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聖なる力を宿す者
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「だ・か・ら!どうして私がそんな面倒くさいものに参加しなくちゃいけないのよ!」
お父様から礼拝の許可を得て、専属の執事と侍女たちを引き連れて、神殿にやって来た。少し早く着いた私たちは、時間まで庭を散策することにしたのだが、庭に出た途端、神官や巫女の宿舎から先程の大声が聞こえてきたから、驚いてしまった。それならば、何故、巫女見習いになったのか?
「皆さん、リリナフ様にお会いするのを楽しみにしておられるのですよ」
「平民に会ったところで、私には何のメリットもないじゃない!私はヒロインなのよ!どうせなら王子様くらい連れてきなさいよ。それなら、会ってあげてもいいわ。どうせ、学園で会えるんだし、入学するまで待つ必要もないでしょ。覚醒するのは早いほうがいいし。とにかく!今日は来てないんでしょ。じゃ、出ない」
探さずとも、リリナフに会えてしまった。いや、声を聞いただけなんだけど、為人は分かった。彼女もどうやら前世の記憶を持っているようだ。自分がヒロインであることも自覚している。
「ハルク。彼女の為人も知り得たことですし、帰りませんか?」
「うん。強烈だったね。折角だし、街に寄ってからにしよう?」
「まあ!楽しみですわ。わたくし、初めてなの」
私たちは予定を変更して礼拝には出ず、街へと繰り出した。前の世界では、街に足を運ぶことは安全上、許されなかった。だから、初めてのことにわくわくソワソワしてしまい、ハルクから微笑ましげに見られて顔が赤くなってしまった。
「あれは茸を焼いているのかしら?」
屋台で串に刺した茸を焼いていて、いい匂いを撒き散らしている。松茸のような芳醇な香りがする。
「フフ。お腹がすく匂いだね?」
ハルクは私が串焼きを食べたいことに気付いたらしい。くすっと笑ってこちらを見た。
「もう!意地悪しないで」
「ごめんごめん。折角だから食べよう」
私たちは、「買ってくるので、こちらでお待ちを」という執事を制し、こう提案した。
「そうだわ。誰が1番美味しいものを探せるか競争しましょう?資金は14人分だから、大銅貨5枚でどうかしら?クラビス、渡してあげて。リアムとリードを護衛に残して、シンディーとメリッサは食べるところの確保をお願い。みんな、交替しながら、お願いね?わたくしとハルクも美味しそうなものを探すわ。何があるか、楽しみね」
「それは、いいね。広くて見きれないから、みんなが探してくれると助かるよ」
どうせ、ぞろぞろと団体で歩くのも邪魔になるのだから、別れて探す方が効率がいい。
「仕方ありませんね。ですが、護衛をそばからお離しにはなりませんように」
「分かったわ」
そうして、個々に探して集まった食べ物は、とても個性に溢れていた。
「うっ、か、辛い」
「甘~い」
「これ、初めて食べるわ。何処に売ってたの?」
「この先の端の方だったかな?」
「これは、もうひとつ食べたくなるな」
「ボリュームがあっていいな。訓練後に食べたい」
「確かに」
「料理人に持って帰ったら、作ってもらえないかな?」
リアムやリード、騎士たちが絶賛しているのは、前世のおやきに近い食べ物だ。ただ、中の具の味付けが塩こしょうだからか、私には少し物足りない。
「これなら、わたくし作り方を知ってますわ。そんなに評価が高いのなら、レシピを渡しておきますわね」
「「「「おおー!!!」」」」
「流石、お嬢様です」
「楽しみにしてます」
わいわいと買ってきたものの感想を述べつつ、好きなものを頬張った。
「そろそろ戻りましょう」
クラビスに促されて、馬車の待つところまでのんびりと向かっているときだった。
「なんで予約しとかないのよ!」
ヒステリーな声が道を挟んだ向かいから響いてきた。あまりの五月蠅さに眉をひそめてそちらを見ると、なんとリリナフがいた。
