天使は女神を恋願う

紅子

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謁見

楽しかった王都へのお出掛けから2日たった今日は、午後から謁見だ。正直、面倒臭い。私としては、このまま、ミカエル様の離宮で侍女ができればそれが一番いい。ミカエル様の気持ちは、全く分からない。私なりにアプローチをしたつもりだけど、ミカエル様からは何の反応もなかったと思う。

「ハァ・・・・」

今は、謁見のために着付けの最中だ。朝から大変だった。思い出すだけでも気が遠くなる。結局、こちらに来たときに着ていた着物を身に付けることになった。髪は自分では無理だから、プリシラ達にお願いした。髪飾りなどの装飾品は、ミカエル様からのプレゼントだ。私が着けていたのはイミテーションだったから、「侮られないように」と贈ってくれた。着物に合わせて、ピンクをメインに色とりどりの宝石が輝く可愛らしい逸品だ。お値段は、絶対に可愛らしくはないので、考えないことにした。

そして、ミカエル様のエスコートで謁見の間へ。今日もミカエル様は、仮面とマントを身に付けている。迎えに来てくれたとき、無理を言って仮面とマントを取ってもらった。そこには、・・・・。見惚れてしまう青年がいた。

「着せ替えしたくなる程、何着ても似合いますねぇ」

「・・・・それは貴女だろう?やはり、その姿は美しいな。殆どの者が貴女に見惚れるだろう」

「嫌なことを思い出させないでください。逃げ出したくなります」

「・・すまない。行こうか」

差し出されたミカエル様の腕に手を添えて、ゆっくりと離宮を後にした。



もう一度ここに戻ってこれますように。




ミカエル様のエスコートで謁見の間に入ると、その場にいた全ての人が私の方を向いて、膝をついていた。ビックリして立ち止まると、隣にいるミカエル様もすっとエスコートを解き、あちら側へ行こうとしたのを慌てて腕をつかんで引き留めた。今は私に捕まれた腕はそのままに、膝をつき頭を垂れている。ここに入る直前、ミカエル様から「楽にせよ、と言え」とぼそりと早口で言われたことを思い出した。何を?と問う間もなく、中に入ってしまったが、こういうことだったのか。

「楽にしてください」

ミカエル様は、立ち上がりながら良くできましたとでも言うように、こっそりとマントに隠れている手を撫でてくれた。贈り人がこんなに、みんなに跪かれる存在だなんて聞いてない。知っていたら、王様にだけ会えるようにしてもらったのに!むうっとミカエル様を睨むも、そ知らぬ顔だ。

膝をついていた人達が用意されている椅子に座ったのを見計らい、ミカエル様が再びエスコートで私の行くべきところへ導いてくれる。一段高いところにひとつだけ空いている椅子が目に入った。

まさか、あそこへ行くつもり?

顔が攣る。ちらりとミカエル様を見るが、真っ直ぐに前を向いていて、仮面の下は窺えない。全ての視線が私に注がれているのがわかり、更に動揺して、俯きそうになったところで、「俯くな。前を見て堂々としていろ」私だけに聴こえるように注意された。それだけで、ほっとした。ちゃんと私を見てくれる人がいる。ミカエル様の腕に添えた手に力を入れて、前を向く。辿り着いたのは、やはり、あの一段高い席だった。駄々をこねるわけにもいかず、渋々その席に座る。ミカエル様の腕を離せずにいると、「隣にいる」と小声で呟かれて仕方なく腕を解放した。とは言っても、替わりにマントの端を掴んでいるけど。「ハァ」と隣から溜め息が聴こえたけど、離すつもりはない。私の目の前、一際豪華な椅子に座った中年の男性は、たぶん、この国の王様かな。その人は私がマントを掴んでいることに目を見開いたが、すぐに表情を戻して、挨拶を始めた。

