巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?

紅子

文字の大きさ
35 / 36

半身なんて要らなかった~シュベリーズ~

しおりを挟む
どうして、こんなことに?理由は分かっている。わたくしが半身に振り回されたから。半身に愛して欲しかったから。すべてわたくしの弱さが招いたこと。でも、それももう終わりにしなくては。

熊族のわたくしが半身に出逢ったのは、7歳の時。7歳になると貴族の子女は、年に1度だけお城で開かれるお茶会に招待される。そのお茶会で王妃様の隣にいた第1王子殿下がわたくしの半身だった。その時の衝撃は今でも忘れることが出来ない。目の前に薔薇が咲き誇ったのだ。硬直して名前も言えないわたくしに第1王子殿下は優しく話しかけてくれた。天にも昇る心地とはあのことを言うのだろう。

「気分が優れないのですか?」

「あらあらまあまあ。緊張してしまったのかしら?」

「シュベリーズ?」

困惑したお母様の声が遠くで聞こえた。わたくしは、なけなしの勇気を振り絞ってひと言だけやっとの思いで声に出した。

「は、はん、しん」

と。

「「!!!!!」」

当然、周りは驚きに固まった。他の誰も気付かなかったけれど、わたくしだけは見てしまった。第1王子殿下が一瞬嫌そうな顔をしたのを。気のせいかと思ったが、すぐに取り繕った笑顔で残酷なことをわたくしに言ってのけたのだ。

「気のせいですよ、きっと」

と。

先程の嫌そうな顔とその言葉にショックを受けたわたくしは、その場で気を失ってしまったようだ。気が付いたときには、自宅のベッドの上だった。

後に、彼のタイプはわたくしと正反対の、嫋やかで儚げな美しい人だと知った。まさにアルキナッサそのものだ。大木となりやすい樹族にあって、細身でスラッとした第1王子殿下は、その容姿を自慢に思っていた。そして、横に立つに相応しいのはアルキナッサだと、残酷にも半身であるわたくしに豪語したのだ。わたくしは、熊族の中では小柄だが、嫋やかさとはほど遠く、儚げな面影は皆無と言っていい。コロンとしてフワフワの、可愛いと表現する方がしっくりくる容姿をしている。お母様がドワーフ族なことが多少なりとも影響しているらしい。熊族らしいガッチリとした大女とどちらがマシか、わたくしには分からない。どちらであっても半身のお眼鏡には叶わないのだから。とは言え、わたくしは、公爵家の令嬢であり、家柄にも問題はなく、第1王子殿下の後ろ盾もしても申し分がなかったため、半身という種族特性を考慮された結果、第1王子殿下の婚約者に納まった。そして、第1王子殿下は立太子され、王太子となる。

そこからわたくしの苦難と屈辱と苦痛の日々が始まった。

毎日の王太子妃教育が終わると、わたくしは王太子殿下とお茶の時間がある。わたくしたちふたりが仲を深められるようにと配慮された故のものだ。だが・・・・。その初日から王太子殿下は別の令嬢と既にお茶をしていた。

「あら、こちら、どなたですの?ライオネル」

王太子殿下の愛称を呼ぶ令嬢の存在に驚きを隠せない。婚約者のわたくしですら、そう呼ぶことは許されていないのに。

「ちっ。本当に来たのか。これは、キルギリス公爵家の令嬢だ」

「まあ!では、ライオネルの婚約者ではございませんか」

「残念だが、そういうことになる」

王太子殿下の彼女を見る目は優しい。

「そんなことおっしゃってはダメよ。わたくしは、アルキナッサ。メロディアン大公家のひとり娘よ。さあ、こちらにいらっしゃいな」

「お初にお目にかかります、キルギリス公爵家のシュベリーズと申します」

図々しくも婚約者同士の逢瀬に居座る令嬢が格上の者だと知り、どうすることも出来ない。わたくしの侍女も一瞬だが、眉を顰めたのが目の端に映った。ふたりはその後もわたくしなどいないかのようにふたりだけで会話を楽しんでいた。

「おまえ、まだいたのか。アルキナッサ、少し風が出てきた。迎えが来るまで部屋に居よう」

そう言うと、アルキナッサをエスコートして行ってしまった。わたくしは、呆然とそれを見送るしか出来なかった。以来、一事が万事こんな状態で、それでも、半身の近くに居られるだけで幸せだと会いに行った。お父様たちに知らせることはしなかった。逢えなくなることの方が怖かった。わたくしを心配したジェラルド家令からある物を渡され、それを肌身離さず持つことで使用人も黙らせた。

そのうち、アルキナッサにも半身が現れ、わたくしたちのお茶会には現れなくなったが、王太子殿下とわたくしの間に会話はついぞ生まれなかった。学園に入ると、更に酷いことになる。

「おい!この課題だが、完璧に仕上げておけ。幽霊のようなおまえを手元に置いてやっているんだ。感謝しろ」

課題を押しつけられるのは当たり前。王太子としての書類もすべてわたくしに押しつけた。寝る間もなく、どんどん窶れていくわたくしに対して、彼は、精霊族や天使族、花人族などの嫋やかで儚げな令嬢との逢瀬を楽しむのだ。

