30 / 32
30【望んだ形】
しおりを挟む
自室に入った途端、シモンはルカーシュを抱えて寝台の上に飛び込んだ。時間が惜しいとばかりに、早急にルカーシュの服に手をかける。服の裾がたくし上げられて、胸板がさらされた。
ルカーシュは薄い身体を見下ろして、顔を一気に熱くした。大きな手が肌に触れる寸前に「待って!」とシモンの手を握り、制した。
「そういうつもりで言ったわけではなくて、その……」
ルカーシュは最後まで口にできずに言い淀む。信じられないものを目の当たりにしたかのように、シモンの瞳が大きく見開かれた。
シモンの側にいたいという気持ちだけで、その先までするつもりはなかった。頭を過ぎらなかったわけではないが、シモンは帰ってきたばかりだ。疲れているだろうし、添い寝だけでもしたいと言う意味だった。
「なるほど。言葉通りの添い寝だけだったというわけですね」
シモンは簡単にルカーシュの拘束を解くと、寝台の端に腰掛けた。背中を向けて、こちらを見ようとしないのは、拗ねているようだ。
「ごめん、シモン」
「俺がどれだけ待ったと思ってるんですか。そんなやつに一緒に寝たいなんて言っては駄目ですよ。簡単に期待しますから」
「本当にごめん」
長いため息を吐いた後、シモンは重そうに腰を上げた。相変わらず、ルカーシュの方を見ない。
「すみません。ルカーシュ様が嫌なのに抱きたいなんて思って。こんな状態じゃ一緒には寝られませんので、おやすみなさい」
「そんな! 嫌では……」と手を伸ばそうとするが、空を切るだけだ。シモンはさっさと寝台を離れて、扉を開ける。ルカーシュはすぐに追いかけて、まさに部屋を出ようとするシモンの腕を掴んだ。
部屋に引き入れると、後ろ手で扉を閉めた。外に出ないように逃げ道を塞ぐ。
「シモンは、本当に疲れていないのか?」
「疲れてはいますよ。でも、それよりもルカーシュ様が隣に寝ていて、手を出せないのが辛いんです。ですからまた、日を改めて」
ルカーシュの肩に手を置いて、退くようにと示す。まだ退いてはいけない。ルカーシュが「退かない」と首を振ると、「無理しなくていいですから、わかってます」と理解したように言いながら、シモンは一度も視線を合わせない。
もどかしくて、ルカーシュは奥歯を噛み締めた。
結局、怖いのだ。シモンの手によって自分がどうなってしまうのかわからずに、怖い。
そうだとしても、怖いのは、シモンを失うことだ。意地を張って、何も言わぬ前に手放してしまうことだ。
――シモンが望むからだけではなく、私も同じかたちを望みたい。
シモンの腰に抱き着いた。どうなっても構わないと、自分の身体を擦りつける。
「ルカーシュ、やめてください」
ルカーシュは胸板に縋り付いて、首を振る。そして、恥ずかしさを必死に押さえつけて、顔を上げた。深緑の瞳を真っ直ぐ見つめながら、背伸びした。
「私も望んでいる。君とそうなることを。だから、行かないでくれ。お願い、シモン――」
自分から口づけした。咄嗟に瞼を閉じたから、シモンがどのような表情をしたかはわからない。
かかとを戻してからは、あまりの羞恥で顔を上げられなかった。
俯いていると、唸り声が聞こえて、頬を大きな手が包み込む。上を向かされると、深い口づけでルカーシュの唇を飲み込んだ。
勢いに押されて、壁際に追い込まれると、ルカーシュはシモンの身体に隠された。
酒の匂いを含んだシモンの唾液がアルコールのようにルカーシュを酔わせてくる。シモンの分厚い舌が口の中をかき回してくる。ざらついた舌が愛撫するように歯列をなぞっていく。
唾液が溢れてくると、余すことなく吸い付かれて、じゅっと音がした。
口を塞がれていなければ、あられもない声を上げていたに違いない。二つの舌が合わさり、擦れ、絡みつく。
こうしているだけでも、身体中が熱くなり、ルカーシュは内股が落ち着かなくなってきた。初めての感覚だった。
シモンは口づけを止めると、ルカーシュに押し付けていた腰を引いた。見下ろして、嬉しそうにはにかむ。
「ルカーシュも興奮してくれてるんですね」
「シモンも?」
「そんなのとっくにしてましたよ」
シモンは赤らめた頬を隠すように目を逸らした。言葉通り、シモンの下衣を見ると、股の部分が膨れ上がってきている。シモンも興奮しているのだとわかると、素直に「嬉しい」と言葉にした。
