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崩壊の兆し
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学園が始まり、半年が過ぎた。ここ数月は、魔物の発生が嘘のようになくなった。その代わり、王都周辺では、連日、大量の魔物が発生しているという。タウンハウスに残った使用人によると、王都の城壁の内側に魔物の侵入はまだないが、それも時間の問題だという。近いうちにザカルヴィア侯爵家の使用人と共にそちらに行くから受け入れてほしいとあった。王都にいる人たちは、護衛のいる集団に便乗して逃げ出しているらしい。
「ここに来るのは、使用人だけではなさそうだな」
「ええ。途中の街や村で別れる者たちもいるでしょうが、こちらまでついてくる者も多いでしょうね。受け入れますか?」
「うぅむ。使用人だけなら余裕があるが、他も、となるとな」
「ええ。ザカルヴィア領でも、難しいと思われます」
「フェリペンザ領を併合してしまうか・・・・」
「・・・・領都からはかなり距離がありますから、多少入り込んだところで、気付かれることはないでしょうね」
「やるか」
「やりますか」
お父様とハルクは、釣りでもするような気軽さで物騒な話をしている。その隣で、私はのんびりとお茶を飲んでいた。併合するといっても、フェリペンザ領は、ザカルヴィア領と接しているのだが、うちとザカルヴィア領は既にひとつの領と考えているのがよく分かった。
「ところで、学園は近いうちに閉鎖になるようだぞ」
「「は?」」
寝耳に水。知らなかったぁ~!
「学生が足りないそうだ。お前の従兄弟のキーレンギルムが学園に入学したのは話したな?」
「はい」
あ~。キーレンギルムは、野心家だったなぁ。前の世界でも魔力量にも自信を持ってたし、今も兄よりも自分の方が領主に相応しいって常々言っていたっけ。
「父親宛に手紙が届いたのを見せてもらった。第2王子のことを殊更に褒め称えていたな。学園は第2王子に忖度する者ばかりで、第2王子もその者たちに相応の地位を約束していることが読み取れた。その中でもキーレンギルムは、魔力量の多さから重用されているらしくてな。親に相談もなく、第2王子派の貴族家に養子となるから署名してくれと連絡してきた。侯爵家だったのだが、弟は、呆れ果てて、署名せずに離籍届と絶縁届を提出していたな」
「・・・・」
キーレンギルムは、一体何を考えているのかと、思わず沈黙してしまった。
「それはまた・・・・」
ハルクも何と言えばいいのか分からなかったようだ。派閥の違う家に養子に入ると宣言するということは、家族との縁を切ると言っていることと同じになるのだから。
「リリナフや他国からの留学生はどうなさっているのですか?」
学園が第2王子派の根城になっているなら、グレゴーニ兄様たち留学生は肩身が狭いのではないだろうか?リリナフを口説き落として国に連れ帰るどころではない気がする。
「ああ。そのことにも触れてあったな。第2王子の見限った覚醒の兆しもないリリナフ嬢を留学生3人が必死になって国に連れ帰ろうとしていると馬鹿にしたように書いてあった。結果としては、ソルボン王国の第1王子が連れ帰る権利を得たようだ。既に国に向けて出発していると王都の執事から手紙が来た」
ソルボン王国は、レンベル帝国とは隣り合うがティンバール聖公国とは真逆に位置する国だ。我が領はティンバール聖公国よりにあるから一行がここを通ることはない。それにしても、第2王子は本当にリリナフを駒としか見ていなかったんだなぁと、小さく溜め息を吐いた。
「グレゴーニ兄様は、国に帰ったのですか?」
「それがなぁ。リリナフ嬢についてソルボン王国に向かったそうだ」
「何故?!」
「分からん」
「旦那様!!!た、た、た、たい大変です!」
普段は落ち着いて取り乱すことのない執事のセスチヤンが、ノックも忘れて慌ただしく飛び込んできた。
「どうした、セスチヤン。お前がそのように慌てるなど、緊急事態か?」
「グレゴーニ殿下が『聖なる力を宿す者』を攫い行方知れず。ソルボン王国とレンベル帝国が、ティンバール聖公国に宣戦布告しました!」
「「「はあ?!」」」
「我が国の国王陛下は、どの国も行軍のためにこの国を通過することを禁止なさいました!」
「グレゴーニ殿下は、馬鹿なのか!!!」
お父様の叫びは、私の心の声と同じだった。
「セスチヤン、ティンバール聖公国は何と言っている?」
「そこまでは」
「ティンバール聖公国陛下に連絡をつけねば!」
「た、た、大変です」
セスチヤンと同じように慌てた様子で飛び込んできたのは、クラビスだった。
「第2王子殿下が国王陛下に対して反旗を翻しました!」
「「「は?!」」」
「王城は第2王子派に囲まれて身動きが取れないようです!」
ああ!もう!!!
