せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 10

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「せつなときずな」 10

深めのソファーにいつものように体をあずけ、そのまま沈んでしまったら面白いのにと刹那は思った。

いつもの店員が、目を丸くしてるのが思った通りだったが、林はオーダーしたコカ・コーラをすすりながら、「あの人、綺麗だな」と呟く。
お前は何なんだ?と、刹那は呆れはしたが、確かに私より大人だし、綺麗には見える。

黙っていた。
話すことは何もなく、林の気持ちもわからない。
わかったからと言って、自分の気持ちに変化が起きる気もしない。
なのに、確かに面倒だからという理由で、こうして林の要求に応える必要も、本当はなかった気がする。

「虚栄心?」
刹那は、心の裡に独り言ちた。
だって、男が、自分に声をかけてきたんだ。
ちょっとは未だ知らない感情を味わってみたくもなるでしょ?

「刹那」
対面の林が、刹那を呼んだ
林にはどきどきしないが、男に名前で呼ばれる事には少しどきどきする。

「何?」

「お前さ、趣味とかあんの?
部活もしてないし、あんま友達いなさそうだし。

あとさ、いつもしれーっとしてるのに、プライベートはどうして全然違うの?
格好とかなんだけどさ」

なんだか面倒くさい話しかしないなと、刹那は思った。
「趣味とか、特にないな。
友達も、別にいいや。
私、以前よく苛められてたから。人は面倒くさいよ。

格好は、公彦に見られたくはなかったな。
一人で楽しんでいたいだけだから」

自分が下の名で呼ばれるのはどきどきするけど、男を下の名で呼ぶのは恥ずかしいだけだなと、いやな汗をかくような気持ちを刹那は覚えた。
「もっと、面白い話してよ。
わざわざついてきたんだから」
自分のどこから、こんな言葉が出てきたのか不思議だ。

「お前さ、こないだ会った時、すっげえ綺麗だと思ったんだ。
ビックリするだろ?いつもの学校の感じと別物だし、迷ったもん、本当に福原なのか自信がなくて、声をかけようかどうしよかって。

それに、ここに来てるの偶然何度か見たから、ここには何かあるのかなって思ってて、なら一緒に行こうか、みたいな」

「で、何かあった?」

「何も。
ちょっと綺麗な店員が一人。
あと俺の前に、も一人マブい女の子が一人だけ」

「つまんないけど、まあいいや」
刹那は小さな声で言った。
林とのデートは思ったほど面白くはなかったけど、一人でいるよりは楽しかったのかもしれない。

「白猫」を出て、二人は並んで歩いた。

「これからどうするの?」時間はまだ早く、刹那は気になった。
「俺の部屋に来る?」そう口にする林も、表情に期待感はない。

「無理」

顔色一つ変えず即答する刹那に、林は手を延ばして言った。
「刹那、手を繋いでいいかな?」

何で好きでもない男と手を繋がないといけないのかと思ったが、「手を繋いでいいかな?」とわざわざ聞いてくる林は、優しい男なのかなと思った。

「ないな」

「じゃあ、いつかは手を繋げれたらいいな」

刹那は、はっとして林を見た。
何でもない言葉だけど、自分の気持ちを優先するでなく、刹那の変化を促すでもないその言葉に、刹那は初めて林に好感を抱いた。

「私も、ちょっと、そうかな」

スイーツでも食べようかと林に言った瞬間、明日どころか、今日から今までとは違う日なのかもと、刹那は思った。
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