ルカーシュは目尻から涙を零した。人に触れ、触れられることの喜びと温かさに、涙を止めることができない。笑いながら泣く。
太い親指が、ルカーシュの下まつ毛を撫でた。
「困ったり、焦ったり、それでいて泣いたり、笑ったり。ルカーシュの顔は忙しいですね」
涙がシモンの指で拭われていく。この指が容易く自分の肌に触れている。感動を覚えながら、ルカーシュはその指を掴むと、口づけを落とした。
「ねえ、シモン」
二人きりの時には、練習した言葉を使いたい。
「今度こそ、一緒に寝よう、ね」
シモンの熱い首に腕を回して、全身の力を委ねた。騎士として鍛え上げられた身体は、ルカーシュの体重をものともせず、受け止めてくれた。
ルカーシュは薄い身体を見下ろして、顔を一気に熱くした。大きな手が肌に触れる寸前に「待って!」とシモンの手を握り、制した。
「そういうつもりで言ったわけではなくて、その……」
ルカーシュは最後まで口にできずに言い淀む。信じられないものを目の当たりにしたかのように、シモンの瞳が大きく見開かれた。
シモンの側にいたいという気持ちだけで、その先までするつもりはなかった。頭を過ぎらなかったわけではないが、シモンは帰ってきたばかりだ。疲れているだろうし、添い寝だけでもしたいと言う意味だった。
「なるほど。言葉通りの添い寝だけだったというわけですね」
シモンは簡単にルカーシュの拘束を解くと、寝台の端に腰掛けた。背中を向けて、こちらを見ようとしないのは、拗ねているようだ。
「ごめん、シモン」
「俺がどれだけ待ったと思ってるんですか。そんなやつに一緒に寝たいなんて言っては駄目ですよ。簡単に期待しますから」
「本当にごめん」
長いため息を吐いた後、シモンは重そうに腰を上げた。相変わらず、ルカーシュの方を見ない。
「すみません。ルカーシュ様が嫌なのに抱きたいなんて思って。こんな状態じゃ一緒には寝られませんので、おやすみなさい」
「そんな! 嫌では……」と手を伸ばそうとするが、空を切るだけだ。シモンはさっさと寝台を離れて、扉を開ける。ルカーシュはすぐに追いかけて、まさに部屋を出ようとするシモンの腕を掴んだ。
部屋に引き入れると、後ろ手で扉を閉めた。外に出ないように逃げ道を塞ぐ。
「シモンは、本当に疲れていないのか?」
「疲れてはいますよ。でも、それよりもルカーシュ様が隣に寝ていて、手を出せないのが辛いんです。ですからまた、日を改めて」
ルカーシュの肩に手を置いて、退くようにと示す。まだ退いてはいけない。ルカーシュが「退かない」と首を振ると、「無理しなくていいですから、わかってます」と理解したように言いながら、シモンは一度も視線を合わせない。
もどかしくて、ルカーシュは奥歯を噛み締めた。
結局、怖いのだ。シモンの手によって自分がどうなってしまうのかわからずに、怖い。
そうだとしても、怖いのは、シモンを失うことだ。意地を張って、何も言わぬ前に手放してしまうことだ。
――シモンが望むからだけではなく、私も同じかたちを望みたい。
シモンの腰に抱き着いた。どうなっても構わないと、自分の身体を擦りつける。
「ルカーシュ、やめてください」
ルカーシュは胸板に縋り付いて、首を振る。そして、恥ずかしさを必死に押さえつけて、顔を上げた。深緑の瞳を真っ直ぐ見つめながら、背伸びした。
「私も望んでいる。君とそうなることを。だから、行かないでくれ。お願い、シモン――」
自分から口づけした。咄嗟に瞼を閉じたから、シモンがどのような表情をしたかはわからない。
かかとを戻してからは、あまりの羞恥で顔を上げられなかった。
俯いていると、唸り声が聞こえて、頬を大きな手が包み込む。上を向かされると、深い口づけでルカーシュの唇を飲み込んだ。
勢いに押されて、壁際に追い込まれると、ルカーシュはシモンの身体に隠された。
酒の匂いを含んだシモンの唾液がアルコールのようにルカーシュを酔わせてくる。シモンの分厚い舌が口の中をかき回してくる。ざらついた舌が愛撫するように歯列をなぞっていく。
唾液が溢れてくると、余すことなく吸い付かれて、じゅっと音がした。
口を塞がれていなければ、あられもない声を上げていたに違いない。二つの舌が合わさり、擦れ、絡みつく。
