天使は女神を恋願う

紅子

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世界が変われば

なんだか、ミカエル様と私の間に大きな齟齬がある気がするが、今は、大人しく朝食を摂ることにした。その間は、当たり障りのない話題に勤めようということになった。なので、まずは、昨日のお礼だ。

「ミカエル様、着替えなど沢山ありがとうございます。何も持たずに来たので、とても助かりました」

「いや、大したことはない。不足があれば、プリシラに伝えてくれ。しかし、貴女はもっと食べた方がいい。遠慮はいらない」

どうやら、私の食事の量が少なすぎると思っているらしい。

「遠慮ではなく、これ以上は食べられません。適切な量です」

「だが、それでは大きくなれないだろう?」

横に、か?縦にはもう大きくなれない。

「ミカエル様は、私を幾つだとお思いですか?」

フフフ。ミカエル様が少したじろいでいる。うん、笑顔が怖くなってるのはわざとだよ。

「え、あっと。16歳、い、いやもう少し下か?」

窺うように見てくるが、私の笑顔はそのままだ。

「ご冗談を。21歳ですよ。見えますよね?」

カラン、カラン。

ミカエル様が、持っていたカトラリーを取り落とした。驚愕の眼差しを向けてくる。

えっ!そこまで?

「・・・・。あ・・・・いや・・・・」

言葉にならないのか、口をパクパクさせている。そんなお顔も麗しい。最終的に手で顔を覆って、俯いてしまった。何故だか耳が赤い。そして、「私は何てことを・・・・」とか呟いている。

「大丈夫ですか?」

反応は、ない。どうしようか?仕方ないので、お茶の用意をすることにした。そこから、たっぷり10分ほど。復活したようだ。

「スミレのいた世界とこちらでは数え方が違うということはないか?」

「さあ?こちらの言語を話せている時点で、それはないと思いますが」

念のため、用意されていたお菓子で数を確認したけど、違いはなかった。

「では、時の流れが違うのか?」

1日は24時間
1月は28日
1年は13月、364日

大きな違いはなかった。

「ミカエル様、私はそんなに幼く見えますか?全然嬉しくありません」

思わず、口を尖らせてムッとしてしまう。確かに、童顔なのは認める。可愛いと言われるほうが多い。でも、でも、そこまで、幼くはないでしょう?

「すまぬ。・・・・、本当に21歳なのだな?」

口元が笑ってますよ?仮面をしていないからって表情が分かりやすすぎです。

「しつこいですよ。そう言うミカエル様は、お幾つなのですか?」

「26歳だ。そんなことより、大切な話がある」

26歳かぁ。まあ、見た目通りかな?もう少し上にも見えるけど。

「聞いているか?」

「はい、何でしょう?」

「ハァ。・・・・この国では、成人と認められるのは、17歳だ。貴族のみならず、すべての国民はこの年をもって、大人扱いとなる。21歳のスミレは、大人として扱われると言うことだ」

うん。そうだね。21歳は、向こうでも大人だ。30歳まで子供扱いだと言われるほうが違和感がある。

「はい・・・・。何か問題でも?」

「・・国王陛下との謁見で最低でもひとり以上と早急に婚姻を結ぶことを迫られると心しておくことだ。お相手も選別されるだろう。成人前なら少しの猶予もあったのだが」

ガッシャーン

カップが手から滑り落ちた。

なんですと?婚姻と言いましたか?ひとり以上ってどゆこと?

「無理です。嫌です。出来ません!お断りします!」

「気持ちは分かるが、無理であろうな」

冷静なミカエル様とは反対に、私は身体が震えて、顔から血の気が引いてくる。ミカエル様は大丈夫だけど、他の人はまだ分からない。爺やですら近づけないんだから、他のもっと若い人なんて無理じゃないだろうか?

「スミレ?どうした!」

「ムリ、です。保護、い、りま、せん、から」

ハァハァと息が揚がってきた。まずい、過呼吸の一歩手前だ。なんとか、落ち着かないと。胸元をきゅっと握りしめた。

ガタン!

椅子から滑り落ちたようだが、そんなことは構っていられない。額に脂汗が滲んでいる。こんな顔、見せられない。俯いて、ゆっくりと息をしようと試みる。

「スミレ!どうしたというのだ?」

ミカエル様は、おろおろと手を行ったり来たりさせていたが、結局、私の背中に触れた。優しい手がゆっくりと擦ってくれる。それにほっとして、少しずつ息が整ってきた。

「ハァハァハァ・・・・。すみま、せん。ハァハァ、もう大丈夫、です、ハァハァ・・・・」

「こんなに青い顔をして大丈夫な訳がなかろう」

「!」

ふわんと抱き上げられて、ソファーに寝かされる。慌てて起き上がろうとしたが、すぐ隣に座ったミカエル様に阻止されてしまった。

「横になっていろ」

その言葉に甘え、目を閉じて先程のこと過呼吸に疲れた身体を休める。ゆっくりと感触を確かめるように髪を撫でる手が心地よい。あまりの心地よさに意識が遠退いてゆく。

「スミレ、先程のあれは、何が原因だ?」

いきなりの核心をつく質問にびくっと身体が強ばり一気に目が覚めた。咄嗟に、どう言い訳しようかと思考を巡らせそうになったが、止めた。ミカエル様には知っておいてもらった方がいい。

