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救い
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贈り人のスミレは、私を全く怖がらない。それどころか、仮面の私に笑いかけてくれさえする。仮面を被りマントを身に付けていても、あからさまにではないが、誰もが私に怯え震えているのは知っている。この離宮に勤める者ですら、素で接することは叶わない。なのに、あの女神様は・・・・。どれ程嬉しかったことか。私の世話をしてもよいとまで仰ったのだ。女性は誰も私に近づこうとはしないのに。もう、未練はない。女神様のためなら、この命も惜しくはない。・・・・。いや、せめて、別の世界から独りやって来た女神様の幸せを見届けるまでは、生きなければ!
コンコンコン
「殿下。お休みのところ申し訳ございません。プリシラから姫様が寝室におられないと」
「わかった。すぐに行く」
居ない?どういうことだ?
仮面とマントを身につけて、スミレの部屋へと急ぐ。といっても、はす向かいだが。扉の外にはプリシラが控えていた。
「どうした?」
「ええ・・・・」
プリシラは少し困ったように片手を頬にあてて、眉を下げた。
「姫様はこちらに来たばかりですから、余計なお世話かとも思ったんですが、眠れているか隣の部屋で様子を見ておりました。やはり、眠れないようでしたので、お飲み物でも差し上げようと何度かお声をお掛けしても返事がなくて。寝室へ入っていいものか・・・・。眠ってしまわれたなら、別にいいのですよ。ですが、寝室に人の気配がない気がして・・・・」
「わかった。私がひとりで行くのは憚られる。プリシラと爺も共に参れ」
寝室には、プリシラの言った通り人の居る気配がしない。そっと天蓋をめくり中を覗く。ベッドに人のいた温もりはない。いったい何処へ行ったのか?
「居ないな。大分前に抜け出している」
「そんな!私は姫様が寝室にお入りになってからずっと隣の部屋で控えておりましたが、誰も来ておりません」
プリシラは、おろおろと狼狽えている。ふと、テラスへと続く扉のカーテンが目に入った。少しだけ乱れている?
片手をあげて、プリシラと爺を制した。
「見つけた。ふたりはここに居てくれ」
静かに扉を開けてテラスへと出た。そこには・・・・。備え付けのソファーで丸くなり、うつらうつらと夢と現を行き来するスミレがいた。この方なら、私が触れても怒りはすまい。ゆっくりとその髪を撫でると、驚くほど冷たい。いったいいつからここに居るのか。
「こんなところで寝ては、風邪を引く」
身体も冷えてしまっただろう。早く中に入れなければと声を掛けたが、反応は返ってこない。どうしたものかと、もう一度声を掛けようとしたとき、ふいに、髪に触れていた手を華奢な手が絡めとった。そして、私の手を抱き込むとスッと眠りに落ちたのがわかった。
どうすればいいのだ?
スミレの柔らかな感触とその温もりにくらくらしてくる。こんなに近くで人に、まして女性に触れることなどない私は、衝撃的過ぎて身体を動かすことも出来ない。
「殿下、姫様が眠っておられるなら、抱き上げてベッドにお連れください」
爺は今、抱き上げると言ったか?
「・・・・」
「爺の声が聞こえておりますかな?」
「ああ、ああ、聞こえている。わかった」
ああ、私などが女神様を抱えるなど・・・・。どうか、お許しください。
スミレが途中で起きてしまわぬよう、慎重にゆっくりと抱き上げベッドに運んだ。プリシラは、冷えてしまったスミレの身体を温めるため、湯を用意するなどてきぱきと動いている。その間もスミレは私の手を握って離さない。暫くそのままでいたが、身体が温まってきた頃を見計らって、名残惜しいがそっと手を外した。掴むものがなくなったスミレは、手をさ迷わせている。プリシラがその手をそっと握ったが、違うと言わんばかりに振りほどき、何かを探すように再び手をさ迷わせる。爺が手を握ってみても同じだった。段々とスミレの顔色が悪くなり、呼吸が荒くなっていいるように思う。
「殿下」
さあ、手を握ってみろ!と爺が私の背中を押す。
「あ、ああ」
そっとスミレの手を握ってみれば、そのまま握り込まれて離そうとしない。私は、硬直した。こんな夢のようなことが起こってもいいのか?ああ、夢なんだな。そうか、夢か。それなら納得だ。
「殿下。お気を確かに。これは、夢ではございませんぞ」
私の思考を見透かしたように爺が言った。
夢ではない?これが?
