転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫

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変わる日常

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いつもは足が重くて、暗い気持ちで学校に向かうが今日は気持ちから違った。

アルくんの制服を着てるからか、ずっと一緒にいるような気分になる。
それに、下層部の事を知っているから魔法で旧式の色に染めてくれた。

全てが優しくて、ギュッと自分の身体を抱きしめる。

さすがににおいはしなくて残念だけど、家を出る前にアルくんに抱きしめられた。
その匂いがまだ残っているようで幸せな気持ちになる。

でもずっとここにいたら周りの人の目が気になるから、早く学校に行こう。

気持ちは明るくなっても、俺が下層部の人間で学校での立場が変わるわけではない。
毎日傷だらけで帰ってきたら、余計な心配を掛けてしまう。

どうにか自分を守れるぐらいは強くなりたい。
武術の授業は選択していないから、学校では学べない。
アルくんは仕事で疲れているから頼めない、俺はアルくんの疲れを癒したいんだ。

放課後訓練場を貸してもらえるように先生に頼もうかな。
普通にお願いしても、下層部の言う事をまともに聞いてくれない。

下層部の誰もがそれを知っているから、先生にお願い事がある人は先生の手伝いをしている。
一回だけじゃなく、好感度を積んでいき聞いてくれるようになっている。

俺もやろうかな、先生と仲良くなって悪い事はない。

校舎の目の前でバチッと耳元で聞こえて、痛みは何もないが後ろを振り返った。
後ろには、上層部の生徒が倒れていて近くにバケツが転がっていた。

上を見たら、こちらを覗き込んでいるいつもの人達がいて驚いた顔をしていた。
俺と一瞬だけ目が合って慌てて教室に引っ込んだ。

いつもと違う不思議な展開に俺も何が起きたか分からなかった。

もしかして後ろにいる人にバケツが当たったのかもしれない。

倒れている人に近付いて、起こそうと思って手を差し伸ばした。

「あの、大丈夫ですか?」

「っひ!!」

俺の手を無視されて怯えた顔を向けて走って逃げていった。

俺、怖い顔してたのかな…もしかしてバケツを落とした犯人だと思われた。

バケツを手に取り、周りを見ると俺を見ていた人達は距離を取って目を逸らされた。

前までは俺が怯えていたのに、立場が逆転している。

俺の気持ち以外特に変わった事はないと思うが、何なんだろう。

分からないまま少し遅れそうになり、教室に早歩きで向かった。








昼休み、俺の前には数人の下層部の人間が立っていた。
そういえば毎日お金を渡せとかつあげされていたんだ。

いつもは上層部の人間も俺になにかしたりするのに、今朝の事から何もして来ない。
遠目から俺を見てコソコソと話しているだけだ。

彼らだけは相変わらずで、殴られるのは嫌だけど少し安心した。
未知なるものが人を遠ざけて怯えさせているのなら、俺も怖い。

とはいえ新しい仕事を始めてはいないし、そんな余裕はない。

「おい、金は持ってきたんだよな」

「…今は持ち金が」

「あ?言っただろ!身体でも何でも売れって!」

一人が前に出ると、弱々しそうな男がそれを止めた。
小声で何かを言っていて、俺をチラチラ見ていた。

やっぱり変だ、どうして今日会う人のほとんどが同じ顔をするんだろう。
前に俺を殴った男はそれを振り払って俺に近付く。

後ろに下がり、本当にお金がない事を伝えても足は止まらなかった。

俺に向けられた手は、俺の腕に触れる事はなかった。

今朝に聞いたバチッという音と共に俺に掴み掛かろうとした男の身体が吹き飛んで床に倒れていた。

俺が今朝に見た倒れている人と倒れ方がほとんど似ていた。

周りの人達は「だから言ったじゃん!」と言っていた。
助け起こされて、俺の方を見る吹き飛んだ男はさっきとは違い怯えた顔をしていた。

「ば、化け物!!」

最後に俺に向かってなにかを投げつけて、それも俺に当たる事なく床に転がった。
小さなナイフが落ちていて、これが当たっていたら大怪我をしていたかもしれない。

ナイフを見ていたら、もう既に下層部の人達はいなくなっていた。

自分の手のひらを見つめて、身体も見ても何も変わらない。

もしかしてアルくんの制服に特別な力でもあるのかな。

自分で触っても普通の制服だから、アルくんが帰ってきたら聞こう。

後ろを振り返ると何人かが俺の方を見ていて、目が合うと止まった時が進んだように何事もないかのように歩いていた。
いつも一人だったから、今更避けられても何とも思わない。
怪我をする心配がなくなったって思えばいいのかな。

でも鍛える事はしたい、アルくんのお荷物にはなりたくないから。

人と触れただけで吹き飛ばしそうな気がして、気を付けながら学校を過ごした。

周りは俺を避けて、俺も周りを避けるからぶつかる事はなかった。
アルくんにこの状態を詳しく聞くまで、今日は先生のお手伝いは止めておこう。

無意識に肩がぶつかって、先生を吹き飛ばしたらお願いをするどころではなくなる。
アルくんに触れなくなったら、それが一番嫌だな。

アルくんの制服だから、さすがにそんな事はないよね。
吹き飛ばされた理由が分からないから、絶対ではない。
アルくんの力なら吹き飛ばされる心配はほとんどない。

それでも傷付く危険が少しでもあるなら、俺は嫌だ。

アルくんに申し訳ないけど、頑張って早く仕事を探して新しい制服を買おう。
家に帰るまでの道のりも、人を避けながら進んでいて変な動きをしていた。
周りから変な顔で見られて恥ずかしくても、今の俺は危険人物だから我慢だ。

「あんた、何やってるの?」

「お、お姉ちゃん」

人を避ける事ばかり考えてて、近くにリーナがいる事に気付かなかった。
俺を見て嫌そうな顔を隠しもしないで、ドン引きしていた。

他人に見られても何ともないが、身内はさすがに恥ずかしい。

顔に熱が溜まり、真っ赤になってもぶつかりそうになると避けた。

ごめん、でも今は避けないと人を傷付けてしまうから!

リーナはドン引きしながら、歩いていってしまった。
なにか用でもあったんじゃないのかな、俺に話しかけるのは珍しい。
でも、俺が変な動きをしているから身内だと思われたくなかったのかもしれない。

ここでウロウロしているより早く帰った方がいいと、慎重に避けながら進む。









アルくんの家に帰り、ずっと制服を着たかったがアルくんに触れられなくなる気がしてすぐに脱いだ。
今朝はあんなに嬉しかったのに、寂しい気持ちでギュッと制服を抱きしめた。

シャツとズボンのラフな格好にエプロンを着けて料理をしようと厨房に向かった。

気持ちよく帰って来れるように、美味しい料理で出迎えよう。

今日はなにがいいかな、この世界の料理のレパートリーが少ない。
家族以外の誰かにこうして食べてもらう事は考えてなかったからな。

前世の味の再現も限界はある、この世界の料理でもアルくんの好みが知りたいな。

とりあえずまだこの世界の料理は知らないから、前世の時に作った料理を再現してみようと思った。
完璧は難しいが、より近付いた味を意識しながら…

アルくんが帰ってくるその日を楽しみにしながら…





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