愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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「皆さま、まずは椅子にお座りください」

私はこの跪かれている居心地の悪いことこの上ない状態をなんとかしたい。私の両脇にいるふたりに対してだということは充分に承知している。でも!居たたまれないのは変わらないんだよ!だが、みんなお互いに顔を見合わせて困惑したまま動こうとしない。何故だ!

『さっさと座れ』

『シュシュが座れって言ってるんだから、早くしなよ』

全員が速やかに動き椅子に座った。ああ。コマちゃんとキュウちゃんの許可がいるってことか。

「国王陛下にお尋ね致します。わたくしシュシュ・ライオネルが本物の愛し子であると認めるのですね?」

「女神様の眷族が、2体も一緒におられるのだ。認めざるを得まい」

国王は不服そうだが認めた。

「宰相殿は、どうお考えでしょうか?」

「眷族のおふたりを魔の物、などという者を愛し子とは認められません。眷族を従えているあなた様こそが愛し子です」

こちらはおもねるような視線を私に向け、リルアイゼを否定した。ふたりの言葉を聞いたリルアイゼは「嘘よ」と床の上に崩れ落ちた。よほど信頼していたのだろう。ふたりの裏切りにリルアイゼは発狂した。

「お姉様が・・お姉様のくせに!わたくしの引き立て役でしかないのに!幸せになるなんて赦さない!」

ギリッと私を睨みながら叫ぶリルアイゼ。ギラギラとしたドレスが痛々しい。そんな妹を冷静に見つめる私はきっと情の薄い女なのだろう。自嘲めいた笑みが浮かぶ、その前にガイウスが私の頭を優しく撫でた。

「シュシュはよく我慢したと思うぞ?」

本当に、この人は。涙がにじみそうになる。

リルアイゼがぶつぶつとまだ何か言っているが、そこはもう無視することにした。さて、言質は取った。あとは、王太子殿下にお任せ丸投げだ。

「では、国王陛下にはお約束通り、即刻退位していただき、王妃陛下と共に北の塔にて幽閉。宰相殿は、家督を譲渡の上、永蟄居。破られた場合は爵位剥奪とする」

「ま、待ってくれ。私が悪かった。だから・・・・」

「そ、そうです。愛し子様、いえ、シュシュ様、どうかご慈悲」

『黙れ!!!』『黙れ!!!』

「「ヒィ!」」

「おふたりとも見苦しいですよ」

王太子殿下の冷めた声と周りの冷たい視線、何よりコマちゃんとキュウちゃんから向けられる殺気の籠った視線に、ふたりはガックリとくずおれた。

「グランダ前侯爵夫妻は領地にて永蟄居。今後、リルアイゼ嬢と会うことを禁ずる」

王太子殿下のこの発言に両親はバッと顔をあげた。

「そんな。リルに会うことだけはお許しください。娘に、娘に会えなくなるなど!」

「わたくしからもお願い致します。リルはわたくしたちの大切な娘なのです。まだ年若い我が娘が、魔獣の討伐などという危険に身を投じてきた日々は生きた心地も致しませんでした。どうか、どうかわたくしから娘を取り上げないでくださいまし」

今まで一言も言葉を発しなかった両親の初めて発した言葉は、リルアイゼを手放すまいとするものだった。

「あなた方の娘はリルアイゼ嬢だけではないだろう?」

「・・いいえ。私の娘はリルアイゼのみにございます。リルを糾弾するような者など我が家にはおりません」

「あなた。そうですわよね。リルは賢く気高い我が娘。皆から愛される娘ですわ」

「王太子殿下」

「なんだ、ライナス。いや、グランダ侯爵」

「大変申し訳ございません。我がグランダ侯爵家では、リルアイゼを盲愛するこのふたりを引き受けることはできかねます。グランダ家から除籍致しますので然るべき措置をお願い致します」

ここに来て、お兄様がお父様とお母様を見限った。わたしは冷めた目でそれを見ていたが、リルアイゼは違ったようだ。

「お兄様!お父様とお母様を見捨てるのですか?!」

リルアイゼは非難の目をお兄様に向け、両親はすがるようにリルアイゼを見ている。だが・・・・もう誰もリルアイゼを相手にはしない。

「いいだろう。そのふたりを愛し子を蔑ろにした罪で牢に入れておけ」

「はっ!」

両親はわめきたてリルアイゼの名前を叫びながら騎士たちに連れていかれた。リルアイゼは両親を見つめながらも巻き込まれたくはないのだろう。手を差し伸べることはなかった。

「さて、リルアイゼ嬢、あなたについてだが。あなたには今まで通り魔獣の討伐をしてもらう」

王太子殿下のこの言葉に周りはざわめいた。何故、リルアイゼだけが何の罰も受けないのかと。リルアイゼは瞳を輝かせて期待に満ちた視線を王太子殿下に送っている。

「王太子殿下。いや、国王陛下とお呼びするべきか」

第2王子殿下がちょっとからかうように王太子殿下に発言の許可を求めた。

「まだ国王ではないから、王太子呼びでかまわん。なんだ、ハロルド公爵」

第2王子殿下は、新しく家を興して今はハロルド公爵を名乗っていると、こそっとガイウスが耳打ちしてくれた。

「では、王太子殿下。今まで通りと言うことは、リルアイゼ嬢に愛し子を名乗らせるのでしょうか?」

「愛し子を名乗ることは許さないし、今後、私の許可なく夜会など公の場に出ることも禁ずる。だが、シュシュ嬢は自分が愛し子であることを公にすることは望んでいない。また、愛し子が偽物であったことを他国に知られ、我が国の国力が削がれることも本意ではないと申してくれた。姉としての温情でもある。よって、今まで通りリルアイゼ嬢が魔獣の討伐をすることが望ましい」

「だが、リルアイゼ嬢の監視はどうするのだ?大人しく魔獣の討伐をするとは思えないが?」

ハワード辺境伯の言い分はもっともだ。私もリルアイゼのことは信用していない。

『僕が制限をかけるから大丈夫』

「クミコ様。それはどういったものかお伺いしてもよろしいか?」

『いいよ。リルアイゼとその仲間たちは、討伐をするとき以外で魔法は使えないし、人には全く使えなくするつもりだよ。もちろん能力も制限するよ?』

「な!私たちは関係ない!何故私たちにまで制限を課されるのか?!」

キュウちゃんの“仲間たち”の言葉を聞き、第3王子が反論した。

「黙れ!今までの所業を私が知らないとでも?」

「それは・・・・。ですが、それとこれは別!」

『お前たちは一蓮托生なんだよ。昨日、シュシュにした仕打ちを忘れたわけではあるまい。我らはそれを赦すつもりはない!』

「グゥ」

コマちゃんの威圧を受けた仲間たちは、身動きすらとれず、その場に蹲ってしまった。
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