「うおほん。殿下。仕方ございませんから、今暫く姫様に付き添って差し上げてください」
「そうですね。それがいいでしょう。後程わたくしが起こしに参りますから、それまでは、姫様の隣でお休みください」
何を言っているのだ?
「くれぐれも、手はお出しになりませんように。では、失礼致します」
おい!置いていくな!
ふたりはさっさと出ていってしまった。追いかけようにもスミレに捕まっている。声をあげればスミレが起きてしまうかもしれない。
隣で眠ってもいいのだろうか?いや、未成年とは言え、女性の隣に許可もなく入るなどよくないだろう。しかし・・・・。ぐるぐると考え込んだあげく、結局、マントを脱いで仮面を取外して、隣に潜り込んだ。私も男だということだ。スミレの握り込んだ手とは反対の手で、つるつるとした髪を撫でる。柔らかな頬にそっと手を滑らせる。スミレの体温を嫌というほど感じ、一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった。自制心の限界を迎えた私は、プリシラが起こしに来るよりも早く、スミレのいる寝室を後にした。
朝の日課である稽古にいつも以上に励んだ後、部屋で身支度を整えた頃に、夕べのことを何も知らないスミレが侍女のお仕着せを着て、私の私室にやって来た。
「おはようございます、ミカエル様。朝食をお持ちしました」
「!・・・・」
本当に来るとは思わなかった。夕べのこともあり、気恥ずかしさと後ろめたさから、身体が硬直してしまう。
「ミカエル様、どうかしましたか?」
ツンツンとマントを引っ張られ、どうにか声を出した。
「ああ、いや、何でもない。・・・・何故、二人分?の朝食があるのだ?」
これは、二人分なのか?私のひとり分にしては、量が多い。が、二人分にしては、片方が少なすぎる。だが、カトラリーは二人分用意してある。
「一緒に食べたいなぁと思いまして。迷惑でしたか?」
は?今、何と言った?
「・・・・?一緒に食べたいと言ったか?いや、すまない。聞き違いだ」
そうか。夕べのことに浮かれすぎて、私は耳までおかしくなったのだな。そうか。
「?聞き違いじゃありませんよ。ご一緒してはダメですか?」
「な!・・・・」
私と食べたいと言っているのか?何故?正気か?
「王族は、ひとりで食べる規則があるんでしょうか?」
そんな規則は聞いたこともないな。
「いや、それはないが・・・・。私は、仮面を取らねばならないから、その・・・・」
ああ、寝ぼけていて、私の素顔を見てはいないんだな。そうに違いない。
「???えっと、お顔を見られたくないということですか?それなら、今更ですよね?昨日しっかり堪能させていただきました」
!!!!!
「!!!見ていないと、忘れていると思っていた・・・・。怖くはないのか?」
ああ、女神様に怖がられたら、どうすればいいんだ。
「意味がわかりません。ああ、怖いほどの美しさということですか。それなら納得ですが、仮面を着けていても隠しきれていない気がしますよ。取ったらどうですか?まあ、多少の女性避けにはなるのかなぁ?」
怖いほどの美しさは、スミレだろう?
「何を言っているのだ、貴女は。私のようなおぞましい者が素顔を晒せは、周りが迷惑するだろうに」
訝しげに首をかしげる様も可愛い。誰にも見せたくなくなるではないか。
「ちょっと仮面を取ってみてもらえますか?昨日私が見た天使様は、ミカエル様ですよね?」
何を言い出すのだ。見せられるわけがない。嫌われたくはない。怯えられるのはもう嫌だ。
「それは、出来ない・・・・」
何故か悲しげな顔をしたスミレは、直ぐにその表情を穏やかなものにかえた。くるくると変わる表情に気を取られている間に、スミレは、マントを掴んでいた手を私の肩に置き直して、反対の手を仮面へと伸ばしてきた。
「おい、やめんか!」
スミレの手が仮面に届かないように少しだけ身体を引いた。とたん・・・・。
「あ」
スミレが足を滑らせた。私の肩を掴んでいるのだから、自分で体制を整えられるだろうと軽く手を添えようとしたところで、スミレが肩を掴んでいた手を離した。
何故、離す?!