「・・・・ようこそお越しくださいました、贈り人様。私はこの国の王、ストラーダ・ダルネス・ロールウッド。お見知りおきを」

王様の隣には、王妃様と思われる女性が、後ろには重鎮とその伴侶とおぼしき人達が控えている。王様のすぐ後ろで憎々しげにこちらを見ている青年は誰だろう?あの眼は嫌だ。怖い。その青年の隣にはにこにことした少しだけ幼さを感じる青年がいる。さらにその隣は、その青年と同じくらいの年頃の少女が、緊張した面持ちでこちらを見ている。さて、どうしたものか。ミカエル様をちらりと見ても何も言ってこない。

好きにしていいということか、な?名前だけ名乗ればいい?突然ここの世界に来てしまいました、は変だよね。

「スミレと言います」

「スミレ様、とお呼びすることをお許しください」

この異様なまでの丁寧な扱い。違和感を感じる。贈り人といえど、ただの人間だ。女神様に連れてこられた、という理由だけではない気がする。

「許します」

こんなのどう対応していいかなんて知らない。今まで読んだ本の知識を総動員して、慎重に言葉少なに答える。

「ありがとうございます。こちらにお越しいただいてから、不自由などはございませんでしたでしょうか?」

「はい。大変良くしていただきました」

「それは、じょ「嘘だ!そこの化け物に閉じ込められていたんだろう?俺が探したときには、どの部屋にもいなかった!贈り人様は、その化け物に脅されている!」」

ガタン!と椅子から立ち上がり、見当違いなことを喚くのは、王様の後ろに座っていた青年だ。

あれが、第二王子か。道理で、嫌な目をしていると思った。

「贈り人様の前だ!口を慎まんか!!!」

王様とはあまり似てないね。ミカエル様の方が余程、王様の面影がある。王様を若くして、全てのパーツを理想の位置に整えた感じと言えばいいかな。

「しかし、父上「陛下と呼べと何度言わせる!」」

「それに、閉じ込められていたとは、どういうことだ。儂は、この謁見よりも前に、ランスロット以外の者に贈り人様への接触を許可してはおらんはずだが」

「それは、父・・・・陛下とそこの化け物の話しを聞いて、助けねばと・・・・」

これ、いつまで続くの?ミカエル様に「帰っていい?」と小声で聞いた。

「オホン。陛下、それは、後になさってください。スミレ様が席をはずした方がいいかと、気にしておられます」

スミレね。

「ハァ・・・・」

溜め息くらい出てもいいよね?

「!!!失礼いたしました。お恥ずかしいところをお見せし、面目ございません」

「いいえ。お世話になった方々からは良くしていただいておりますから、お気になさらずに。ただ一度だけ・・・・、私が滞在していた屋敷に、主が不在と知りながら訪ねてきて、無作法に家捜しした人物がおりました。私は、屋敷の者に匿ってもらったのでお会いしてはおりませんが、大変に怖い思いを致しました。そのような者がこの城内にまだ居るとは思いませんが、今後二度と同じことがないように、お願いしますね?」

途中でミカエル様が「スミレ!」と小声で制止をかけたのは知っているが、無視した。だって、ミカエル様ことを化け物呼ばわりするなんて、許せないんだもん。本当のことしか言ってないし、ちょっとくらいの仕返しはしてもいいと思う。現に、第二王子は周りから白い目で見られてるし、王様も拳を握りしめている。ちょっとスッキリした。

「今後、そのようなことは起こりえません。ですから、どうかこの国に滞在していただきたく。是非とも我が国の者からスミレ様の護衛兼伴侶をお選びいただけたらと」

その言葉と同時に、若い男が30人ほど入ってきた。外見も容姿も腕前も恐らく身分も申し分ない人たちなんだろうけど・・・・。苦笑いしか出てこない。見た目以前の問題。どの人も私を値踏みするような視線で見てくる。気持ち悪い。

「その前に、私の立場を教えて下さい。私がこの位置に座っているということは、そういう立場・・・・・・だと認識していいんですね?」

「はい。貴女に危害が及べば、女神様の罰が下ります。過去に贈り人様を害し、国がひとつ滅びたという事例もございます故」

それは、こんなに丁重になるわけだよ。それだけ、重要で危険な人物ってことか。

「私が、市井に下りることは?」

「生活するということでしたら、許可はできかねます。貴女の持つ知識だけでも、争いの元になる。それに加え、その美貌。貴女が市井に下りれば、貴女を巡って死者も出るでしょう。国王として、そのような事態が想定できる方を市井に住まわせることはできません。他国に連れ去られるわけにはいきません。警護の観点からも、ご容赦願います」

