化け物騎士は元令息の血塗られた手を離さない

コムギ

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end【生涯をかけて】

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 三年の月日が経った。

 アラバンドの復興を託されたマレクとバルトルトは、旧王都にて居を移した。

 日夜、問題が発生し、まとまった暇さえなかったが、この頃はどうにか、アラバンド内の国民の感情も変わってきた。

 貴族を嫌悪する風潮も、地位ではなく、能力や人望のある人材が集まれば、少しずつ変えていけた。

 そして、何より、バルトルトはマレクと恋仲であると公に発表した。

 それはアラバンドだけではなく、グロッスラリア全土にも、もう天と地がひっくり返るような、衝撃を与えた。

 歓迎するものがいる反面、揶揄するものもいたが、ふたりの仲睦まじい姿はそうした者たちを消していった。

 それには喧嘩を売ったとしても、勝ち目がないせいでもある。

 バルトルトもマレクも相当な手練れであることは周知の事実だ。バルトルトは騎士団を率いていた前団長であるし、マレクにいたっては死神を壊滅させた男として名を馳せた。

 ふたりの物語は、尾ひれも背びれもついていたが、恋物語として出版されて、大人気となった。グロッスラリアの王妃はその書籍にかなりの出資をしたとか。

 当のふたりには知るところではない。

 マレクは馬車に乗り、三年ぶりに故郷である領地を訪れた。荒れ果てていた地には、民たちが集まり、新たな農地ができた。丘の上の屋敷は、親を失った子どもたちが生活する施設に生まれ変わった。

 アラバンド国で不幸にあった者たちが眠る墓地も作った。そこから丘の上を進むと、花が咲き誇っており、石碑がふたつ建っていた。

 改めて建てられた石碑には、エミリーエとルジェクの名が刻まれている。マレクの母と兄だ。

 兄の隣には空間があって、ここでマレクも眠ることになっている。バルトルトも一緒に。

「ようやく、来れたよ。母さん、兄さん」

 マレクは花束を石碑にそれぞれ置いた。白と黄色の花弁が舞い上がった風によって揺れる。

「義兄さんとお義母上にようやくお目にかかれました。マレクの生涯の伴侶のバルトルト・ガトリンです」
「ちょっと、バル。生涯の伴侶ってなに?」
「違うのか、俺はお前しか愛さないと決めている」

 きっぱりと言い切られると、マレクは何も言えなくなる。気恥ずかしくなって、襟につけたブローチに指で触れた。琥珀色の石が輝いている。

 バルトルトも青色の石がはめこまれたブローチをしている。遠出するときは、お互いにブローチをつけるのが習わしになっている。

「いきなり言われても困るよ」
「俺とすれば、いきなりではないが。ずっと、考えていた」

 バルトルトは軽装ではあるが、上等な貴族の服を着ていた。地面で汚れることにも躊躇わずに、マレクの前で跪く。手を取ると、甲に口づけを落とした。真剣な琥珀色の瞳に、マレクの心は捕われた。

「マレク。あなたを生涯をかけて愛することを誓う。どうか、私の伴侶になってほしい」

 近頃、涙腺が弱くなり、喜ばしい時にも涙が溢れてしまう。バルトルトの目が大きく見開かれて、戸惑っているように揺れる。自信たっぷりに見えて、マレクのことになると、途端に不安になるらしい。

「駄目だろうか?」

 答えが追いつかないのは、嬉しくて言葉に詰まっているだけだ。首を振ると、あからさまにバルトルトの肩の力が抜けた。マレクはバルトルトの手に、もう一方の手を重ねた。軽く握ると、泣き笑いの顔をする。

「僕もあなたを生涯をかけて、愛します。大好き、バルトルト」

 しゃがみこんで、大きな手の甲に唇を寄せると、あのバルトルトが声を上げて笑った。すぐに抱き寄せられると、「俺も好きだ」と耳元で囁かれた。



 バルトルト・ガトリンは、グロッスラリア王国の歴史上、最も勇敢な騎士として伝えられている。

 若くして平民から騎士団長にまで上りつめたという華麗な経歴を持つ。その冷酷なまでに任務を遂行することと、すぐに傷が癒えるという特殊な体を持つことから、内外で化け物騎士とも呼ばれていた。

 晩年は地方に移り住み、身寄りのない子どもたちの父となった。

 彼の墓石の隣には、盟友でもある、一生涯を共にすることになった、マレク・プローポスの名が刻まれている。

 死神という賊集団を壊滅させ、悪行を働いた自分の兄をも手にかけた。それにより、血塗れの元令息と呼ばれていたが、晩年はバルトルトと同じく、身寄りのない子供たちの父、あるいは母と呼ばれた。

 二人の墓は百年の月日が流れても、仲睦まじく建っている。花が咲き誇る丘の上で。
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