アンチ・リアル

岡田泰紀

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アンチ・リアル 21

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「アンチ・リアル」  21

ブリーチしたプラチナブロンドに、デビューした頃のレディオヘッドのトム・ヨークのような髪型をした青年は、レース地のシャツを着流していて、両腕には、対照的に彫られた柄のタトゥーがわずかに透けて見える。

首もとにも、蝎の妖艶なタトゥーが覗き、両耳と下唇にはピアスがある。
それでいながら、その存在感は儚く、線の細い所在無さげな感じは、男娼感が滲み出ていた。

山盛と日出郎は面喰らったが、青年の案内するまま奥についていくしかない。

「俺がゲイなら」日出郎は心の中で独りごちた「間違いなくこいつをファックするな」

部屋の廊下は天壁共に真っ黒に塗装されていて、一体どんな賃貸契約をしてこんなことをしでかしているのか、二人には皆目見当もつかなかった。
怪しい占いの館か、ヤバい風俗店にしか見えない。

そして突き当たりの、リビングとおぼしき部屋のドアは真紅に塗られていて、その向こうは異世界につながっているのかとすら思える。

「どうぞ」
青年は、その地獄の入口を開けると、後ろに下がって二人を招き入れた。

二人は部屋に入るのに、躊躇した。

真紅の遮光カーテンで塞がれた窓、やはり天壁共に真っ黒に塗装された部屋、その壁は真っ赤なペンキが、ジャクソン・ポロックの絵画のようにぶちまけられていてる。

リビングなのに、部屋の窓側にはダブルのベッドが置かれていて、まるで今しがたまで激しい性交をしていたように、真っ赤なシーツが乱れたまま、だらしなく鎮座している。

真っ暗な部屋の天井にはワイヤーが通され、そこにいくつかの裸電球が、むき出しのソケットをさらしてぶら下がっている。

部屋中に響き渡る轟音で、ジャックスのおどろおどろしい「マリアンヌ」が再生されていた。
早川義夫が、自分の曲がこんな場所で流されていたらどう思っただろう。

ダイニングテーブルは、汚くボロボロの杉の足場板をぶったぎって天板にしてあり、しかもわざとそうしているのか、反ったり割れたりした材を無理に2枚寄せてつないであった。
こんなテーブルでグラスを置いたら、ひっくり返してしまう気がした。

そのテーブルの向こう側に、見慣れない姿の男が座っている。

こちらも青年と同じように、ブリーチしたプラチナブロンドの髪は、短いソフトモヒカンにされていて、パティシエの辻口博啓を思わせる。
丸いサングラスは、ラストエンペラーの愛新覚羅溥儀のようだ。

黒いジャケットのインナーは、真っ赤なTシャツだ。
赤地に黒いロゴは、旧ソ連の国旗である鎌とハンマーのマーク。
そして「STALIN」の文字。
遠藤ミチロウが率いた伝説のパンクバンド、スターリンのTシャツに違いなかった。
そのミチロウが、ステージでずっと取り上げ続けたのが、ジャックスの「マリアンヌ」だ。

「ようこそ」
藤田明人は、にこりともせずにそう言った。
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