「あら、わたくしのもお願いするわ。クライスター様とお出かけなの。半身を持つあなたなら、それがいかに重要か分かってくださるでしょう?」

そこにアルキナッサも便乗する。

「そうだな。それくらい出来なくては、王太子妃など務まらん。手を抜くなよ」

「承知いたしました」

わたくしに出来るのは、肯定することだけ。少しでも刃向かえば「おまえなど、棄ててもいいのだぞ?狂って死ぬか?」と冷たく突き放される。わたくしは、少しずつ少しずつ壊れていったのだと思う。そして、あの日。アルキナッサの婚約者であるクライスターが処刑された日。

「赦さない!わたくしと同じ目に遭わせなければ。あの女の半身を目の前で八つ裂きにしてやる!一生抜け出せない奴隷に堕とさなければ、わたくしの気持ちが収まらないわ」

アルキナッサの怒りは相当なものだった。

「もちろん、私もシュベリーズも協力する。王妃となる婚約者に協力するのは当然だ。側妃にしてもらえるシュベリーズだって、協力するさ」

「え?」

アルキナッサが婚約者ってどういうこと?わたくしが側妃って?いつの間にそうなったのだろう?

「なんだ?不満なのか?」

眉間に皺を寄せ不機嫌な顔を向ける王太子殿下にわたくしは萎縮し、首を横に振るしか出来なかった。

「そうだよな。不満なんてあるわけない。半身であるの私のそばにいられるように配慮してもらえるんだ。アルキナッサには、どれだけ感謝してもしたりない。そうだろう?」

半身に威圧されたわたくしは、もう何も考えることなど出来ず、ただただ首を縦に振るしかなかった。そして、最悪のことが起こる。

「わた、わたくしは、キルギリス公爵令嬢に唆されたのです。クライスター様を喪ったとは言え、このような大それたこと出来ないと止めたのです!」

「その通りです。私も反対しました。ですが、専属執事が勝手にシュベリーズに従ったのです!」

「そうですわ。執事が勝手にやったこと。わたくしは、無関係です!」

わたくしをどこまでも軽く扱い、周りにその責任を押しつけるその態度に、憎悪が湧いた。半身を憎悪するなど今までのわたくしではあり得なかったが、砕けてしまったのだ。半身を想う魂そのものが。わたくしは、無言で今までの仕打ちを記録した魔石を取り出して再生した。10年分の記録を。

「どうやら、すべておまえたちの戯れ言だったようだな。学園からも苦情が来ている。半身を脅して奴隷のように扱うとはな。半身のいる種族を蔑ろにする行為だということにも気付かない。他国の王族に手を出したらどうなるのかさえ想像できない。なあ、ライオネルサーガ。この国の評判は、おまえたちのせいでガタ落ちだよ。ただの逆恨みで稀代の魔法陣描きと言われるお方とその半身を害そうとするなど。どう落とし前をつける気だ?」

「クッ。私の気持ちなど、伴侶を押しつけられる私の気持ちなど父上には分からない!」

「フン!何を甘えたことを。王侯貴族などみな政略結婚だ。伴侶など選べん。半身でなくても、おまえの婚約者はシュベリーズだった。大公家の者は血が近すぎて候補にもあがることはない」

「そんな・・・・」

「さて、今回の件、これ以上、我が国の評価を下げることは出来ない。よって、名の上がった3名は、引き渡し直後に自害を命じる。また、首謀者であるアルキナッサの保護者であるメロディアン大公は監督不行届きとして、大公の座を剥奪。領地はすべて没収。アルキナッサは、北の棟にて幽閉。シュベリーズについては、情状酌量の余地ありとみなし、キルギリス公爵領の一部没収に加え1階級の降爵。婚約は白紙撤回とし、領地にて幽閉。王太子である第1王子は、廃嫡の上幽閉とする。また、第1王子とアルキナッサは、特殊な隷属の魔法陣を施すこととする。異議は受け付けぬ!!!」

「そんな」

「わたくしは悪くないのに」

「畏まりました」

ジェラルド家令には、申し訳なさしかない。彼の「いいのですよ、お嬢様」と笑う姿が浮かんでくる。指示されただけの彼にそのような沙汰が下されるとは思ってもみなかった。わたくしの浅はかさが招いた結果だと悔やんでも悔やみきれない。首謀者である第1王子殿下、アルキナッサ、わたくしの3人だけが、死罪を賜ってすべて終わると思っていたのだ。一族にまで迷惑をかけるなど、想像すらしていなかった。本当に浅慮だったと悔やまれるが、半身に振り回されていたわたくしでは、気付いていても同じ選択しか出来なかったでしょう。もう、思い残すことはない。魂の砕けたわたくしは、狂い死ぬこともない。ただ、微笑んで朽ち果てていく。それが、わたくしの選んだ未来みち
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

処理中です...