幸せの在処

紅子

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ふわりとしたハルシオンルー様の笑顔が薄れ、気が付くと私たちは祈りの間にいた。ハルシオンルー様との対話を終えた私とハルクは、お互いに顔を見合わせて、そして気付いた。

「パール、その耳にあるがハルシオンルー様の印なのかな?」

「え?本当だわ。ハルクのイヤーカフと同じ物のようだわ」

私たちはお互いの指摘に耳に手をやり、それを確かめた。

「ハルクのはランジューナを模ってるのね。とても繊細で美しいわ」

ランジューナは、前世のスノーフレークに似たとても可憐な白い花で、先端は5枚に別れており、緑ではなく淡い紫の点を持つ。

「パールのもだよ。ハルシオンルー様の花だからね」

お揃いなのかもしれない。ちょっと、ううん。すごく嬉しい。帰ったら鏡で確かめよう。

「花言葉は、慈愛、純粋、記憶、美、無垢な心。ハルシオンルー様のこの世界をよく表しているわ」

「そう言えば、僕たちの適性は何だったのかな?」

『忘れるところだったよ。ハルクールの適性は、炎と風。スキルは、魔剣士と魔道具製作。パーレンヴィアは、水と土と光。スキルは、調理と菜園作り。固有スキルは、話したとおりだ。君たちに制限は何もない。好きにするといいよ』

適性もスキルも前と同じだから、問題なし。問題なのは、固有スキルのほう。私はどうしたものかとハルクを見た。ハルクも同じように困惑している。

「取り敢えず、みんなのところへ戻ろうか?」

「そうね。少し頭の中を整理したいわ」

私たちは、足取りも重く祈りの間を出た。

「「パーレンヴィア!」」
「「ハルクール!」」

待ち構えるように、祈りの間の扉に待機していたらしい両親に抱擁された。突然のことに困惑してしまう。

「心配したわ。ふたりとも1日経っても出てこないんですもの」

「そうよ。倒れたのかと生きた心地がしなかったわ」

「「え?!」」

私とハルクの声が重なった。祈りの間は、中にいる者が自分で出てくるまで扉が開くことはないのだから、心配だっただろう。私たちにしてみれば、2、3時間の感覚だったのだ。普通は5分程で出てくることを考えれば、それでも長いとは思う。なかなか出てこない私たちが心配で、両家とも、昨晩は、神殿の用意した部屋に泊まったと言う。

「今は、翌日のお茶の時間くらいか」

「中で何があった?」

私たちは顔を見合わせた。

「話せないか?それなら仕方がないが」

「そういうわけではありません。少し混乱していて、今暫く時間がほしいとは思います」

「ええ。ハルシオンルー様から全て一任されておりますから、話せないことはありません。整理する時間をいただきたく存じますわ」

早い話が、ハルシオンルー様から丸投げされたのだ。私たちも誰かに丸投げしてもいいだろうか?ちらっとハルクを見ると疲れた顔をしている。話を聞きたそうにしている神殿長に、後日伺うことを約束して、その日はハルクと一緒に公爵邸に帰った。



「何もしないというのもありだよね」

「そうよね」

屋敷に帰った私たちは、「疲れたから」と大人たちを宥めすかし、ふたりで食事を摂りながらハルシオンルー様から託されたことを話し合っている。不思議と眠気はない。

「うん。僕は、パールと一緒にいられたらそれでいい。どうしたって、この世界はハルシオンルー様に再構築されるんだ。パールと過ごす今を大事にしたい」

「それは、わたくしも同じよ。《傍観者》なんて固有スキルもあるのだし、今回は、お父様や国王陛下に丸投げしてもいいのではなくて?」

ハルシオンルー様に与えられた固有スキル《傍観者》によって、私とハルクはこの世界のあらゆるものからの干渉を受けない。例え、戦争が起ころうとも蚊帳の外にいられる。この世界の行く末が、私たちの双肩にかかっていた以前とは違う。

「ハルシオンルー様の意向だけは伝えて、後は個人の判断に任せよう?この世界の行方に干渉することを許されたとはいえ、人の思考を変えることは出来ないし、欲を制御するなんて無理だ。第1王子殿下がリリナフと関わろうと婚約破棄をしようと、或いは、他国の王子殿下たちがリリナフを巡って争おうと、この世界が再構築されるなら影響はないし、好きにすればいいと思う。ハルシオンルー様の理想の世界になるなら、身分制度はなくなると、僕は思うんだ」

「わたくしもハルクに賛成だわ。権力を欲するから争いが起こるのよ。それに、再構築されるまでの間くらい好きにしてもいいと思うわ。この世界に居られなくても、別の世界に行けるのですもの。王族に振り回されるのはもうたくさんよ。それよりも、わたしくは、ハルクと前は出来なかったことをしたいわ」

前世の記憶もあることだし、いろいろと出来ると思うのだ。ハルクとも共有したい。

「僕もだよ。新しい世界がどうなるかは分からないけど、残された最大の時間は6年。パールの夢と照らし合わせても、リリナフが覚醒した半年後の学園を卒業する時だと思うんだ。僕たちの言葉を信じない者は、リリナフを覚醒させようと躍起になるだろうし、覚醒してもしなくてもリリナフを巡る騒動がおきる。そう思うと、既に前の世界で学園を卒業してるんだし、行かなくてもいい気がしてきたよ」

それは、確かに。王族のリリナフを巡る争いに煩わされたくはない。性格が悪いと言われようと、あの時、公の場で婚約破棄をされたあの時、王族への敬意も忠誠も何もかもがなくなったのだ。それは、ハルクも同じだろう。

「ホント、同感だわ。許されるなら、別のことに時間を使いたいわね」

それから、何がしたいのか、何処に行きたいのかなどたわいもない話に花を咲かせた。

「お父様や国王陛下に伝える前に、リリナフにお会いしておきたいの。遠目でも構わないわ」

「僕もそれは思ってた。ハルシオンルー様から試金石と言われるほどだからね。『聖なる力を宿す者』というだけではない気がするんだ」

ハルクの言う通り、ハルシオンルー様は、既にこの世界の人々を篩にかけることに躊躇はないだろう。魂に見合った世界へと誘うとおっしゃっていた。恐らく、逆行前の世界の終わり方に落胆したのだと思う。私たちは、ハルシオンルー様を裏切ったのだ。

「礼拝の日なら、神官や巫女たちも全員参加するよね。パールの夢と同じ人物なら、遠目でも判別できるんじゃないかな?」

その日は、疲れたこともあって、お父様たちに礼拝に行きたいことを相談するのは翌日にした。
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