愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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ガイウスの家に滞在して5日。調薬の材料が足りない。ポーションや傷薬などの売れ行きは上々。お兄様が保証人となってくれたお蔭で薬師協会に登録でき、こうしてガイウスの工房で販売している。使いやすい、飲みやすいとリピーターが増えているらしい。私の老後は安泰だ♪

「ガイウス、ちょっと森に薬草の調達に行ってくるね」

「ちょっと待て。何を簡単に“森に行ってくるね”だ。今は魔獣が活発なんだ。独りでいかせられるわけないだろう?」

慌てて止めに来たガイウスをポカンと見上げた。何言ってるの?森で魔獣に会ったことなんてないよ?

「そんなに深くは入らないよ?」

『俺たちがいるんだ。シュシュを危険な目に遭わせるわけないだろ?』

『そうだ、そうだ』

『だよねぇ』

「最近は浅いところでもよく見かけるからダメだ」

「むう。必要な薬草が足りないのに」

『コマちゃんとキュウちゃんが居れば大丈夫なのに、ね?』

『ああ。当然だ』

『任せて!』

「お前、今まではどうしてたんだ?」

「庭で育てたり、ちょっと森で採ってきたり」

「ライナスはお前が森に行ってることを知ってるのか?護衛は?もちろん一緒だろうな?」

「・・・・」

心配性のお兄様に言えるわけない。護衛は・・・・、コマちゃんとキュウちゃんは護衛に数えてもいいんだろうか?私はそっとガイウスから視線をはずした。

「お前なぁ~。よく今まで無事だったな。まあいい。俺も丁度新しい剣が出来たところだ。試し切りに行くから連れていってやる」

ヤッホイ♪私はそそくさとお昼のお弁当を用意し、籠を背負った。

「・・・・。その格好で行くつもりか?」

「うん」

「ハァ、待ってろ」

何か変なんだろうか?キョロキョロと自分の格好を見直した。ワンピースにズボン、ロングブーツといういつもの格好だ。これ以上どうしろと?

「ほら」

ガイウスはポスッと私の頭から布らしきものを被せた。

「俺の昔のポンチョだ。お前だと丁度膝まで隠れるな、よし。これは、防水・防毒加工してある。こういうのを着ないと森じゃあ活動できんぞ?」

知らなかった。王都の森が特別なんだろうか?

「どの森も同じだからな?全く危機管理が薄すぎやしないか?」

『キュウちゃん、もしかして色々してくれてた?』

『うん。やっぱり気づいてなかったかぁ』

『うん。ごめんね。ありがとう、助かるよ』

『フッフーン。シュシュのためならお安いご用だよ!』

「行くぞ?」

私は自分が知らない間にキュウちゃんやコマちゃんに守られていたことに若干の申し訳なさを感じ、同時に自分の無知さに呆れつつ、ガイウスの後を追った。王都の森は思った以上に魔力が乱れ、気持ち悪い。鼻唄では間に合わないくらいの乱れっぷりだ。これからはもっと本格的に歌わないと難しいかな。この気持ち悪さをものともせず、ガイウスはどんどんと進んでいく。途中、毒を垂らす植物が所々に生えており、ポンチョの偉大さとキュウちゃんの配慮に脱帽した。その後、休憩を兼ねてお昼を食べたが、魔獣は出てこない。

「おっかしいなぁ。なんで1体も出てこないんだ?これじゃ、試し切りができないだろうが」

「ほら、大丈夫じゃない」

「いや、これは異常だ。普段ならワーウルフの群れに何回か出くわすはずなんだ。ギガピッグもこの辺りを縄張りとしてる。なんで出てこないんだ?」

あ・・・・。

『コマちゃん、心当たりは』

『あるな。シュシュに近づこうとする魔獣は威嚇と遠隔で仕留めてる』

『遺体は?』

『魔石だけシュシュの異空間箱に入れてある』

『他は?』

『消し炭だが?』

コマちゃんのお蔭だった。

『怪しまれるから、何体かこっちに来させて』

『仕方ないな』

暫くすると、見た目にも臭さを感じさせる3m超えの豚がのっしのっしとこっちに向かってきた。

「お!やっとお出ましだ」

ガイウスは嬉しそうにしているが、私はそれどころではない。その大きさと迫力に腰が抜けそうだ。

「ヒッヒィゥ・・・・」

鼻唄は止まり、言葉すらまともに口から出てこない。この世界の魔獣というものを初めて目の当たりにした恐怖は、言語を絶するものがあった。

『シュシュ!』

『だから、見せたくなかったんだ』

『ライジシ、クッション!』

『分かってる。クミコは結界だ。あの戦闘狂がこっちに気づくまでまだかかりそうだからな』

そう、試し切りに勤しむガイウスは魔獣の青い返り血を浴びながら楽しそうに暴れていた。私はその光景に呆れながらも、意識は限界だったようでプツンと暗転した。




「ん」

「お。目を覚ましたか」

ん~?ガイウスの声にぱちっと目を開けた。

「#$>♭ヴ%~$」

ドアップで飛び込んできたガイウスの顔に、悲鳴はなんとか堪えたが、よく分からない呻き声ともとれない音が喉から響いた。熊を彷彿とさせる髭を剃ったら私の好みドンピシャのご尊顔だったのだ。慣れたとはいえ、アップは心臓がもたない。

「気分は?」

状況を確認しようとキョロキョロと辺りを見回した。ここがリビングであることと自分がガイウスの膝に乗せられ抱えられているという現実を把握した。なんで膝の上?恥ずかしすぎる。

「いつの間に・・・・」

「森で倒れたのは覚えてるか?」

ああ。そうだった。初めて見た魔獣と周辺の魔力の気持ち悪さに意識が持っていかれたんだった。

「魔獣を屠る俺が怖かったか?」

「あ~。なぁんか、臭そうだったよね。青い体液滴らせて。そういえば、お風呂入ったのぉ?」

あのときの臭そうな光景を思い出した私は、ガイウスから距離をとろうとした。顰めっ面なのは自覚している。そのガイウスは、あり得ないものを見たように私を凝視し、離れようとする私を逆に抱き締めてきた。

「ハハハ。そうだよな。そういうやつだよ、お前は。元気そうだな。風呂はこれからだが、ちゃんと浄化はした。魔獣の体液自体は臭くないからな?」

そうなのか。腐った玉葱とか卵とかピーマンを混ぜた臭いがしそうな色だったけどね。

「さあ、夕食にするぞ」

ご機嫌なガイウスに促されて、夕食の準備を一緒に始めた。外はすでに真っ暗だった。
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