「こちらは予約席はございませんので」
「なら、私の代わりに並ぶ位しときなさいよ!役た立たずね!」
「ですが、私たちも日々のお勤めがありますから」
「私とお勤め、どっちが大切なのよ!あ~あ、別の国の神殿に行こうかなぁ」
「そんな!お待ちください。店の者と交渉して参りますので!」
「なんだ。待たなくても入れるんじゃない。ホント、グズばっかりで困るわぁ」
呆気にとられるとは、このことだ。『聖なる力を宿す者』という肩書きを盾にやりたい放題している。
「ハルク。あの子がリリナフよ」
こそっとハルクに耳打ちした。
「うん。神殿で聞いた声と寸分変わりなく同じ声音だから分かったよ。巻き込まれたくはないから、さっさと帰ろう」
「そうね」
リリナフの顔を確認した私たちは、足を止めることなく馬車に乗り込んだ。
「ハルシオンルー様は、リリナフを聖なる力を宿す者だとおっしゃったけど、前世の記憶があるとはおっしゃらなかったわ」
「知らなかった、はあり得ない。ハルシオンルー様にとっては、些細なことなんだろうね。記憶があってもなくても、この世界を崩壊に導くんだから」
「その通りだわ。あの執着振りだと、リリナフは物語の通りに進めようとするはずよ」
「ん?物語でもあんなに苛烈な人物だったのかい?そんなふうには思えなかったけど」
「物語では、慎ましやかで慈愛に満ちた人物だったわね。ヒロインだから何をしても許されると思ってるんでしょう」
「・・・・あり得ない。あんなのにネルビスは絆されるのか?いくらなんでも馬鹿にしすぎだろう」
余程驚いたのか、ショックだったのか、第1王子殿下を前の世界での呼び方で呼んでいる。
「あれを見てしまうと、神殿への寄付を戸惑うわね」
リリナフの虚栄心を満たすために使われると思うと複雑な気分になる。
「ああ。必要なところに割り振られないなら、減額でいいと思うな。代わりに孤児院の方を増額するように、父上や義父上に進言しよう」
ハルクも思うところがあるようだ。あれが『聖なる力を宿す者』だと思うと業腹ではあるが、この世界が再構築されるまでの刹那の時を無駄にしないためにも、リリナフのことは忘れることにした。
お父様から礼拝の許可を得て、専属の執事と侍女たちを引き連れて、神殿にやって来た。少し早く着いた私たちは、時間まで庭を散策することにしたのだが、庭に出た途端、神官や巫女の宿舎から先程の大声が聞こえてきたから、驚いてしまった。それならば、何故、巫女見習いになったのか?
「皆さん、リリナフ様にお会いするのを楽しみにしておられるのですよ」
「平民に会ったところで、私には何のメリットもないじゃない!私はヒロインなのよ!どうせなら王子様くらい連れてきなさいよ。それなら、会ってあげてもいいわ。どうせ、学園で会えるんだし、入学するまで待つ必要もないでしょ。覚醒するのは早いほうがいいし。とにかく!今日は来てないんでしょ。じゃ、出ない」
探さずとも、リリナフに会えてしまった。いや、声を聞いただけなんだけど、為人は分かった。彼女もどうやら前世の記憶を持っているようだ。自分がヒロインであることも自覚している。
「ハルク。彼女の為人も知り得たことですし、帰りませんか?」
「うん。強烈だったね。折角だし、街に寄ってからにしよう?」
「まあ!楽しみですわ。わたくし、初めてなの」
私たちは予定を変更して礼拝には出ず、街へと繰り出した。前の世界では、街に足を運ぶことは安全上、許されなかった。だから、初めてのことにわくわくソワソワしてしまい、ハルクから微笑ましげに見られて顔が赤くなってしまった。
「あれは茸を焼いているのかしら?」
屋台で串に刺した茸を焼いていて、いい匂いを撒き散らしている。松茸のような芳醇な香りがする。
「フフ。お腹がすく匂いだね?」
ハルクは私が串焼きを食べたいことに気付いたらしい。くすっと笑ってこちらを見た。
「もう!意地悪しないで」
「ごめんごめん。折角だから食べよう」