慌ててスミレと床の間に身体を滑り込ませ、その身体を抱き止めた。
「すまぬ」
スミレに怪我を負わせなかったことにほっとして油断した。さっと、仮面をスミレの手で外されてしまった。一瞬の出来事だった。
「み、るな・・・・」
この顔にスミレがどう反応するか、恐怖と絶望に顔が歪む。拒絶される恐ろしさに、顔を片手で覆い、俯いて、懇願するように呻いた。
「見ないでくれ・・・・」
今貴女に拒絶されたら、私は・・・・。お願いだ。何も見ていないと、昨日と同じように振る舞ってくれ。でないと・・・・。
小さな手が私の頭を撫でる。私の暗くどろどろとした、この顔のようにおぞましい闇を宥めるように、何度も何度も。
「ごめんなさい。でも、昨日会った天使様があなたか確かめたかったの。だって、昨日の天使様はとても綺麗で、この世の者とは思えなかったから。おぞましいなんて言うから、別人だったのかと思って。貴方は間違いなく昨日、私を拾ってくれた天使様でした」
女神様は、私の頬をその両手で挟み、まるで、眩しいものを見るような目で私を見つめてくる。
何が起こったのだ?
「フフフ。役得」
「貴女は・・・・、私のこの容姿が・・・・平気なのか」
驚きを隠せない。
「平気・・・・なのかな?あり得ないほど美しくて気後れはしてますよ?」
意味がわからないのだが。
「それは、美しすぎるのは貴女だろう?」
ふたりして首をかしげておかしなことになっている。
「またまた、そんな冗談を。私は、ごくごく平凡で「ぐぅ~」・・・・」
そうだった。食事を一緒に取るという話しからこうなったんだったな。
「話しは、食事をしながらにしよう」
可愛らしい私の女神様は、真っ赤な顔で俯いてしまった。その姿すら可愛らしく、クスクスと笑いが漏れる。ああ、笑ったのはいつぶりだろう?こんなに晴れやかな気分も久しぶりだ。
ゆっくりとスミレを立たせ、席までエスコートした。そして、少し冷めてしまった朝食をスミレと摂りながら、私は驚きの事実を知ったのだった。
コンコンコン
「殿下。お休みのところ申し訳ございません。プリシラから姫様が寝室におられないと」
「わかった。すぐに行く」
居ない?どういうことだ?
仮面とマントを身につけて、スミレの部屋へと急ぐ。といっても、はす向かいだが。扉の外にはプリシラが控えていた。
「どうした?」
「ええ・・・・」
プリシラは少し困ったように片手を頬にあてて、眉を下げた。
「姫様はこちらに来たばかりですから、余計なお世話かとも思ったんですが、眠れているか隣の部屋で様子を見ておりました。やはり、眠れないようでしたので、お飲み物でも差し上げようと何度かお声をお掛けしても返事がなくて。寝室へ入っていいものか・・・・。眠ってしまわれたなら、別にいいのですよ。ですが、寝室に人の気配がない気がして・・・・」
「わかった。私がひとりで行くのは憚られる。プリシラと爺も共に参れ」
寝室には、プリシラの言った通り人の居る気配がしない。そっと天蓋をめくり中を覗く。ベッドに人のいた温もりはない。いったい何処へ行ったのか?
「居ないな。大分前に抜け出している」
「そんな!私は姫様が寝室にお入りになってからずっと隣の部屋で控えておりましたが、誰も来ておりません」
プリシラは、おろおろと狼狽えている。ふと、テラスへと続く扉のカーテンが目に入った。少しだけ乱れている?
