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第33話 先行き
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正直なところ、この道を先に進むことに危機感がある。王都になかった教会が、この街にはあった。このまま進むと、どんどん教会が増えていく。つまり、教会の文化圏に入って行くんじゃないかって危機感があるのだ。通行人が皆、黒髪を見て斬りかかってきたらどうしよう。
この街までの道中、別れ道はなかった。正確にはあったが、開拓村は行き止まりと考えていいだろう? 王都から離れる積もりだったが、王都まで戻って、反対側に進む方がいいのだろうか。
10日間やそこらで帰ったら、カミラはどんな顔をするか。
……やはり行けるところまで行くべきか。
椿がこの教会の街に入ったのは南側の門だった。外周の道を西側に回り込むと、西門が存在した。北側は山が見えるし、道はないだろう。東側は方角的には高原に戻る、しかし王都へ至る道が一本とは考えにくい。要衝へ至る経路は複数用意するものだ、東門もあると思う。まあ、東側に道があったとしても、進むとしたら、西に向かうので間違いないかな。
王都から大量に発った行商人やキャラバンは、開拓村はもちろん、この街に留まっている様子もない。この規模の街でさえ留まるに値しない程、この先には大きな街があるんだろうか。王都の南門からは東へのルートも伸びていたが、行商人達はそちら側から来た可能性もあるな。この街も、王都も、この世界では意外と規模が小さいのかもしれない。王子様っぽいのが居たから王都と思っていたが、王都ではないという場合もあるし。
椿は、西門から外に出る。
やはり、道行く人は皆無で、椿は独り歩くことになる。門番が心配そうに声をかけてきたが、それこそ徒歩や単独で発つ人が稀なことを示している。
道中で青鬼に襲われていた一団の件もある、道中は安全ではないのだ。この世界では集団で移動するのが主流なのかもしれない。
山間の道を進みながら、椿は白くなった髪を戻せないか思案していた。幸いなことに人目はないし、代わりに時間はたっぷりある。王都から教会の街への道中でそうしたように、強化魔法や魔ッチョの研究を続けることにする。
魔ッチョは、筋肉繊維としている魔力の束を増やすことで、その力を増すことができる。うん、筋肉と同じだね、そのまんまの効果だ。不思議なのは、この魔力でできた筋肉繊維が物体に干渉するってところだ。
すでに、足裏に這わせて革靴を保護していたり、踏ん張りを利かすために利用していたりする。肉襦袢のレベルで厚く魔ッチョを着込むと、月面かよってくらい飛んだり跳ねたりできる。その上、転けても痛くない。
そしてこの魔ッチョ、他人からは見えなかったはずだ。地面に寝そべると、軽く浮いているように見えるだろう。
そうやって奇行を繰り返しながら進むが、繊維を厚くする以外の手は思い浮かばない。取り敢えず、椿の発想ではこれ以上の工夫は望めなさそうだ。まあ、今のところは。
ならば今度は、身体強化魔法の方をどうにかしてみようか? 魔ッチョも身体強化で動かしている。身体強化の練度が上がれば、自ずと魔ッチョのレベルも上がるというものだ。
改めて普段、行使している身体強化について考えてみる。身体で魔力を血液のように循環させる、すると得られるのが筋力の強化や疲労の低減だ。何言ってるんだって気がするが、異世界の不思議パワーとしか言いようがない。元はポーションづくりの方法として、カミラから体験型で教示された魔力操作から発展している。
濁ったヨモギの煮汁を魔力で撹拌するとポーションになる、そんな不思議な魔力さんを身体に流すと身体強化の効果が得られるのだ。入浴すると健康に良い温泉を、飲んでみたらやっぱり健康に良かった的な理屈の異世界版だ。出来たものは仕方がないのだ、納得してくれたまえ。
そして、魔力を循環させるってところだが、血液のように血管を伝わせているイメージで行使している。でもここが、たくさん魔力を流せない原因になっているのではないだろうか。血液、もとい体液は何も血管の中にだけある訳ではない。血管から運ばれてきた、栄養や酸素を細胞に行き渡らせるため、細胞の間にも満ちているものだ。もっとこう、身体全体に魔力を満たすようにしてみて……
いつものように魔力を生成する。ただし、量はいつもより遥かに多くだ。身体全体に満たすと、ぼんやりと白く光るのが分かる。スポンジが水を吸い上げるように、髪にも魔力が行き渡っていく。そうやって魔力が全身に行き渡ると、光は収まった。
まるで全身の水分をポーションに変えるような感覚だろうか、本能的にこれが身体強化魔法の正しい使い方だと分かった。効果がまるで違う、助走なしでも2回転宙返りができるレベルだ。魔ッチョありだと4回転は堅いぞ!
発展前の身体強化と比べてみようとした時だった。スポンジから水を抜くように、全身から魔力を抜いて腹に集めていく。その過程で、髪が黒く戻っていくのが見えた。
おぉ…… 魔力が髪に残留していたのか……
怒りに任せて、どうやって身体強化したか覚えてないほどだったものな。
逆にもう一度、発展型の身体強化を施すと、やはり髪は白くなっていった。これは、変装にも使えて一石二鳥ではなかろうか?
浮いた気分の椿の前に9つ目の駅が見えてきた。
この街までの道中、別れ道はなかった。正確にはあったが、開拓村は行き止まりと考えていいだろう? 王都から離れる積もりだったが、王都まで戻って、反対側に進む方がいいのだろうか。
10日間やそこらで帰ったら、カミラはどんな顔をするか。
……やはり行けるところまで行くべきか。
椿がこの教会の街に入ったのは南側の門だった。外周の道を西側に回り込むと、西門が存在した。北側は山が見えるし、道はないだろう。東側は方角的には高原に戻る、しかし王都へ至る道が一本とは考えにくい。要衝へ至る経路は複数用意するものだ、東門もあると思う。まあ、東側に道があったとしても、進むとしたら、西に向かうので間違いないかな。
王都から大量に発った行商人やキャラバンは、開拓村はもちろん、この街に留まっている様子もない。この規模の街でさえ留まるに値しない程、この先には大きな街があるんだろうか。王都の南門からは東へのルートも伸びていたが、行商人達はそちら側から来た可能性もあるな。この街も、王都も、この世界では意外と規模が小さいのかもしれない。王子様っぽいのが居たから王都と思っていたが、王都ではないという場合もあるし。
椿は、西門から外に出る。
やはり、道行く人は皆無で、椿は独り歩くことになる。門番が心配そうに声をかけてきたが、それこそ徒歩や単独で発つ人が稀なことを示している。
道中で青鬼に襲われていた一団の件もある、道中は安全ではないのだ。この世界では集団で移動するのが主流なのかもしれない。
山間の道を進みながら、椿は白くなった髪を戻せないか思案していた。幸いなことに人目はないし、代わりに時間はたっぷりある。王都から教会の街への道中でそうしたように、強化魔法や魔ッチョの研究を続けることにする。
魔ッチョは、筋肉繊維としている魔力の束を増やすことで、その力を増すことができる。うん、筋肉と同じだね、そのまんまの効果だ。不思議なのは、この魔力でできた筋肉繊維が物体に干渉するってところだ。
すでに、足裏に這わせて革靴を保護していたり、踏ん張りを利かすために利用していたりする。肉襦袢のレベルで厚く魔ッチョを着込むと、月面かよってくらい飛んだり跳ねたりできる。その上、転けても痛くない。
そしてこの魔ッチョ、他人からは見えなかったはずだ。地面に寝そべると、軽く浮いているように見えるだろう。
そうやって奇行を繰り返しながら進むが、繊維を厚くする以外の手は思い浮かばない。取り敢えず、椿の発想ではこれ以上の工夫は望めなさそうだ。まあ、今のところは。
ならば今度は、身体強化魔法の方をどうにかしてみようか? 魔ッチョも身体強化で動かしている。身体強化の練度が上がれば、自ずと魔ッチョのレベルも上がるというものだ。
改めて普段、行使している身体強化について考えてみる。身体で魔力を血液のように循環させる、すると得られるのが筋力の強化や疲労の低減だ。何言ってるんだって気がするが、異世界の不思議パワーとしか言いようがない。元はポーションづくりの方法として、カミラから体験型で教示された魔力操作から発展している。
濁ったヨモギの煮汁を魔力で撹拌するとポーションになる、そんな不思議な魔力さんを身体に流すと身体強化の効果が得られるのだ。入浴すると健康に良い温泉を、飲んでみたらやっぱり健康に良かった的な理屈の異世界版だ。出来たものは仕方がないのだ、納得してくれたまえ。
そして、魔力を循環させるってところだが、血液のように血管を伝わせているイメージで行使している。でもここが、たくさん魔力を流せない原因になっているのではないだろうか。血液、もとい体液は何も血管の中にだけある訳ではない。血管から運ばれてきた、栄養や酸素を細胞に行き渡らせるため、細胞の間にも満ちているものだ。もっとこう、身体全体に魔力を満たすようにしてみて……
いつものように魔力を生成する。ただし、量はいつもより遥かに多くだ。身体全体に満たすと、ぼんやりと白く光るのが分かる。スポンジが水を吸い上げるように、髪にも魔力が行き渡っていく。そうやって魔力が全身に行き渡ると、光は収まった。
まるで全身の水分をポーションに変えるような感覚だろうか、本能的にこれが身体強化魔法の正しい使い方だと分かった。効果がまるで違う、助走なしでも2回転宙返りができるレベルだ。魔ッチョありだと4回転は堅いぞ!
発展前の身体強化と比べてみようとした時だった。スポンジから水を抜くように、全身から魔力を抜いて腹に集めていく。その過程で、髪が黒く戻っていくのが見えた。
おぉ…… 魔力が髪に残留していたのか……
怒りに任せて、どうやって身体強化したか覚えてないほどだったものな。
逆にもう一度、発展型の身体強化を施すと、やはり髪は白くなっていった。これは、変装にも使えて一石二鳥ではなかろうか?
浮いた気分の椿の前に9つ目の駅が見えてきた。
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