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アンチ・リアル 20
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「アンチ・リアル」 20
日菜子と逢うのは、どれくらいぶりだろうか。
「日出郎に逢いたいから、久しぶりに帰るね」
と連絡をもらった。
東京の音楽プロダクションで働く日菜子は、今の職場になってからはおもうように休みが取れなくなり、日斗志がまだ1歳ぐらいの時に会いに来たのが最後だった気がする。
名古屋に帰ってきても、日菜子は義妹の頼子に気を使い、日出郎の家には泊まらない。
かといって、祖母しかいない実家には絶対戻りはしない。
二人の父親は、職場での使い込みが発覚して解雇され、弁済のために祖母に無断で実家を売却して失跡した。
棄てられた祖母は生活保護を受けながら、ボロい市営公団に住んでいる。
兄妹は自立すると、実家を捨てていたので、父親が失跡する以前に家族は既に離散していた。
夫婦喧嘩して仕方なしに宿に使う以外、日出郎は実家に寄る気もない。
日菜子に至っては、祖母と連絡すら断っている。
二人は、あの親子を、親族などと認める気は微塵もなかった。
日菜子と、栄三越のライオンの前で落ち合うことになったのは、「デートらしい気分を味あわせて」という希望に応じたからだが、兄妹でデートもないだろうと日出郎は思う。
そう思いながら、まるで恋人を待つように気がはやるのは何故だろうか。
珍しく、白とブルーのストラップのスカートを履いてきた日菜子を見定めた時、日出郎は思わず相好を崩してしまい、苦笑いした。
「可愛いでしょ?」日菜子は悪戯っぽく笑った。
「兄に聞く台詞じゃないだろ」
「いいんじゃないの?でも、お義姉ちゃんには内緒だよ」
日菜子は悪びれもせず、日出郎の腕に自分の腕を通した。
二人は久屋大通を東に渡り、中日ビルの裏にある台湾料理の店に入った。
その店は、日出郎が頼子と内輪の結婚披露宴をした場所だった。
お互い、親と折り合いが悪く、親に相手を紹介することもなく籍を入れたのだ。
日菜子が店をおさえ、司会をしてくれた思い出の店だ。
そして二人にとって、もう一つの思い出の場所でもある。
ジーザス&メリーチェインの来日公演を二人でクラブクアトロで観たあと、興奮冷めやらぬまま食事に入ったこの店に、当の本人達がコーディネーターと共に来店してきて驚いたのだ。
あの頃は若かったなと、日出郎は思い返した。
青菜や台湾酢豚をつまみながら、兄妹は端から見たら恋人同士そのものだった。
また当分逢えなくなるのだから、二人とも短い時間を愛でたかった。
俺たちはそこそこ最低な中で、互いを支えに、唯一無二の存在として生き延びてきたんだ。
俺たちは、二人で、一つだ…
頼子は、そんな兄妹の特別な関係に、きっと妬いている。
しかし、それを敢えて口にすることはない。
きっと、それを認めること自体が許せないのだ。
「日出郎、私、結婚できる気がしないよ」
一通り食べ終えて、日出郎のグラスのビールを注ぎながら、日菜子は言った。
「私さ、付き合う男と日出郎を重ねちゃうんだ。
当然、その姿は違ってて、シルエットは交わらない。
その誤差を、どうやって埋めていいかわからいって、そんな致命的なことに最近気付いたの」
日出郎は、黙って聞いていた。
「日出郎に紹介した前の彼氏と、最近別れた。
彼から、何だかお兄さんと比べられてる気がして、気にしすぎかなって聞かれて、私、答えられなかったの」
日出郎は、自分の存在が日菜子の幸福を妨げている事実に、愕然とせざるを得なかった。
その反面、心のどこかに、不謹慎にも嬉しい感情を覚えている自分自身に、言葉にはならない苦い思いが染みのように拡がっていく。
「ごめんな…」
「日出郎は悪くないわ」
日菜子ははっきりと言い切った。
「この世に大切な人は、一人しか選べないのかもしれない。
なら、それを受け入れるしかないのかもね」
日菜子と逢うのは、どれくらいぶりだろうか。
「日出郎に逢いたいから、久しぶりに帰るね」
と連絡をもらった。
東京の音楽プロダクションで働く日菜子は、今の職場になってからはおもうように休みが取れなくなり、日斗志がまだ1歳ぐらいの時に会いに来たのが最後だった気がする。
名古屋に帰ってきても、日菜子は義妹の頼子に気を使い、日出郎の家には泊まらない。
かといって、祖母しかいない実家には絶対戻りはしない。
二人の父親は、職場での使い込みが発覚して解雇され、弁済のために祖母に無断で実家を売却して失跡した。
棄てられた祖母は生活保護を受けながら、ボロい市営公団に住んでいる。
兄妹は自立すると、実家を捨てていたので、父親が失跡する以前に家族は既に離散していた。
夫婦喧嘩して仕方なしに宿に使う以外、日出郎は実家に寄る気もない。
日菜子に至っては、祖母と連絡すら断っている。
二人は、あの親子を、親族などと認める気は微塵もなかった。
日菜子と、栄三越のライオンの前で落ち合うことになったのは、「デートらしい気分を味あわせて」という希望に応じたからだが、兄妹でデートもないだろうと日出郎は思う。
そう思いながら、まるで恋人を待つように気がはやるのは何故だろうか。
珍しく、白とブルーのストラップのスカートを履いてきた日菜子を見定めた時、日出郎は思わず相好を崩してしまい、苦笑いした。
「可愛いでしょ?」日菜子は悪戯っぽく笑った。
「兄に聞く台詞じゃないだろ」
「いいんじゃないの?でも、お義姉ちゃんには内緒だよ」
日菜子は悪びれもせず、日出郎の腕に自分の腕を通した。
二人は久屋大通を東に渡り、中日ビルの裏にある台湾料理の店に入った。
その店は、日出郎が頼子と内輪の結婚披露宴をした場所だった。
お互い、親と折り合いが悪く、親に相手を紹介することもなく籍を入れたのだ。
日菜子が店をおさえ、司会をしてくれた思い出の店だ。
そして二人にとって、もう一つの思い出の場所でもある。
ジーザス&メリーチェインの来日公演を二人でクラブクアトロで観たあと、興奮冷めやらぬまま食事に入ったこの店に、当の本人達がコーディネーターと共に来店してきて驚いたのだ。
あの頃は若かったなと、日出郎は思い返した。
青菜や台湾酢豚をつまみながら、兄妹は端から見たら恋人同士そのものだった。
また当分逢えなくなるのだから、二人とも短い時間を愛でたかった。
俺たちはそこそこ最低な中で、互いを支えに、唯一無二の存在として生き延びてきたんだ。
俺たちは、二人で、一つだ…
頼子は、そんな兄妹の特別な関係に、きっと妬いている。
しかし、それを敢えて口にすることはない。
きっと、それを認めること自体が許せないのだ。
「日出郎、私、結婚できる気がしないよ」
一通り食べ終えて、日出郎のグラスのビールを注ぎながら、日菜子は言った。
「私さ、付き合う男と日出郎を重ねちゃうんだ。
当然、その姿は違ってて、シルエットは交わらない。
その誤差を、どうやって埋めていいかわからいって、そんな致命的なことに最近気付いたの」
日出郎は、黙って聞いていた。
「日出郎に紹介した前の彼氏と、最近別れた。
彼から、何だかお兄さんと比べられてる気がして、気にしすぎかなって聞かれて、私、答えられなかったの」
日出郎は、自分の存在が日菜子の幸福を妨げている事実に、愕然とせざるを得なかった。
その反面、心のどこかに、不謹慎にも嬉しい感情を覚えている自分自身に、言葉にはならない苦い思いが染みのように拡がっていく。
「ごめんな…」
「日出郎は悪くないわ」
日菜子ははっきりと言い切った。
「この世に大切な人は、一人しか選べないのかもしれない。
なら、それを受け入れるしかないのかもね」
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