転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫

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誘拐

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「いってぇな!何だよコイツ!!」

怒鳴り声が聞こえて、目が覚めた。

何だろう、知らない人の声…俺…何してたんだっけ。

目を開けると目の前に腕があるところから血が噴き出ている男が痛みに叫んでいるのが見えた。

びっくりして後ろに下がろうとしたら、ジャラッと重い金属音が聞こえた。
手足を見ると、鉄の手枷と足枷で拘束されていた。

叫ぶ男に小柄な男が近付いてきて、蹴りを入れていた。

あんな大怪我をして「うるさい」の一言で済ませていいのか?

とりあえず背中を壁にくっつけて、なるべく小さくなろうと膝を抱えた。
見渡すところが全て黒くて、ここが何処なのかも分からない。

横から痛いほどの視線を感じて、横をみると俺を見つめる金髪で片目を眼帯で覆っている人が見ていた。
何も喋る事はなく、ただジッと俺の顔を見ている。

わざとではないが、怪我をさせた事を謝ると余計に火がついた様子だった。

「何なんだよお前!ただの人間じゃねぇのかよ!」

「…っ」

「魂食って終わりにしようと思ったのによ!」

何も持っていなかった手の中にはいつの間にか剣が握られていた。
怒りに任せて剣を振り回しながらこちらに近付いてきて、もう下がれないのに必死に後ろに下がろうとした。

寸前で振り回していた腕を金髪の人に掴まれて、足蹴りされた。
身体が軽いもののように吹き飛んで地面に倒れた。

すぐに起き上がって、さらに怒りを露わにしていた。
小柄な男に身体を踏みつけられてそこから先に行かなかった。

「契約したのは俺だ、横取りするからこうなるんだ」と言っていた。

契約って何の話?俺はただの人間のはずだけど…

そこでアルくんから貰ったペンダントに視線を向けた。
ここに来る前、確かに姉と会話をしていて突然なにかに引っ張られた。

負傷した人は俺に敵意があったから傷を負った。
今までそういう人は俺に触れる事が出来なかった。
なら、俺をここまで引っ張ってくれたのはいったい誰だ?

金髪の人をジッと見つめると、すぐに目線が合った。

「白竜様は神竜だよ?やめときなって」

「…くそっ」

「でもさぁ、どうするの?契約…アルフリードに近付く女を殺せって、調べたかぎりじゃどんどん湧いて出てくるからキリがないけど」

「……」

「あ?そんなのアルフリードそのものを殺せばいいだろ!」

「いいの?あの子はアルフリードと恋仲になりたいみたいだけど」

「他人のものにならないなら永遠に自分のもんなんじゃね」

悪い顔をした男達を見て、アルくんになにかしようとしている事ぐらいは分かった。

アルくんになにかする前にどうにか俺が止めようと両手足が不自由のまま、笑う男達に近付く。

しかしすぐに後ろから手が現れて口を塞がれてしまった。
文句の一つでも言おうとしていた事がバレたのかな。

そのまま気付かれず元の場所に戻されてしまった。

少しして、軽率だったと反省して大人しくする事にした。
両手足が動かないから危ないよな、触れなくても俺を攻撃する方法はありそうだ。

アルくんの話題で盛り上がっていて、何も出来ない自分が悔しかった。

視線に気付いて、横を見るとやっぱり金髪の人が俺を見ていた。

「…あの、どうして俺の事を助けてくれたんですか?」

「他人に魂を奪われたくないからだ」

「…誰なんですか?」

「さぁ、誰なんだろうな」

気怠い雰囲気だけど、最後以外の質問には答えてくれる。

目の前の人達とは明らかに雰囲気が違って見えた。

もう一人、メガネの人が現れて騒ぐ二人組に怒っていた。

何人いるんだろう、メガネの人も一瞬だけ俺を見る瞳が鋭くなっていた。
俺に敵意がないのは、金髪の人だけだった。

メガネの人は「白竜様」と呼んで膝をついていた。

まだこの人達についてよく分からないが、金髪の人が一番偉いのかな。

金髪の人に腰を掴まれて支えられながら立ち上がった。

メガネの人に二人を任せて暗がりの中、俺と金髪の人は歩いていた。
途中で立ち止まったと思ったら、突然お姫様抱っこをされた。
俺の足が遅かったのかな、それにしてもこれは恥ずかしい。

「あの…」

「……」

「アルくん?」

小さな声で呟くと、金髪の人はピタリと足を止めた。
一緒に連れてかれている俺の足も一緒に止まった。

ずっと表情がなかったのに、俺を見る顔は嬉しそうだった。

金髪の人は小さな声で「やっぱり君は気付いたのか」と言っていた。

姿が双子のように瓜二つというわけではない、勿論全然似ていないわけでもない。
でも、パッと見てアルくんだと気付く人はどのくらいいるんだろう。

分からないけど、少ない事は何となく分かった。

なんで俺がアルくんだと思ったのか、一緒にいる時の空気や雰囲気がアルくんそのものだった。
こんなワケも分からない暗い場所に連れて行かれて、敵意と殺意の中にいても彼が近くにいると安心出来た。

俺に触れられるのは敵意がないからなんだけど、ペンダントも作った本人だと認識したような気がした。

前世の時に、アルくんを確認しなくて間違えてしまった。
だから、ジッと見つめてアルくんかどうか確認した。
俺からしたら、何処からどう見てもアルくんにしか見えない。

「その格好、どうかしたの?それにここって」

「アルフリードは二人いる」

「…え?」

「表と裏、俺はアルフリードの影なんだ」

目の前の人がアルくんの影?どういう意味なんだろう。

金髪のアルくんはよく分からない俺に話してくれた。

彼はアルくんが身体から溢れた魔力が実体化した存在。
元々は一人の存在だったが、分裂して二人となった。

彼もまた、アルフリードと記憶も意識も繋がっている。
俺の知っているアルくんはまだ知らないみたいだ。

力のコントロールも上手く出来ない未熟だから気付かないと金髪のアルくんは言っていた。

彼の周りにいた人達は悪魔で、神竜の力を持った彼に従いつつ力を狙っている。

なんでそんな人達だって分かっていて、一緒にいるんだろう。

「狙われているのになんで一緒にいるの?」

「俺も利用するために好都合だからだ、ユートを手に入れるために」
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