アンチ・リアル

岡田泰紀

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アンチ・リアル 33

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「アンチ・リアル」  33

街路樹の葉は全て落ち、冬の大気に抑えられた雲が低く空を覆っている。

薫の幻影は薄まるどころか、日に日にその影を濃くしていき、日出郎の心はとてつもない空虚になす術もない。

藤田邸は竣工し、先日引渡しを終え、引っ越しも済んだ。
経済的な問題が発生するに違いないのに、日出郎は最早、薫のいないスタジオに復帰する気は毛頭なかった。

取り敢えずは、藤田邸の本工事分の報酬の回収に成功している。
これまで散々煮え湯を呑まされてきた山盛に、今回はがっちり食い込んで金の管理まで握ったのが大きかった。
その売上で、当座はしのげる。
勿論、二度と山盛とつるむ気もなかった。

藤田邸は躯体構造がそのまま仕上げのため、内装工事がほとんど無いに等しい。
日出郎が起こした電気設備図に基づいて、電気と空調、給排水衛生設備工事が業者によって進められ、現場監理は立ち会いも極くわずかに済んでいる。
山盛や設備屋と一緒に、そこら中に無茶な便器を据え付けさせられた苦労を除けば。

通常より仕上げ工程が少ない藤田邸の、その短い工期に、藤田本人が現場を確認に来ることは一度とすら無かった。
建築家が自ら自宅を設計しているにも関わらずに、である。
異常だ。完全に異常である。

ピラミッド型のテントはさすがに問題となり、建築許可を得るために鉄骨のフレームだけとなったが、住戸の開口部を全て違法に塞ぐ藤田のことだから、このままで終わるとは日出郎には思えなかった。
しかし、テント生地の施工は、今のところ山盛企画に発注はされていない。

日出郎は、とにかく藤田邸から早く足を洗いたかった。
傷心のまま、不安を抱える案件に煩っている精神的余裕などある訳がなかったのだ。

しかし、引渡しを終えて半月ほど経った後、山盛から関わりたくない連絡が入った。

「藤田のおっさんから、自宅での竣工祝いパーティーに誘われているんだ。
お前も一緒にって言われている。なんとか都合つけてくれ」

「嫌だね。俺の仕事はもう済んだんだ。

藤田とは、もう金輪際関わるつもりはないからな」
日出郎は取りつく島もなく、山盛を扱った。

「そうじゃないんだ。

違法に開口部を塞いだ追加工事の代金は、その時現金で支払うって言うんだ。
そして、お前の同行も条件として言われているから、断ることなんてムリなんだよ」

日出郎には、藤田の考えがまるでわからなかった。
何故、自分が山盛と一緒でないといけないのか?
そもそも、追加工事の精算を、竣工祝いと引き換えにすること自体が理解できない。

覚王山のマンションでの体験からすれば、その竣工祝いはきっとろくでもないものに違いない。
それ以前に、これは何かの罠なのではないかとしか思えない。

「お前、何事もなく回収できると思うのか?
俺は、そうは思わん」
日出郎は、はっきりと山盛に言った。

「そうは言っても、他に方法は無いだろ?
今まで言い値で、竣工検査もせずに全部綺麗に支払ってくれているんだ。
そんな奴、この世に他にいないだろう?

心配は無用だって。」

山盛の言葉に日出郎は、これが最後だからなと不承不承に受け入れるしかなかった。
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