せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 3

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「せつなときずな」  3

冬と言わずこの尾張平野は、時折強い風が吹き荒れる。

伊吹山から養老山脈に連なる西の山々から、この地方では「伊吹おろし」と呼ばれる風が吹き下ろされ、隔たるもののない広大な平地はその暴力にさらされる。
舞い上がる大気に身を掴まれる時、刹那はなぜか、慌てながらも笑みがこぼれる癖がある。

それを誰かに見られるのは恥ずかしいし、そんなことも人見知りの原因の一つかもしれず、何よりも、嬉しくもないのに笑ってしまう自分に気付いてから、どうにも居心地が悪かった。

最近では暖冬も多いため雪も少ないが、何年かに一度ある、強い風を伴った降雪が刹那は好きだった。
そんな日は、風に舞い上がる雪は、空からでなく地面から降ってくるように感じられた。
寒さに凍えながら足元を眺め、台風とは違って休みにならない学校に向かう朝、刹那はどうにもわくわくする気持ちをもて余す。

寒さにめっきり弱くて、冬になると気が滅入る刹那の、甘い気持ちになれる数少ないイベントかもしれない。

刹那が通うようになったギャラリー「O・A・G」は、「尾張アートギルド」の略で、併設されたカフェは「白猫」という名前だった。
ひねりがない店だなと思ったが、刹那は「白猫」に通うようになった冬の日から、なんかこう、うまく言えないけど、自分の芯が定まる場所を見つけたような気持ちになれたのだ。
そんな感情を覚えたのは、きっと初めての筈だ。

猫は別に好きでもなくて、でも、猫がいたら可愛いだろうなと思いつつ、それでいて店に猫はいなかった。
白いのは店だけだし、猫はいつかやってくるのだろうか?
白い猫がいないなら、雪が降ってくれるといいんだけどな。

窓の外の、往来もまばらな通りをぼんやりと眺め、まだ見ぬ白い猫…いや、きっとそんなのは想像の世界にしか現れないのだけど、そんな猫を待っている放課後の世界は、刹那のちっぽけな日常にはありあまるやさしい時間だ。

たまにギャラリーの客が、それは割と女性が多く、老いも若くも一人でいたりして、その姿を盗み見するように垣間見ては、刹那は勝手にその人を主人公に物語を妄想したりする。

半年後には、いつもの知らない画家くずれの展示会とは違う、三岸節子の小規模な展覧会が案内されていた。
中学の美術の教科書に載っていた地元の画家のその絵に、刹那は興味があった。
若くして夭折した夫の三岸好太郎の死後、当時としては異例ともいえる女流画家の嚆矢として成功した彼女に、何故か自分を重ね合わせた。

私はこの世界から、いつか見出だされる…

何の才能もないのに本の読み過ぎだなと思いつつ、刹那の妄想は、つまらない人生のライフラインなのかもと、少しクールダウンできるココアを飲み干しすことで弾けた。
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