天使は女神を恋願う

紅子

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愛しさ

スミレが眠ってしまった。スウスウと穏やかな寝息が聴こえてくる。どうしたものか?

「スミレが眠ってしまいました・・・・」

「「はあ?!」」

その反応も仕方ない。私もまさか寝てしまうとは思わなかったのだから。肝が据わっているというか。

「貴方、ずいぶん信頼されているのね。そこまで安心して身を任せられる相手はなかなかいないわ。良かったわね」

「猫みたいだね」

「しかし、困ったな。本当に男が怖いとは。勝負も何も、お主以外の伴侶は無理だろう?二人目の伴侶は拒否できるとして・・・・。夜会は、踊れないで通して、お主が傍から離れぬようにするしかあるまいな」

「スミレ様は、不思議な方ですね。兄上のために存在しているみたいだ」

その言葉にはっとした。本当にそうであればいい。

「まずは、5日後。何があっても勝てよ。それから、恩恵の独り占めはいかん。いいな?」

「フッ、負ける気はしませんから、ご安心を。恩恵については、相談したいことがありますから、後日伺います」

「ランスロット、スミレ様を大切にするのですよ」

「わかっていますよ、母上」

「儂らは行くとしよう。見送りはいらん」

残された私は、スミレを抱えると自室に戻った。今日は、1日忙しかったから疲れたのだろう。スヤスヤと眠るスミレの頬を擽る。起こしたいような起こしたくないような。思わず、笑みがこぼれる。今朝までは、今日でお別れだと張り裂けそうな胸の内を隠して、スミレの姿を眼に焼き付けていたというのに。この愛しい存在が未だ腕の中にあることが信じられない。ああ、暖かい。私は、この女神様を求めても良いのだろうか。柔らかな髪に口付ける。額に、頬に、鼻に。ゆっくりと味わうようにひとつまたひとつ。そして、艶やかな唇が目に入る。さすがに自重すべきだと、そこに指を這わせることでその欲求を誤魔化した。薄く開いた口に誘われるように指をほんの少しだけ差し入れると、パクリと食べられた。驚きに身体がビクッと震える。戯れが過ぎたようだ。うっすらと目を開けたスミレと視線が絡まった気がした。

起きた、の、か?

未だ、ぼーっとしているスミレを覗きこみ、声をかけようと口を開いた瞬間、柔らかいものが私の唇を覆い、口内に何かが侵入してきた。視界には、瞳を閉じたスミレの顔が映っている。

何が起こっている?

まさか、口付けされている?
ならば、口内をさ迷っているのは、スミレの舌?

理解した瞬間、背筋に電流が走った。スミレの舌は、何かを探すようにさ迷い続けている。そっと自分の舌をそれに合わせると絡めとるように合わせてきた。暖かいものが舌を通して身体を駆け巡る。さわさわと言い様のない感覚が全身を刺激する。・・・・理性が崩壊した・・・・。

スミレに捕らわれていた舌を今度は自ら絡めとり、スミレの口内へと入り込んだ。甘美なその中を蹂躙するかのように、夢中で味わう。そして、時を忘れて堪能した。どのくらいそうしていたのか、突然、くたんとスミレの身体が崩れ落ちた。首に廻された腕も力なく垂れている。慌ててスミレを抱え直す。

「スミレ!」

「ミ・カエル、様。やり・すぎ、ですぅ」

くったりと私の胸に体重を預け、ハアハアと肩で息をしている。

「あ、ぅ・・・・。すまぬ。加減がわからなかったのだ」

情けなくて、恥ずかしくて、顔に血が集まってきた。私は、今、真っ赤な顔だろう。それを見られたくなくて、髪に顔を埋めた。

「フフフ」

息が整ったのか、スミレがその小さな手で私の髪を撫でてくる。

「気持ちが悪かっただろう?すまぬ」

頭が冷え冷静になると、自分のような者が口付けを、しかも舌を入れてなど嫌悪されても仕方ないと謝罪が口をついてでた。

「ミカエル様は、気持ち悪かったですか?」

私の頬に手を沿わせながら、真っ直ぐに私を見てくる。

「いや・・・・その・・・・」

スミレの甘さを思いだし、再び顔が火照ってくる。気持ち悪いどころかあれほど甘美なものはない。夢中で貪ってしまったほどだ。

「気分は悪くないですか?」

不思議なことを聞いてきた。気分など悪いわけがない。何故そのようなことを尋ねるのか?スミレからは、そのように見えているのだろうか?

「悪くないが、何故だ?」

「えっと、今、夢の中で女神様にお会いしました。神力を授けてくれると言うので、私ではなく、ミカエル様に、とお願いしました。そうしたら、私からミカエル様に渡せと言われたので、その通りにしたんですけど、魔力が合わないと気分が悪くなると教えられたので、その確認です」

「・・・・」

何を言っているのだ?

女神様に会った?
神力を授けてくれる?
私に?
魔力が合わない、とは、どういう意味だ?

「!!はあ!!!!スミレ、何を言っているのか分かっているのか?何故、神力を私に与えたのだ?!貴女に必要なものを戴けばよかろう?」

何てことだ。スミレが受け取るべきものを私が貰うなど、あってはならない。どうすれば、返せるのだ?!

「だって、ミカエル様、言ったじゃないですか?私が神力を授かると王宮に監禁されるって。隠し通せるとも思えないし、ミカエル様ならその辺も大丈夫かなって。結局、私も貰ったんですけどね、神力。要らないって言ったのに、勝手に付けられたんです。酷いですよね!しかも、3つ!もう!隠し通せる自信ないのに・・・・。あっ、一度与えたものは、返却不可ですから、諦めてくださいね?」

大丈夫かな、ではない。諦めて・・いいはずがない。

「ハァ・・・・」


どうしたものか?・・・・どうしようもないのか。スミレにも神力を戴けたのだから、いいのか?私は頭を抱えてスミレを見た。当の本人は良いことをした、とでも思っているのか、ニコニコと愉しそうにしている。呑気なものだ。ようよう、自分のおかれた状況を飲み込んで、溜め息と共に諦めろと言い聞かせる。

「私が戴いた神力とはどんなものなのだ?」

「えっと、全異常耐性。身体、精神、魂の機能が最も正常な状態から少しでも異常があると元に戻す能力」

「・・・・」

言葉にならない。どれだけ凄い能力か分かっているのか?

「それは、貴女に最も必要な神力ではないか!何故、私などに渡してしまうかな」

「大丈夫ですよ。私も同じの貰ってますから。後2つも身を守るためのものです。神眼と結界だそうです」

「また、貴重なものを・・・・。だが、戴いてしまったものは、有り難く使わせてもらえばよい。神眼も結界も貴女には必要だろう。なるべく隠せよ。他に女神様とどのような話しをしたか聞かせてもらえるか?」

「いいですよ。もの凄く重要なこともたくさん聞きましたから」

すぐに話し始めるかと思ったら、私の頬に手を添えて上目遣いにじっと私を見てくる。

「大好き♪・・またしてくれる?」

心臓が止まるかと思った。私の顔もスミレと同じくらい赤いに違いない。これは、私が「気持ち悪かっただろう」と言ったことへの返事だと気づいた。どこまでも私を気遣い、喜ばせてくれる。

「ありがとう」

私は、スミレをふんわりとその腕に包み込んで、優しく触れるだけのキスをした。愛してるの想いを乗せて。



その後、スミレが語った女神様とのやり取りは重要どころではなく、これから先の未来を左右するようなことばかりだった。

もう、私ひとりの手には負えないと判断し、早々に陛下に面会を申し込んだのだった。

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