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アンチ・リアル 34 at last
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「アンチ・リアル」 34 at last
その日の夕方、山盛企画の事務所に、ジルが運転する旧いアストンマーチンが迎えにきた。
よくもこんな車が走っていたものだと、日出郎は驚いた。
アルコールを提供できるようにとの、藤田の指示だった。
山盛と後ろに乗ると、なんだか往年の007を思い出すのだが、暫く見ないうちに内巻きのショートボブになっていたジルは不気味なほど妖艶になっていて、日出郎は、これなら藤田もお楽しみにもなるわなとの思いを禁じ得なかった。
「井上さん、
女の足の爪を食べたことがありますか」
初めてジルの声を聞いた日出郎は、腰を抜かさんばかりに驚いたが、最初の会話が、藤田と同じようにまるで理解できない話なので、困惑するしかなかった。
「あなたは、食べたことがあるのですか?」
「桜の味がします」
ジルの答は、質問と同じくらい意味不明だった。
「桜の味?」
「うそですよ」
そう言ったきり、ジルは一度もバックミラーに目をやることもなかった。
藤田邸に着くと日出郎の予想通り、客のためのスリッパすら用意はされていなかった。
日出郎はそれを見越して持参していたが、山盛は当然、冷たいコンクリートの床を靴下で上がらねばならなかった。
そして、風呂が丸見えの便器だらけのコンクリートの牢獄に、カスタマイズした洋便器の椅子に山盛と座る羽目となる。
まさか自分が、この悪趣味なダイニングチェアーでもてなされるとは思ってもみなかった。
「ようこそ、お越しいただきありがとう。
今夜は短い一時ながら、楽しんでもらいたい」
それは日出郎が初めて聞く、藤田の普通の発言だった。
ダイニングテーブルには、追加工事分の代金が裸の札束で無造作に置いてある。
窓のないこの屋敷は、極めて密室的な光しか存在しない。
ジルがワイングラスに、スパークリングワインを注いだ。
「それでは、乾杯といこう。
山盛君、井上君、ご苦労様」
藤田の音頭を合図に、二人はグラスを飲み干した…
動物の泣き声のような音と、不快な空腹感で目を覚ました日出郎は、朦朧とした意識が覚めきらず、とにかく苦しくてもがいた。
四肢は、ダイニングの赤いシーツのダブルベッドの上で、広げたように拘束されているようだ。
何かを言いたくても、口にはボールギャグを咬まされていて、涎がだらだらと流れるだけだ。
顔を横にすると、便器の椅子に見たことのない拘束具で縛りつけられた山盛が、やはりボールギャグで声が出せず、情けない喘ぎを発している。
ズボンを下げられ、ジルに激しく口淫されながら。
その背後には、ハンディカムを手にした藤田がいる。
山盛の男根に添えたジルの手には、眠らされる前に見た札束が握られている。
きっと山盛が果てる時に、あの札束に射精させる気なのだなと日出郎は思った。
俺たちの稼ぎを、自分自分の不浄でもって穢させるつもりなのだ。
やっぱり、注目の多い料理店だったのだ。
俺たちは、自分たちが料理される店を、それと知らずにせっせと造らされた愚か者だったのだ。
そんなことを考えながら、日出郎は、もう全てがどうでもよくなった。
俺はきっと、そう遠くない日に、頼子と別れるだろう。
最愛の日菜子は、東京に行ったきりだ。
そして、俺の心を惑わせて、深田薫は姿を消した。
これ以上、一体何がある?
ジルによろしくされて、報酬にぶちまけるのか?
藤田が大好きな尻を弄ばれるのか?
どこまでがリアルで、どこまでが虚構なのか、もう日出郎には区別がつかない。
まあいいさ。
現実はいつも虚構みたいなものだ。
俺たちは、いつもクソみたいな人生のおまけにすらなれないのだろうからな。
その日の夕方、山盛企画の事務所に、ジルが運転する旧いアストンマーチンが迎えにきた。
よくもこんな車が走っていたものだと、日出郎は驚いた。
アルコールを提供できるようにとの、藤田の指示だった。
山盛と後ろに乗ると、なんだか往年の007を思い出すのだが、暫く見ないうちに内巻きのショートボブになっていたジルは不気味なほど妖艶になっていて、日出郎は、これなら藤田もお楽しみにもなるわなとの思いを禁じ得なかった。
「井上さん、
女の足の爪を食べたことがありますか」
初めてジルの声を聞いた日出郎は、腰を抜かさんばかりに驚いたが、最初の会話が、藤田と同じようにまるで理解できない話なので、困惑するしかなかった。
「あなたは、食べたことがあるのですか?」
「桜の味がします」
ジルの答は、質問と同じくらい意味不明だった。
「桜の味?」
「うそですよ」
そう言ったきり、ジルは一度もバックミラーに目をやることもなかった。
藤田邸に着くと日出郎の予想通り、客のためのスリッパすら用意はされていなかった。
日出郎はそれを見越して持参していたが、山盛は当然、冷たいコンクリートの床を靴下で上がらねばならなかった。
そして、風呂が丸見えの便器だらけのコンクリートの牢獄に、カスタマイズした洋便器の椅子に山盛と座る羽目となる。
まさか自分が、この悪趣味なダイニングチェアーでもてなされるとは思ってもみなかった。
「ようこそ、お越しいただきありがとう。
今夜は短い一時ながら、楽しんでもらいたい」
それは日出郎が初めて聞く、藤田の普通の発言だった。
ダイニングテーブルには、追加工事分の代金が裸の札束で無造作に置いてある。
窓のないこの屋敷は、極めて密室的な光しか存在しない。
ジルがワイングラスに、スパークリングワインを注いだ。
「それでは、乾杯といこう。
山盛君、井上君、ご苦労様」
藤田の音頭を合図に、二人はグラスを飲み干した…
動物の泣き声のような音と、不快な空腹感で目を覚ました日出郎は、朦朧とした意識が覚めきらず、とにかく苦しくてもがいた。
四肢は、ダイニングの赤いシーツのダブルベッドの上で、広げたように拘束されているようだ。
何かを言いたくても、口にはボールギャグを咬まされていて、涎がだらだらと流れるだけだ。
顔を横にすると、便器の椅子に見たことのない拘束具で縛りつけられた山盛が、やはりボールギャグで声が出せず、情けない喘ぎを発している。
ズボンを下げられ、ジルに激しく口淫されながら。
その背後には、ハンディカムを手にした藤田がいる。
山盛の男根に添えたジルの手には、眠らされる前に見た札束が握られている。
きっと山盛が果てる時に、あの札束に射精させる気なのだなと日出郎は思った。
俺たちの稼ぎを、自分自分の不浄でもって穢させるつもりなのだ。
やっぱり、注目の多い料理店だったのだ。
俺たちは、自分たちが料理される店を、それと知らずにせっせと造らされた愚か者だったのだ。
そんなことを考えながら、日出郎は、もう全てがどうでもよくなった。
俺はきっと、そう遠くない日に、頼子と別れるだろう。
最愛の日菜子は、東京に行ったきりだ。
そして、俺の心を惑わせて、深田薫は姿を消した。
これ以上、一体何がある?
ジルによろしくされて、報酬にぶちまけるのか?
藤田が大好きな尻を弄ばれるのか?
どこまでがリアルで、どこまでが虚構なのか、もう日出郎には区別がつかない。
まあいいさ。
現実はいつも虚構みたいなものだ。
俺たちは、いつもクソみたいな人生のおまけにすらなれないのだろうからな。
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