こうしているだけでも、身体中が熱くなり、ルカーシュは内股が落ち着かなくなってきた。初めての感覚だった。
シモンは口づけを止めると、ルカーシュに押し付けていた腰を引いた。見下ろして、嬉しそうにはにかむ。
「ルカーシュも興奮してくれてるんですね」
「シモンも?」
「そんなのとっくにしてましたよ」
シモンは赤らめた頬を隠すように目を逸らした。言葉通り、シモンの下衣を見ると、股の部分が膨れ上がってきている。シモンも興奮しているのだとわかると、素直に「嬉しい」と言葉にした。
ルカーシュは目尻から涙を零した。人に触れ、触れられることの喜びと温かさに、涙を止めることができない。笑いながら泣く。
太い親指が、ルカーシュの下まつ毛を撫でた。
「困ったり、焦ったり、それでいて泣いたり、笑ったり。ルカーシュの顔は忙しいですね」
涙がシモンの指で拭われていく。この指が容易く自分の肌に触れている。感動を覚えながら、ルカーシュはその指を掴むと、口づけを落とした。
「ねえ、シモン」
二人きりの時には、練習した言葉を使いたい。
「今度こそ、一緒に寝よう、ね」
シモンの熱い首に腕を回して、全身の力を委ねた。騎士として鍛え上げられた身体は、ルカーシュの体重をものともせず、受け止めてくれた。
26
あなたにおすすめの小説
恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています
水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」
王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。
一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……?
勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される
七角@書籍化進行中!
BL
君とどうにかなるつもりはない。わたしはソコロフ家の、君はアナトリエ家の近衛騎士なのだから。
ここは二大貴族が百年にわたり王位争いを繰り広げる国。
平民のオメガにして近衛騎士に登用されたスフェンは、敬愛するアルファの公子レクスに忠誠を誓っている。
しかしレクスから賜った密令により、敵方の騎士でアルファのエリセイと行動を共にする破目になってしまう。
エリセイは腹が立つほど呑気でのらくら。だが密令を果たすため仕方なく一緒に過ごすうち、彼への印象が変わっていく。
さらに、蔑まれるオメガが実は、この百年の戦いに終止符を打てる存在だと判明するも――やはり、剣を向け合う運命だった。
特別な「ヒールオメガ」が鍵を握る、ロミジュリオメガバース。
【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?
チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。
モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。
こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。
ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか?
※不定期更新です。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
※よろしくお願いします。
歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです
チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》
歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。
ほのぼのです。よろしくお願いします。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる