せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 20

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「せつなときずな」20

その日、公彦は警察に出向いたまま、帰ってくることはなかった。
それはおそらく、望んでいない事態になりつつあることを示している。

実家から絆を保育園に迎えに行き、自宅に戻って夕食を作ってはみたが、家の主がそれを口にする機会はなく、二人で先に食事を済ますしたものの、気持ちは定まりはしない。
何一つ確かなものが不在であることの不安は、ほとんど恐怖に近い感情になった。
刹那は連絡を待ち続けたが、夜中ななっても携帯が鳴ることも、玄関ドアが開くこともなかった。

翌朝、一宮署から説明したいことがあると家に連絡が入った。
それがどんな話であれ、何もわからない不安を抱えているよりはましだと考えようとはしたが、考えれば考えるほど頭の中は真っ白になっていく。
小説で読むような感情描写は、実際に起こり得るのだと、刹那は初めて知った。
しかし、当たり前ではあるのだが、知らずに済む人生であって欲しかった。

サキに事情を説明して、絆を保育園に送ってもらうことになったが、サキもどうやらあまり眠れなかったらしい。
自分の母親ではあるが、サキに人並みの感情が備わっているんだと、刹那はちょっと驚いた。

「刹那、大丈夫?
まあ、大丈夫もなにもないけど。
終わった後で必ず連絡するのよ」

サキが絆を連れて出ると、刹那は覚悟も据わらぬままに一宮署に出向いた。

…それは、強制性交罪であった。

刹那は言葉を失った。

数日前、林公彦は、かつて関係を持っていた濱田美由の自宅に押し入り彼女を強姦した。
その日に警察に駆け込んだ濱田美由の訴えで、林公彦は強制性交罪の容疑で逮捕され、自分の罪を認めたと刑事から説明があった。

「奥さん、聞きにくいことですが、ご主人とはセックスレスでしたか?」

概要を聞かされただけで死にたくなるような気持ちになっているのに、いくらそれが仕事とはいえ、そんなえげつないことを今聞くのかと、刹那は絶望と怒りに震えた。

「そんな質問に、今答えろと?
答えたくありません」

なぜなら、その通りだからだと刹那は怒鳴ってやりたかった。

「ご主人は動機について、奥さんの出産後夫婦生活が途絶え、欲求を抑えることができずに学生時代に関係のあった濱田さんと不倫関係になってしまい、濱田さんから別れ話切り出されて事に及んだと自供しています。

我々は裁判において、容疑者の自供を補完する証言を陳述しなくてはいけない。
奥さんには悪いですが、だからこうして訪ねています」

刹那は刑事を目を見て、我慢できずに言い放った。
「つまり、私が夫を拒んだから、夫はレイプ犯になったのだと、そう言いたいんですね警察は」

刹那は警察に対し、公彦に対しての怒りと恨みをぶつけていることに気付いていない。
いや、こいつらはみんな揃いも揃ってろくでなしなんだ。

「そうは言っていません。

しかし、現に被害者がいるのです。法を犯すのは罪ですし、法によって裁かれないと被害者の尊厳は踏みにじられてしまいます。
できれば、ですが、ご理解ご協力をお願いしております」

饒舌な刑事の話は、刹那の心には響かない。

被害者はいる。
では、加害者の家族も被害者ではないのかと、刹那は悲しい気持ちを抑えることができなかった。
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