こんなにも恐ろしいナニカと?
「八災……? でも、あの存在たちは敵では……」
「敵だった。だが、彼女は違った」
エルド様の声は、静かで、深くて、どこか寂しさを孕んでいた。
「ネルは観察者として、見るために生まれた存在だ。この世界がどう終わるのかを。ただ見つめ、理解し、そして最後には……自らの命を終わらせるように造られた」
「そんな……」
「だからこそ、彼女は俺に従う代わりに、最後には俺に殺してほしいと言った」
私は言葉を失った。
あの少女は、自らの終わりを願っている。
禍々しい存在が本当にそれを望んでいるのだろうか?
私は疑わしくて、本当に救われたかったのではなく、意味を得たかった? わからなくて考えてしまう。
「その契約を……受け入れたんですか?」
「受け入れた」
きっぱりと、迷いのない声音だった。
だけど、それはエルド様らしいと思えた。
「彼女は、ただ滅ぼす存在じゃない。たしかに異形だ。だが……どこかで、人と同じように、誰かに必要とされたかった。意味を得たかった」
その言葉に、私はネルを見る。
彼女は何も言わない。ただ、こちらを見て、微かに頭を下げた。
敵でも、味方でもない。
けれど今、エルド様の隣に立つことを選んだのは、彼女の意思だったのだ。
彼女のことは信じられない。だけど、エルド様のことは信じられる。
「……わかりました」
私は立ち上がり、ネルの前に歩み寄った。
ぎこちなく、でも真っ直ぐに、手を差し出す。
「私がエルド様の妻である以上、あなたとも向き合います。ネル、あなたが私たちの家族に害をなさないのなら。私は、あなたの存在を拒みません」
ネルは、僅かに目を瞬かせた。
その仕草が、ほんの少しだけ少女らしく見えた気がした。
「……はい」
初めて、彼女の声に熱を感じた気がした。
そして私は息をのむ。
恐れてはいけない。
私がエルド様を繋ぐのです。
ヨンクに戻ったエルド様の姿を見つけたとき、私は自然と駆け寄っていた。
「おかえりなさい……!」
彼のマントには砂と灰が付き、疲労の色が滲んでいた。けれど、その目は揺るぎなく、まっすぐだった。
「ただいま、ノーラ」
その言葉に、ほっと息が漏れる。
でも、次の瞬間。
エルド様の後ろから、白い髪の少女が現れた。
静かな足音。無表情のまま、けれど敵意はなく、どこか無垢な子どものような空気をまとっている。
だけど、神聖魔法を帯びている私が見ると、あまりにも禍々しい存在。
異形。
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その瞳は、何かを拒絶するように、何かを渇望するように、白く、空虚だった。
「……彼女は?」
問いかけると、エルド様は真剣な表情のまま、私に向き直った。
「ノーラ、話がある」
屋敷の奥、小さな応接間。
私とエルド様が向かい合い、少し離れた壁際に、あの少女ネルが黙って立っている。
「彼女は、“八災”の一柱だ。名前は、ネル。俺が……主従契約を結んだ」
その言葉を聞いたとき、心臓が大きく跳ねた。
契約? こんなにも恐ろしいナニカと?
「八災……? でも、あの存在たちは敵では……」
「敵だった。だが、彼女は違った」
エルド様の声は、静かで、深くて、どこか寂しさを孕んでいた。
「ネルは観察者として、見るために生まれた存在だ。この世界がどう終わるのかを。ただ見つめ、理解し、そして最後には……自らの命を終わらせるように造られた」
「そんな……」
「だからこそ、彼女は俺に従う代わりに、最後には俺に殺してほしいと言った」
私は言葉を失った。
あの少女は、自らの終わりを願っている。
禍々しい存在が本当にそれを望んでいるのだろうか?
私は疑わしくて、本当に救われたかったのではなく、意味を得たかった? わからなくて考えてしまう。
「その契約を……受け入れたんですか?」
「受け入れた」
きっぱりと、迷いのない声音だった。
だけど、それはエルド様らしいと思えた。
「彼女は、ただ滅ぼす存在じゃない。たしかに異形だ。だが……どこかで、人と同じように、誰かに必要とされたかった。意味を得たかった」
その言葉に、私はネルを見る。
彼女は何も言わない。ただ、こちらを見て、微かに頭を下げた。
敵でも、味方でもない。
けれど今、エルド様の隣に立つことを選んだのは、彼女の意思だったのだ。
彼女のことは信じられない。だけど、エルド様のことは信じられる。
「……わかりました」
私は立ち上がり、ネルの前に歩み寄った。
ぎこちなく、でも真っ直ぐに、手を差し出す。
「私がエルド様の妻である以上、あなたとも向き合います。ネル、あなたが私たちの家族に害をなさないのなら。私は、あなたの存在を拒みません」
ネルは、僅かに目を瞬かせた。
その仕草が、ほんの少しだけ少女らしく見えた気がした。
「……はい」
初めて、彼女の声に熱を感じた気がした。
そして私は息をのむ。
恐れてはいけない。
私がエルド様を繋ぐのです。
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