この辺は、ミカエル様からも言い聞かされたから、無理を通す気はない。

「分かりました。今のところ、この国を出るつもりはありません」

「でしたら!この者達は、身分も護衛としての腕前も申し分ない者ばかりです。お気に召さなければ、ご要望をお伺いした後、お会いいただくことも可能です」

「・・・・わたしは、今の生活に満足しています。ですから・・・・」

ちらりと隣にいるミカエル様を視線だけで見上げた。

「このまま、ミカエル様のところに居させてください。護衛を選べと言うなら、ミカエル様を選びます」

私は、はっきりとそう言うと周りがざわめきを増した。「正気か?」とか「護衛としてはこれ以上ないが・・・・」とか。「大丈夫なのか?」が一番多いかもしれない。

「やはり、その化け物に操られているんだ!でなければ、そのような発言、正気ではない!」

また、第二王子だ。

「お前は、黙っておれ!スミレ様、それで、本当によろしいのですね?」

「何か問題でも?」

「いいえ。スミレ様がそう望むのであれば、依存はありません。ランスロット、良いな?」

「・・・・スミレ様が良いのであれば・・・・」

歯切れの悪いミカエル様に、もしかして断りたいのかと不安になった。握りしめたマントをクイクイと引っ張り、ミカエル様を見上げる。

「ミカエル様、後でお話ししましょう?」

一生懸命、平気そうな顔を作ってみたが、たぶん、とても不安そうな顔をしていたと思う。

「そうだな」

私たちのやり取りは誰にも聴こえていないはずだ。

「陛下!スミレ様は、ずっとそこの化け物といる間に騙されたに違いない。私達にもスミレ様と過ごす時間をください。そうすればその化け物との違いがわかるはずです!」

また、あの第二王子だ。他の人達との交流なんて要らない。怖いから嫌だ。断ろうとしたとき、別の方から声が上がった。

「ガルクローグ兄上、先程スミレ様は、無作法な者とは、会いたくないと仰られたではありませんか?」

「それがどうした!私と共に時を過ごせば、必ず私を選ぶはずだ!その機会すら与えられないのは、不公平ではないか!・・スミレ様は、我々にその機会を与えてくださいますよね?」

人を見下す眼。逆らうことを許さない眼。支配しようとする眼。あの眼は嫌。怖い。怖い。怖い。私を見ないで。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。

カタカタと身体が震え始める。私の意思では止まらない。呼吸が浅くなってくる。胸の前で手を組み、顔を俯ける。

「!スミレ!どうした?しっかりするのだ!」

遠くでミカエル様の声が聴こえる。怖い。苦しい。逃げたいのに動けない。

「スミレ、聴こえるか?スミレ!」

「ミ・・カエル・・・・さ・ま・・・・」

「息をしろ!」

「こ・・・・わい。かえ・・り・・・・たい」

震える腕を伸ばして、ミカエル様の首に腕を廻す。

「わかった。大丈夫だ。だから、ゆっくりと息をするんだ。・・・・吸うんじゃない、吐くんだ。・・・・そうだ。ゆっくりだ。・・・・いい子だ」

ミカエル様の体温を感じて、身体中に安心感が広がる。少しずつ胸が楽になってきた。ここから、離れたい。ぎゅっとミカエル様の首に廻した腕に力を込める。それだけで分かってくれるはずだ。

「陛下、緊急事態です。御前、失礼致します」

「あ、ああ・・・・」

フワッと身体が浮いて、ミカエル様に抱き上げられ、謁見の間を後にした。ミカエル様の胸に顔を埋めていた私は、その場にいた全ての人が、顎が外れんばかりに驚いていたことには、全く気づいていなかった。

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