「お父様。こうなってしまっては、もう慌てる必要もありませんわ。ハルシオンルー様のご意向通りにことが進むまで。わたくしたちがどう足掻こうが、未来は決まったのです」
「そうですね。戦いが始まる前に、この世界は再構築されるでしょう。その時を静かに待つほか出来ることは何もありません」
私とハルクは、その場でハルシオンルー様に祈りを捧げた。この部屋にいる者たちも落ち着きを取り戻し、私たちに倣い祈り始める。すると、キラキラとした光がどこからともなく降り注ぎ始めた。
「なんだこの光は?」
突然の事態に動揺を隠せない。窓の外を見ると、世界全体にキラキラとした光が降り注いでいるではないか。
「え?お父様。耳にイヤーカフが。あら、クラビスとセスチヤンにも」
私の言葉に3人は耳に手を当てた。
「3人ともランジューナを模っていますね。僕たちと同じだ」
「ということは?」
「再構築後もこの世界にいるということです」
ハルクの言うとおりなのだろう。今この時、私たちは行く先を振り分けられたのだ。
「こうしてはおれん。ルオンのイヤーカフも確かめねば!」
お父様は慌ててお母様のもとに走り去った。はっとしたように、セスチヤンとクラビスもお父様に続いて部屋を出て行った。
「再構築の時はもうすぐそこね」
「うん。どんな世界でも、どんな生活になろうとも、僕はパールを幸せにしてみせるよ」
「フフ。わたくしは、ハルクが居てくれれば、どこにいたって幸せよ」
「そうだね。パールが隣に居れば、どんなところでも幸せだ」
17歳と14歳。キラキラと光が降り注ぐ中、私たちは、お互いの存在を確かめ合うように何度も何度も口付けを交わした。
「ここに来るのは、使用人だけではなさそうだな」
「ええ。途中の街や村で別れる者たちもいるでしょうが、こちらまでついてくる者も多いでしょうね。受け入れますか?」
「うぅむ。使用人だけなら余裕があるが、他も、となるとな」
「ええ。ザカルヴィア領でも、難しいと思われます」
「フェリペンザ領を併合してしまうか・・・・」
「・・・・領都からはかなり距離がありますから、多少入り込んだところで、気付かれることはないでしょうね」
「やるか」
「やりますか」
お父様とハルクは、釣りでもするような気軽さで物騒な話をしている。その隣で、私はのんびりとお茶を飲んでいた。併合するといっても、フェリペンザ領は、ザカルヴィア領と接しているのだが、うちとザカルヴィア領は既にひとつの領と考えているのがよく分かった。
「ところで、学園は近いうちに閉鎖になるようだぞ」
「「は?」」
寝耳に水。知らなかったぁ~!
