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せつなときずな 4
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「せつなときずな」 4
なんとなく、久しぶりにメイクをやってみたくなった。
刹那は、小学生の頃にサキにメイクをほどこされたりして、それが元で苛めにもあったことから、自分の容姿を整えることに躊躇するようになった。
サキは、髪や服に敢えて距離を取るようになった娘を、不思議そうに感じているようだった。
天然といえばそうなのだろう。
自分がしたことで何が起きたのか、母親なのにまるで理解できない。
そもそも、悪気があった訳でもない。
「白猫」に通うようになって、自身に無頓着なキャラクターを装っていた刹那は、自信という訳ではないけど、少しだけ自我に向かい合う気持ちが芽生えた。
それが何なのかはよくわからなかったけど、サキのように綺麗な出で立ちはあってもいいんじゃないかと、心境の変化を自覚するようにはなったのだ。
お母さんは、若い私より女そのものだ。
若い私が女らしくなったら、お母さんはどう思うのだろう。
それを考えるのは気が乗らなかったけど、もう子どもじゃないんだから、昔みたいにおもちゃ扱いはさせない。
刹那は、自分の化粧用品など有りもしないので、サキに化粧品を貸して欲しいと言った。
「刹那、男でもできたの?」
驚くサキに苦笑するしかなかったが、それを否定して、なんとなくしてみたくなったと答えた。
事実、それ以上に説明できる言葉の持ち合わせはなかったのだから。
「あんた、綺麗になるわよ。お母さんの娘だから」
サキは嬉しそうに刹那をドレッサーの前に座らせた。
刹那は、昔みたいにサキにメイクされるのではなく、自分でやってみるつもりだったが、自信もなく知識も子ども時代から更新していないので、まあいいやと案外簡単にあきらめてしまった。
鏡に映る自分の顔が、みるみる内に大人の憂いを纏っていく。
それは、刹那には想像の上をいく変貌で、もしかしたら今までで初めて、母親のサキをリスペクトしたのかもしれない。
「あんたはさ、イヤがっていたけど、お母さんはあんたと一緒に着飾って母娘デートしたかったんだよ」
サキはメイクが終わって姉妹のようになった刹那の顔の横に自分の顔を並べ、悪戯な微笑みを浮かべてそう言った。
親らしくはなかったが、そんな母親でも喜ばせることができたのなら、やっぱり娘としては幸せな気分になったりするのだ。
刹那は、サキと一緒に鏡を覗きながら、自分の感情に訪れた、わずかな戸惑いと一握の幸福感を同時に味わった。
無造作だった髪をアップにすると、サキはクローゼットから自分のお気に入りのコートを持ってきた。
ミンクの襟を持つ、黒いタイトなシルエットのそれは、刹那も格好いいなと密かに思っていたものだが、動物保護の観点から毛皮反対だったのであまり見たくなかった。
しかし、急かされるままに袖に手を通したら、もう駄目だった。
「あんた、きっと男を泣かす女になるよ」
サキは生まれ変わった娘を仰ぎ見るかのように呟いた。
刹那も、そう思った。
「これは私のものだ」
心の中でそう囁きながら。
なんとなく、久しぶりにメイクをやってみたくなった。
刹那は、小学生の頃にサキにメイクをほどこされたりして、それが元で苛めにもあったことから、自分の容姿を整えることに躊躇するようになった。
サキは、髪や服に敢えて距離を取るようになった娘を、不思議そうに感じているようだった。
天然といえばそうなのだろう。
自分がしたことで何が起きたのか、母親なのにまるで理解できない。
そもそも、悪気があった訳でもない。
「白猫」に通うようになって、自身に無頓着なキャラクターを装っていた刹那は、自信という訳ではないけど、少しだけ自我に向かい合う気持ちが芽生えた。
それが何なのかはよくわからなかったけど、サキのように綺麗な出で立ちはあってもいいんじゃないかと、心境の変化を自覚するようにはなったのだ。
お母さんは、若い私より女そのものだ。
若い私が女らしくなったら、お母さんはどう思うのだろう。
それを考えるのは気が乗らなかったけど、もう子どもじゃないんだから、昔みたいにおもちゃ扱いはさせない。
刹那は、自分の化粧用品など有りもしないので、サキに化粧品を貸して欲しいと言った。
「刹那、男でもできたの?」
驚くサキに苦笑するしかなかったが、それを否定して、なんとなくしてみたくなったと答えた。
事実、それ以上に説明できる言葉の持ち合わせはなかったのだから。
「あんた、綺麗になるわよ。お母さんの娘だから」
サキは嬉しそうに刹那をドレッサーの前に座らせた。
刹那は、昔みたいにサキにメイクされるのではなく、自分でやってみるつもりだったが、自信もなく知識も子ども時代から更新していないので、まあいいやと案外簡単にあきらめてしまった。
鏡に映る自分の顔が、みるみる内に大人の憂いを纏っていく。
それは、刹那には想像の上をいく変貌で、もしかしたら今までで初めて、母親のサキをリスペクトしたのかもしれない。
「あんたはさ、イヤがっていたけど、お母さんはあんたと一緒に着飾って母娘デートしたかったんだよ」
サキはメイクが終わって姉妹のようになった刹那の顔の横に自分の顔を並べ、悪戯な微笑みを浮かべてそう言った。
親らしくはなかったが、そんな母親でも喜ばせることができたのなら、やっぱり娘としては幸せな気分になったりするのだ。
刹那は、サキと一緒に鏡を覗きながら、自分の感情に訪れた、わずかな戸惑いと一握の幸福感を同時に味わった。
無造作だった髪をアップにすると、サキはクローゼットから自分のお気に入りのコートを持ってきた。
ミンクの襟を持つ、黒いタイトなシルエットのそれは、刹那も格好いいなと密かに思っていたものだが、動物保護の観点から毛皮反対だったのであまり見たくなかった。
しかし、急かされるままに袖に手を通したら、もう駄目だった。
「あんた、きっと男を泣かす女になるよ」
サキは生まれ変わった娘を仰ぎ見るかのように呟いた。
刹那も、そう思った。
「これは私のものだ」
心の中でそう囁きながら。
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