せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 2

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「せつなときずな」 2

刹那の生まれ育った街は、尾張地方の中核都市の一つだった。
それは、小さな頃から何かにつけて「斜陽の街」みたいな言われ方をしていて、刹那は自然と落ちぶれた街なんだなと思うようになっていた。

街の至るところに、旧い繊維工場があった。
のこぎり屋根の建物は現役のところもあれば、他の用途に転用されたり、倉庫にされたり、はたまた廃屋にうち棄てられたりしている。
日本有数の繊維の生産地だった街は、日本を代表する大手メーカーを除き、とっくの昔に海外から安い繊維を仕入れ、アパレルやインテリア用品などの二次産業に変わっていたが、刹那が生まれる前からそれすら難しい時代になっていた。

刹那の実家も元をたどれば、かつてはそれで財を成した新興地主だったようだ。
今ではいくつもの管理物件を持つオーナーとして、不労所得で生計を立てている。
まあまあにいい暮らしだ。
それが、サキをあんな人格にしたのか、それとも先天的なのかは、刹那にはわからない。

母親のあばずれな姿を見て育った刹那は、異性に対してどこか距離を置きがちになっていた。

これと言って趣味もなく、高校に入っても帰宅部を通していたが、かといってサキとあまり顔を合わせたくもないし、くそじじいとくそばばあの穴蔵も好きではない刹那は、放課後に当てもなくぶらぶらすることが多かった。
同級生が名鉄で名古屋に遊びに行くのを横目に、冴えない郊外の片隅で独りを堪能していたが、望んだ訳でもなく、誰といても居心地が悪いだけなのだ。

つまんない人生だなと、刹那はいつも思ったが、何かに夢中になる感情が欠けている自分も億劫だった。

そんなある日、学校帰りの道の途中に、旧い繊維工場を改装したギャラリーができた。
古びたのこぎり屋根のそれは、倉庫として利用されたあと、「貸します」の看板と共に空き家になっていた、比較的小さな工場跡だった。
ギャラリーに入るのは気が引けたが、併設されていたカフェがずっと気になってしまい、刹那は随分と経ったあとで勇気を出して入ってみた。

建物の内外は白く塗られていて、それは、簡単に言えば「おしゃれ」に見えた。
インテリアに凝ることを注意深く避けたような静謐な店内に、刹那は物怖じしながらも、これからここを居場所にしようと最初から決めた。

どこでもいいけど、自分のホームグラウンドが欲しかった。
きっと、そうなんだ。

独りココアを飲む姿に、店員なのかアルバイトなのかはわからない若い女が、微笑んでくれた。
もしよかったら、ここでバイトするのも悪くないかも。
ただ、客がいない店が雇ってくれる訳もないだろうけど…

帰りしな、その日展示がなかったらしいギャラリーの玄関がなぜか解放されていたのを見た刹那は、おそるおそる中に入ってみた。
子どもの頃からよく見る機会があった、採光ののこぎり屋根の内側もまた、白く塗装されている。

工場は、真ん中に柱を建てなくていいように、屋根の母屋と柱と梁を組んだトラス構造によって支えられる。
その窓から射す光に照らされて、白い木軸が浮かび上がる美しい光景に、刹那はしばらく見とれていた。

昨日とは違う今日、そんな思いを生まれて初めて感じた。
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