「学生が足りないそうだ。お前の従兄弟のキーレンギルムが学園に入学したのは話したな?」
「はい」
あ~。キーレンギルムは、野心家だったなぁ。前の世界でも魔力量にも自信を持ってたし、今も兄よりも自分の方が領主に相応しいって常々言っていたっけ。
「父親宛に手紙が届いたのを見せてもらった。第2王子のことを殊更に褒め称えていたな。学園は第2王子に忖度する者ばかりで、第2王子もその者たちに相応の地位を約束していることが読み取れた。その中でもキーレンギルムは、魔力量の多さから重用されているらしくてな。親に相談もなく、第2王子派の貴族家に養子となるから署名してくれと連絡してきた。侯爵家だったのだが、弟は、呆れ果てて、署名せずに離籍届と絶縁届を提出していたな」
「・・・・」
キーレンギルムは、一体何を考えているのかと、思わず沈黙してしまった。
「それはまた・・・・」
ハルクも何と言えばいいのか分からなかったようだ。派閥の違う家に養子に入ると宣言するということは、家族との縁を切ると言っていることと同じになるのだから。
「リリナフや他国からの留学生はどうなさっているのですか?」
学園が第2王子派の根城になっているなら、グレゴーニ兄様たち留学生は肩身が狭いのではないだろうか?リリナフを口説き落として国に連れ帰るどころではない気がする。
「ああ。そのことにも触れてあったな。第2王子の見限った覚醒の兆しもないリリナフ嬢を留学生3人が必死になって国に連れ帰ろうとしていると馬鹿にしたように書いてあった。結果としては、ソルボン王国の第1王子が連れ帰る権利を得たようだ。既に国に向けて出発していると王都の執事から手紙が来た」
ソルボン王国は、レンベル帝国とは隣り合うがティンバール聖公国とは真逆に位置する国だ。我が領はティンバール聖公国よりにあるから一行がここを通ることはない。それにしても、第2王子は本当にリリナフを駒としか見ていなかったんだなぁと、小さく溜め息を吐いた。
「グレゴーニ兄様は、国に帰ったのですか?」
「それがなぁ。リリナフ嬢についてソルボン王国に向かったそうだ」
「何故?!」
「分からん」
「旦那様!!!た、た、た、たい大変です!」
普段は落ち着いて取り乱すことのない執事のセスチヤンが、ノックも忘れて慌ただしく飛び込んできた。
「どうした、セスチヤン。お前がそのように慌てるなど、緊急事態か?」
「グレゴーニ殿下が『聖なる力を宿す者』を攫い行方知れず。ソルボン王国とレンベル帝国が、ティンバール聖公国に宣戦布告しました!」
「「「はあ?!」」」
「我が国の国王陛下は、どの国も行軍のためにこの国を通過することを禁止なさいました!」
「グレゴーニ殿下は、馬鹿なのか!!!」
お父様の叫びは、私の心の声と同じだった。
「セスチヤン、ティンバール聖公国は何と言っている?」
「そこまでは」
「ティンバール聖公国陛下に連絡をつけねば!」
「た、た、大変です」
セスチヤンと同じように慌てた様子で飛び込んできたのは、クラビスだった。
「第2王子殿下が国王陛下に対して反旗を翻しました!」
「「「は?!」」」
「王城は第2王子派に囲まれて身動きが取れないようです!」
ああ!もう!!!
「お父様。こうなってしまっては、もう慌てる必要もありませんわ。ハルシオンルー様のご意向通りにことが進むまで。わたくしたちがどう足掻こうが、未来は決まったのです」
「そうですね。戦いが始まる前に、この世界は再構築されるでしょう。その時を静かに待つほか出来ることは何もありません」
私とハルクは、その場でハルシオンルー様に祈りを捧げた。この部屋にいる者たちも落ち着きを取り戻し、私たちに倣い祈り始める。すると、キラキラとした光がどこからともなく降り注ぎ始めた。
「なんだこの光は?」
突然の事態に動揺を隠せない。窓の外を見ると、世界全体にキラキラとした光が降り注いでいるではないか。
「え?お父様。耳にイヤーカフが。あら、クラビスとセスチヤンにも」
私の言葉に3人は耳に手を当てた。
「3人ともランジューナを模っていますね。僕たちと同じだ」
「ということは?」
「再構築後もこの世界にいるということです」
ハルクの言うとおりなのだろう。今この時、私たちは行く先を振り分けられたのだ。
「こうしてはおれん。ルオンのイヤーカフも確かめねば!」
お父様は慌ててお母様のもとに走り去った。はっとしたように、セスチヤンとクラビスもお父様に続いて部屋を出て行った。
「再構築の時はもうすぐそこね」
「うん。どんな世界でも、どんな生活になろうとも、僕はパールを幸せにしてみせるよ」
「フフ。わたくしは、ハルクが居てくれれば、どこにいたって幸せよ」
「そうだね。パールが隣に居れば、どんなところでも幸せだ」
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