せつなときずな

岡田泰紀

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せつなときずな 29

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「せつなときずな」 29

「どうやったら、刹那を納得させれるかな?」

ほうれん草のムースをかけた鰆のソテーを配膳しながら、サキは田辺に聞いているのだけど、多分自分が期待した答えは返ってはこないだろうと思っている。

サキは、最低限の買い物と絆の保育園への送迎以外は社会との繋がりを断ち続けている刹那に危機感を覚えている。
ただでさえ、あまり人との関係を欲しない娘が、犯罪加害者家族となったことでストレスを抱えているにもかかわらず、誰にも頼ろうとしない。
いや、できないのか、する気がないのかすら、サキには定かではない。

生活を頼られていることは構わない。その程度は自分の力でなんとでもなる。
そうではない。
刹那と絆の親子の濃密な時間は、将来きっと善からぬ事態を招くのではないか、その時、きっと自分は無力である絶望感に為す術もなくうちひしがれる、そんな予感を黙って見過ごすことができないのだ。

「刹那を福原興業に復帰させなくちゃいけない」

「サキさんは、どうしてそう思うのですか?」

それは田辺の口癖だった。
そしてこの言葉が出る時は、どちらかといえばサキの考えに賛同してないことが多い。

「社会との繋がりを持つことが、今の刹那には絶対必要だと思う

違う?」

「違いませんが、今ではないかもしれません。

それはサキさんにも僕にもわからない。
確かにもしかしたら、そのタイミングは今かもしれませんが、僕にはまだ待った方がいい気がします」
田辺は鰆とつきあわせのマッシュルームの素揚げを頬張りながら、サキから視線は逸らさない。
だから、美味しいと感じているようには見えない。
そんな時は、少し残念だなとサキは思う。

「じゃあ、どうする?」

「もう少しだけ待つのです。

説得が必要だと感じている時点で、刹那さんのタイミングではないと思いませんか?

愛とは、待つことです」

サキは、じっと田辺を見つめた。
その言葉には、説明できない説得力を強く感じはする。
しかし同時に、説得がいらない時期が刹那に来るとも、サキには全く思えなかった。

田辺の言葉が正しいのか、自分の直感が正しいのか
サキはいつものように、もう突き詰めて考えるのに疲れてしまい、嫌になってしまった。

「わからないわ」

そう言うと小さなワインセラーからボトルを出して、グラスと共にテーブルに置いた。

「自棄酒ですか?」
田辺は忖度しないが、飲めない男に付き合わすのは私の権利だ。

「かもね。

だからといって、飲まされたから起たなくなったなんて言わせないからね」

サキは田辺とグラスを合わすと、赤のシクロを一気に飲み干した。
向こうが起たなくなる前に、田辺の腕の中で寝るのは私だろうなと思いながら。

そして刹那には、自分の身体を預ける腕も、自分の心を溶かす夜も無いんだと思い、また悲しい気持ちになった。
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