「ムリには聞かない」

「いえ。・・・・私、男の人が怖いんです」

ピタリ、と髪を撫でていた手が止まった。

「だから、結婚は出来なくて、あちらの世界でもひとりで生きていく予定でした」

離れていこうとする手をガシッと掴み、頭に戻した。

「・・・・私も男なんだが」

温かい手は再びゆっくりと頭を撫で始める。

「分かってます。不思議なことにミカエル様だけは最初から大丈夫なんですよ。何ででしょう?」

「男に見えていないのか?」

「いえ、ちゃんと男の人だって認識してますよ?綺麗すぎで、枠からはみ出したかな?」

「私は、醜くておぞましいだろうに、何を言っているのだ?」

聞き捨てならない言葉に、ガバリと起き上がって、ミカエル様を正面から見据えた。

「ミカエル様こそ何を言っているんですか?そんなに類い稀なる美貌と容姿を持っていながらおぞましいとか、言わないでください!こっちの世界では知りませんが、私がいた世界では、どんな芸術も叶わないほどの美しさなんですよ。ああ、自分の言語能力の低さが恨めいしい。ありきたりな言葉しか出てこない・・・・」

思わず捲し立ててしまったけど、ミカエル様の顔が赤い?

「スミレ、その・・・・近いんだが・・・・」

どうやら、勢い余って膝の上に乗ってしまったみたいだ。通りで顔が近いと思った。福眼です。前のめりだった身体を起こして、疑問だったことを尋ねた。降りろと言われないから、図々しく膝に乗ったままだ。

「ミカエル様は、どうしてご自分のことを醜いとかおぞましいとか言うんですか?」

きっとその言葉を言う度に、傷ついているはずだ。でなければ、あんな顔はしないと思う。

「幼い頃からそう言われてきた。魔獣と同じ銀色の髪と金色の瞳、それに魔獣を思わせる筋肉質の四肢は、見るものを怯えさせる。左右対称で彫りの深いこの顔は、本能的な恐怖を呼び起こさせるものだ。辛うじて、騎士団に所属する者達は、普段から魔獣に接しているから、仮面をしていれば、怯えられることはないが・・・・」

なんか、重要なキーワードが沢山出てきた。

「魔獣って何ですか?」

「森の動物が体内に魔力を蓄え、変異したものだ。大きさや外見は変わらないが、体毛が銀色に瞳が金色になるからすぐに見分けがつく。魔獣は、体内に核を持ち、私達はそれを利用して生活をしている」

おー!ファンタジー!魔法があるのかなぁ♪

「魔力があるってことは、魔法が使える?」

「魔法とは何だ?」

「えっと、魔力を使った不思議現象?」

「残念だが、そんなものはないな。時折、神力を宿す者はいる。不確定な未来が見える者、勘の鋭い者、剣術や武術に秀でた者、人体を越えた身体能力を持つ者など様々だ。滅多に存在しないがな」

えっと、中途半端?
女神様も、魔力が存在するなら神力なんかじゃなくて、魔法にすればよかったのにね。

「ちなみに、この世界でのモテ男子とモテ女子ってどんな人ですか?」

「そうだな。まず、左右対称でないこと。これは、男女共通だ。それに、芸術のみならず、日常の全てにおいて適応される」

完璧無比なシンメトリーなんて貴方くらいだよ。神の創り給いし芸術。普通は何処かしら違いがある。

「女は、小さくて庇護欲を刺激されるタイプが好ましい。スミレは傾国級の美女だと認識することだ。男は、私とは真逆だ。ほっそりとして脂肪がないか、反対にでっぷりと脂肪があるほうがいい。筋肉質など論外だ。目は小さくて丸く、口は厚みがある方が人気がある。鼻は横に大きいのが理想だ」

私が、傾国級の美女?何の冗談。ああ、嫌だ。
男は言われた通りの人物を想像してみる。
なんだこれ。ギャグ漫画の主人公か。

「ないわ」

ポツンと零れた一言にミカエル様が反応した。

「そういう見目良く腕に自信のある者が、スミレに宛がわれるだろう」

忘れたことにしようと敢えて話題に出さなかったのに、溜め息と共に紡がれた言葉で蒸し返された。

「ですから、男性恐怖症の私に婚姻は無理です」

考えるだけでも震えてくる。きゅっとミカエル様の服を握って震えを止める。

「私の膝に乗って言われても説得力に欠けるな」

そう言うミカエル様だって、私の髪をずっと撫でて、降りろとも言わないくせに!優しい顔でそんな意地悪なこと言わないでよ!まだ、聞くことは沢山あるのに、不安が心を支配していく。

「悪かった。泣くな」

ミカエル様の筋張った手が私の頬を滑り落ちる雫を拭う。泣いていることを自覚させられ、後から後から零れる雫に喉から嗚咽が漏れる。自分ではどうすることも出来なくて、ミカエル様にしがみついてわんわん泣いた。その間、ミカエル様は何も言うことなく、私をその腕に包んでくれていた。

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