私たちは、「買ってくるので、こちらでお待ちを」という執事を制し、こう提案した。
「そうだわ。誰が1番美味しいものを探せるか競争しましょう?資金は14人分だから、大銅貨5枚でどうかしら?クラビス、渡してあげて。リアムとリードを護衛に残して、シンディーとメリッサは食べるところの確保をお願い。みんな、交替しながら、お願いね?わたくしとハルクも美味しそうなものを探すわ。何があるか、楽しみね」
「それは、いいね。広くて見きれないから、みんなが探してくれると助かるよ」
どうせ、ぞろぞろと団体で歩くのも邪魔になるのだから、別れて探す方が効率がいい。
「仕方ありませんね。ですが、護衛をそばからお離しにはなりませんように」
「分かったわ」
そうして、個々に探して集まった食べ物は、とても個性に溢れていた。
「うっ、か、辛い」
「甘~い」
「これ、初めて食べるわ。何処に売ってたの?」
「この先の端の方だったかな?」
「これは、もうひとつ食べたくなるな」
「ボリュームがあっていいな。訓練後に食べたい」
「確かに」
「料理人に持って帰ったら、作ってもらえないかな?」
リアムやリード、騎士たちが絶賛しているのは、前世のおやきに近い食べ物だ。ただ、中の具の味付けが塩こしょうだからか、私には少し物足りない。
「これなら、わたくし作り方を知ってますわ。そんなに評価が高いのなら、レシピを渡しておきますわね」
「「「「おおー!!!」」」」
「流石、お嬢様です」
「楽しみにしてます」
わいわいと買ってきたものの感想を述べつつ、好きなものを頬張った。
「そろそろ戻りましょう」
クラビスに促されて、馬車の待つところまでのんびりと向かっているときだった。
「なんで予約しとかないのよ!」
ヒステリーな声が道を挟んだ向かいから響いてきた。あまりの五月蠅さに眉をひそめてそちらを見ると、なんとリリナフがいた。
「こちらは予約席はございませんので」
「なら、私の代わりに並ぶ位しときなさいよ!役た立たずね!」
「ですが、私たちも日々のお勤めがありますから」
「私とお勤め、どっちが大切なのよ!あ~あ、別の国の神殿に行こうかなぁ」
「そんな!お待ちください。店の者と交渉して参りますので!」
「なんだ。待たなくても入れるんじゃない。ホント、グズばっかりで困るわぁ」
呆気にとられるとは、このことだ。『聖なる力を宿す者』という肩書きを盾にやりたい放題している。
「ハルク。あの子がリリナフよ」
こそっとハルクに耳打ちした。
「うん。神殿で聞いた声と寸分変わりなく同じ声音だから分かったよ。巻き込まれたくはないから、さっさと帰ろう」
「そうね」
リリナフの顔を確認した私たちは、足を止めることなく馬車に乗り込んだ。
「ハルシオンルー様は、リリナフを聖なる力を宿す者だとおっしゃったけど、前世の記憶があるとはおっしゃらなかったわ」
「知らなかった、はあり得ない。ハルシオンルー様にとっては、些細なことなんだろうね。記憶があってもなくても、この世界を崩壊に導くんだから」
「その通りだわ。あの執着振りだと、リリナフは物語の通りに進めようとするはずよ」
「ん?物語でもあんなに苛烈な人物だったのかい?そんなふうには思えなかったけど」
「物語では、慎ましやかで慈愛に満ちた人物だったわね。ヒロインだから何をしても許されると思ってるんでしょう」
「・・・・あり得ない。あんなのにネルビスは絆されるのか?いくらなんでも馬鹿にしすぎだろう」
余程驚いたのか、ショックだったのか、第1王子殿下を前の世界での呼び方で呼んでいる。
「あれを見てしまうと、神殿への寄付を戸惑うわね」
リリナフの虚栄心を満たすために使われると思うと複雑な気分になる。
「ああ。必要なところに割り振られないなら、減額でいいと思うな。代わりに孤児院の方を増額するように、父上や義父上に進言しよう」
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