幸せの在処

紅子

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幸せの在処

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「ハルク。今日はそろそろ終わりにしない?お父さんたちが来るわ」

「もうそんな時間?」

「ええ。1時間もすれば来るわよ」

あれから、あのキラキラの光が降り注いだ日から、5年が経った。ハルシオンルー様が言っていたとおり、瞬きの間に世界は再構築され、新しい世界は、思った通り、身分差のない穏やかで美しい世界が広がっていた。方舟が起動しての再構築だったため、人々は前の世界の記憶を有したまま、新しい世界で生きてきた記憶もあり、当初は混乱を極めたが、それもすぐに落ち着いた。大切な人は目の前にいると気付いたから。それでも、1/3くらいは、この世界から消えていた。それぞれ、相応しい世界で生きているに違いない。

「それは、急いで庭を準備しないとね。呼んでくれてありがとう。カイルークたちも来るんだったよね?」

この世界になって、それぞれの呼び方も前の世界と少しずつ違う。様付けなんて誰もしない。

「ええ。つわりも落ち着いて、普通に食べられるようになったから、参加するって連絡があったわ」

カイルークは、前の世界で、ネルビス殿下の婚約者だったミリオルタ公爵令嬢と2年前結婚した。薬草を探しにここから少し離れたルネライの森へ行った際に、怪我をしている彼女を助けたのだという。

「ルークシュベート兄上はお元気だろうか?」

どこを見るともなく向けられたハルクの視線には、心配の色が窺える。家族の中で唯ひとり、ハルクのお兄様は、再構築されたこの世界にはいない。その存在を覚えているのも、今は私たちだけ。当初、誰もが記憶を持って新しい世界に降り立ったが、徐々に記憶は薄れ、4年もしないうちに私たち以外は前の世界のことを忘れてしまった。それは、ハルシオンルー様の優しさだと私は思っている。

「元気に決まっているわ。だって・・・・」

愛する人護衛の騎士の方と一緒に居るんだもの。

だって、に続く言葉は、ハルクにも言えない。この新しい世界には、その概念すら存在しないから。一度、お義兄様たちの住んでいたところを訪ねたことがある。お義母様が言葉には出さずともお義兄様のことを心配して気にしていたから様子を見に行った。だが、そこには、見たこともない人が暮らしていた。初めこそ戸惑っていたハルクだったが、お義兄様も、護衛のために一緒に暮らしていた方もこの世界から消えたという事実を受け入れた。ハルクはそれぞれ別の世界へと旅立ったと思っているが、2人は一緒に生きやすい世界へ行ったと私は信じている。