片手をあげて、プリシラと爺を制した。
「見つけた。ふたりはここに居てくれ」
静かに扉を開けてテラスへと出た。そこには・・・・。備え付けのソファーで丸くなり、うつらうつらと夢と現を行き来するスミレがいた。この方なら、私が触れても怒りはすまい。ゆっくりとその髪を撫でると、驚くほど冷たい。いったいいつからここに居るのか。
「こんなところで寝ては、風邪を引く」
身体も冷えてしまっただろう。早く中に入れなければと声を掛けたが、反応は返ってこない。どうしたものかと、もう一度声を掛けようとしたとき、ふいに、髪に触れていた手を華奢な手が絡めとった。そして、私の手を抱き込むとスッと眠りに落ちたのがわかった。
どうすればいいのだ?
スミレの柔らかな感触とその温もりにくらくらしてくる。こんなに近くで人に、まして女性に触れることなどない私は、衝撃的過ぎて身体を動かすことも出来ない。
「殿下、姫様が眠っておられるなら、抱き上げてベッドにお連れください」
爺は今、抱き上げると言ったか?
「・・・・」
「爺の声が聞こえておりますかな?」
「ああ、ああ、聞こえている。わかった」
ああ、私などが女神様を抱えるなど・・・・。どうか、お許しください。
スミレが途中で起きてしまわぬよう、慎重にゆっくりと抱き上げベッドに運んだ。プリシラは、冷えてしまったスミレの身体を温めるため、湯を用意するなどてきぱきと動いている。その間もスミレは私の手を握って離さない。暫くそのままでいたが、身体が温まってきた頃を見計らって、名残惜しいがそっと手を外した。掴むものがなくなったスミレは、手をさ迷わせている。プリシラがその手をそっと握ったが、違うと言わんばかりに振りほどき、何かを探すように再び手をさ迷わせる。爺が手を握ってみても同じだった。段々とスミレの顔色が悪くなり、呼吸が荒くなっていいるように思う。
「殿下」
さあ、手を握ってみろ!と爺が私の背中を押す。
「あ、ああ」
そっとスミレの手を握ってみれば、そのまま握り込まれて離そうとしない。私は、硬直した。こんな夢のようなことが起こってもいいのか?ああ、夢なんだな。そうか、夢か。それなら納得だ。
「殿下。お気を確かに。これは、夢ではございませんぞ」
私の思考を見透かしたように爺が言った。
夢ではない?これが?
「うおほん。殿下。仕方ございませんから、今暫く姫様に付き添って差し上げてください」
「そうですね。それがいいでしょう。後程わたくしが起こしに参りますから、それまでは、姫様の隣でお休みください」
何を言っているのだ?
「くれぐれも、手はお出しになりませんように。では、失礼致します」
おい!置いていくな!
ふたりはさっさと出ていってしまった。追いかけようにもスミレに捕まっている。声をあげればスミレが起きてしまうかもしれない。
隣で眠ってもいいのだろうか?いや、未成年とは言え、女性の隣に許可もなく入るなどよくないだろう。しかし・・・・。ぐるぐると考え込んだあげく、結局、マントを脱いで仮面を取外して、隣に潜り込んだ。私も男だということだ。スミレの握り込んだ手とは反対の手で、つるつるとした髪を撫でる。柔らかな頬にそっと手を滑らせる。スミレの体温を嫌というほど感じ、一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった。自制心の限界を迎えた私は、プリシラが起こしに来るよりも早く、スミレのいる寝室を後にした。
朝の日課である稽古にいつも以上に励んだ後、部屋で身支度を整えた頃に、夕べのことを何も知らないスミレが侍女のお仕着せを着て、私の私室にやって来た。
「おはようございます、ミカエル様。朝食をお持ちしました」
「!・・・・」
本当に来るとは思わなかった。夕べのこともあり、気恥ずかしさと後ろめたさから、身体が硬直してしまう。
「ミカエル様、どうかしましたか?」
ツンツンとマントを引っ張られ、どうにか声を出した。
「ああ、いや、何でもない。・・・・何故、二人分?の朝食があるのだ?」
これは、二人分なのか?私のひとり分にしては、量が多い。が、二人分にしては、片方が少なすぎる。だが、カトラリーは二人分用意してある。
「一緒に食べたいなぁと思いまして。迷惑でしたか?」
は?今、何と言った?
「・・・・?一緒に食べたいと言ったか?いや、すまない。聞き違いだ」
そうか。夕べのことに浮かれすぎて、私は耳までおかしくなったのだな。そうか。
「?聞き違いじゃありませんよ。ご一緒してはダメですか?」
「な!・・・・」
私と食べたいと言っているのか?何故?正気か?
「王族は、ひとりで食べる規則があるんでしょうか?」
そんな規則は聞いたこともないな。
「いや、それはないが・・・・。私は、仮面を取らねばならないから、その・・・・」
ああ、寝ぼけていて、私の素顔を見てはいないんだな。そうに違いない。
「???えっと、お顔を見られたくないということですか?それなら、今更ですよね?昨日しっかり堪能させていただきました」
!!!!!
「!!!見ていないと、忘れていると思っていた・・・・。怖くはないのか?」
ああ、女神様に怖がられたら、どうすればいいんだ。
「意味がわかりません。ああ、怖いほどの美しさということですか。それなら納得ですが、仮面を着けていても隠しきれていない気がしますよ。取ったらどうですか?まあ、多少の女性避けにはなるのかなぁ?」
怖いほどの美しさは、スミレだろう?
「何を言っているのだ、貴女は。私のようなおぞましい者が素顔を晒せは、周りが迷惑するだろうに」
訝しげに首をかしげる様も可愛い。誰にも見せたくなくなるではないか。
「ちょっと仮面を取ってみてもらえますか?昨日私が見た天使様は、ミカエル様ですよね?」
何を言い出すのだ。見せられるわけがない。嫌われたくはない。怯えられるのはもう嫌だ。
「それは、出来ない・・・・」
何故か悲しげな顔をしたスミレは、直ぐにその表情を穏やかなものにかえた。くるくると変わる表情に気を取られている間に、スミレは、マントを掴んでいた手を私の肩に置き直して、反対の手を仮面へと伸ばしてきた。
「おい、やめんか!」
スミレの手が仮面に届かないように少しだけ身体を引いた。とたん・・・・。
「あ」
スミレが足を滑らせた。私の肩を掴んでいるのだから、自分で体制を整えられるだろうと軽く手を添えようとしたところで、スミレが肩を掴んでいた手を離した。
何故、離す?!
慌ててスミレと床の間に身体を滑り込ませ、その身体を抱き止めた。
「すまぬ」
スミレに怪我を負わせなかったことにほっとして油断した。さっと、仮面をスミレの手で外されてしまった。一瞬の出来事だった。
「み、るな・・・・」
この顔にスミレがどう反応するか、恐怖と絶望に顔が歪む。拒絶される恐ろしさに、顔を片手で覆い、俯いて、懇願するように呻いた。
「見ないでくれ・・・・」
今貴女に拒絶されたら、私は・・・・。お願いだ。何も見ていないと、昨日と同じように振る舞ってくれ。でないと・・・・。
小さな手が私の頭を撫でる。私の暗くどろどろとした、この顔のようにおぞましい闇を宥めるように、何度も何度も。
「ごめんなさい。でも、昨日会った天使様があなたか確かめたかったの。だって、昨日の天使様はとても綺麗で、この世の者とは思えなかったから。おぞましいなんて言うから、別人だったのかと思って。貴方は間違いなく昨日、私を拾ってくれた天使様でした」
女神様は、私の頬をその両手で挟み、まるで、眩しいものを見るような目で私を見つめてくる。
何が起こったのだ?
「フフフ。役得」
「貴女は・・・・、私のこの容姿が・・・・平気なのか」
驚きを隠せない。
「平気・・・・なのかな?あり得ないほど美しくて気後れはしてますよ?」
意味がわからないのだが。
「それは、美しすぎるのは貴女だろう?」
ふたりして首をかしげておかしなことになっている。
「またまた、そんな冗談を。私は、ごくごく平凡で「ぐぅ~」・・・・」
そうだった。食事を一緒に取るという話しからこうなったんだったな。
「話しは、食事をしながらにしよう」
可愛らしい私の女神様は、真っ赤な顔で俯いてしまった。その姿すら可愛らしく、クスクスと笑いが漏れる。ああ、笑ったのはいつぶりだろう?こんなに晴れやかな気分も久しぶりだ。
ゆっくりとスミレを立たせ、席までエスコートした。そして、少し冷めてしまった朝食をスミレと摂りながら、私は驚きの事実を知ったのだった。
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