「そうだね。どこかで幸せにしているよね、きっと」

ハルクはこてりと私の肩に頭を預けた。お兄様を思い出して語るときには、いつもこうして甘えてくる。家族の誰とも共有できない思い出を忘れたくないのだと思う。

「ハルクが可愛いすぎる」

「ええ~。パールの方が可愛い」

「ひゃっ!」

ハルクに首筋を強く吸われた後、ペロッと舐められた。

「ほら、パールの方が可愛い」

「もう!ハルクのバカ。お父さんたちが来るのにぃ」

「パールが可愛すぎるのが悪い。ちゅ」

今度は、尖らせた唇の先に口付けをおとされた。砂糖よりも蜂蜜よりも甘く蕩けるようなハルクの笑みに酔いそうだ。

「~っ!もう。ほら、早く仕度しなきゃ、間に合わなくなっちゃうわ」

「そうだね」

真っ赤な顔を隠すようにハルクに背を向けたけど、私の後をクスクスと笑いながらついてくるハルクに気付かれていないわけもない。



からんから~ん

準備も大方出来たころ、呼び鈴が鳴った。

「お父さんたちかしら?」

「早くないか?20分も前だよ」

私とハルクは訝しく思いながらも玄関を開けた。そこには・・・・。

「カランお兄ちゃん!ヒナ姉さん!」

「え?!ネルビス?」

思いがけない人の登場に、私もハルクも目を白黒させてしまった。もうひとり、初めて会う人もいる。

「久し振りだな。元気だったか?」

「突然どうしたの?」

「演奏しながら各地を巡ってるんだ。暫くここに滞在するから、会いに来た」

「入って、入って。もう少しすると、お父さんたちも来るから、会っていってよ」

「いいのか?」

「ネルビスも久し振りだな。旅に出るとは聞いていたけど、カランコッドたちと一緒だったとはな」

「ああ。カランとヒナが私の街に来てね、勧誘された。紹介するよ。私の妻のミオリーナ。旅の途中で出会って結婚した」

私とハルクも自己紹介する。4人を招き入れ、お父さんたちも合流して、ワイワイと盛り上がった。もちろん、カランお兄ちゃんたちの演奏もその場を盛り上げてくれる。音楽があるって素晴らしい。

「それで、カランコッドが歌って、ヒナメリアがピアノ、ネルビスが打楽器でミオリーナがバイオリン。作詞作曲もしちゃうのね。凄いわぁ」

なにそれ、バンドみたい。それも、ビジュアル系バンド。さぞかし、人気がでるに違いない。

「移動は、飛竜か」

「私が飼育のスキルを持っていますから」

飛竜なら、4人を乗せても余裕があるし、移動も楽。

「いろんな街に行って、演奏の許可を取って聞いてもらうんだ。屋外もあるし、酒場とか、劇場もあったな」

「劇場は音が響く分、調整が難しいがやりがいはある」

もう、コンサートだよね、それ。カランお兄ちゃんたちが楽しそうでなによりだ。

「どうせなら、演奏を録音して売り出したら?」

「なんだって?」

驚いた声を出したのはカランお兄ちゃん。

「演奏会の時に、楽曲を予め録音しておいた魔道具を売るの。演奏の余韻に浸れるし、日常生活の潤いになると思わない?こういった集まりで流して、皆で踊る曲とか、ゆったりした曲で、雰囲気を演出するとか、ね。4人の姿絵も売れると思うよ?」

録音の魔道具は、そんなに高価な物ではない。と言うのも、使いどころがあまりなく、需要がない。

「よくそんなこと思いついたわねぇ」

「父さんの言っていたとおりだな。本当にパールは突拍子もないことを言う」

「姿絵はともかく、演奏を録音して売るのはいいな」

「1曲ずつ録音したのと複数曲を録音したのと両方作成するのをお薦めするわ。防音を施した部屋で作成してね」

要するに、シングルとアルバム。

「防音か」

「魔道具があるし、宿で早速作ってみよう」

カランお兄ちゃんたちは、はやる気持ちのままに宿に帰っていった。その後、お父さんたちも音楽の余韻に浸りながら、楽しそうに帰宅した。

「パールの提案は、前世の世界の?」

「うん。音楽が身近にあった世界だったから」

「凄い世界だったんだね」

あれ?ハルクの様子がちょっとおかしい。拗ねてるの?

「凄い世界だったけど、それだけよ?ハルクの居るこの世界が1番大切。・・違うわね。ハルクが1番大切で、一緒に幸せになりたい人よ」

私は、ハルクの腰に腕を回した。

「うん。ちゃんと知ってる。僕も同じだよ。パールは、何にも代えられなくて、誰よりも愛してる人」

ハルクも私を引き寄せて、髪に口付けをおとす。

「前世に未練なんてないわ。ただ、その知識で少しでもこの世界が豊かになればいいなと思ってるだけ」

「うん。わかってるはずだったんだけどね。あんまり楽しそうだったからモヤッとしただけ」

バレてた。楽しくて浮かれてたのは認める。この世界初のビジュアル系バンド爆誕?!ってね。実際、数年後には爆誕するんだけど、この時は、ハルクを宥めることに精一杯だった。

新しい世界でも、みんなそれぞれに幸せに暮らしている。



~END~













最後までお読みいただき、ありがとうございました\(^o^)/番外編、あります。
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