【完結】婚約破棄された令嬢リリアナのお菓子革命

猫燕

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第十一話「王子だろうが何だろうが」

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 朝日が「菓子工房リリー」の店前を照らし、封鎖の板が取り払われた広場にいつもの活気が戻っていた。
 リリアナは領民に囲まれ、「希望のストロベリームース」を手に持つ者たちが笑顔で語り合っている。
 ソフィアが「リリアナ様、すごいですよ! みんなが一つになった!」と目を輝かせ、トムが「これなら王子だって怖くねえ!」と笑った。
 リリアナは涙を拭い、「ありがとう、みんな。私、頑張るよ」と決意を新たにしていた。
 自分の魔力が「心を繋ぐ力」だと気づいた彼女に、迷いはもうなかった。
 だが、その穏やかな空気を切り裂くように、馬蹄の音が再び響き渡る。領民が顔を上げると、王都の紋章を掲げた馬車が土埃を巻き上げて現れた。
 扉が開き、カルディスとエミリアが姿を見せた。カルディスは金髪を風に揺らし、青い瞳に怒りを宿している。エミリアは赤いドレスで聖女の微笑みを保つが、その目には焦りが滲んでいた。馬車を護衛する騎士たちが剣を手に広場を囲み、緊張が一気に高まった。

「何をしている!? 封鎖を解いたのか?」

 カルディスが声を荒げ、リリアナを睨みつけた。

「王命に逆らう気か、リリアナ。お前如きが調子に乗るのもいい加減にしろ!」

 彼の声に、領民がざわつきながらもリリアナの前に立つ。
 ソフィアが「リリアナ様は私たちの誇りです! もう黙りません!」と叫び、トムが「王子だろうが何だろうが、リリー様をいじめる奴は許さねえ!」と拳を握った。
 エミリアが前に出て、

「民を惑わすなんて許せません。聖女の私が祝福した菓子こそ正しいものです。この粗末なムースなど、私の力に比べれば無価値です」

 と言い放った。彼女が持つ籠からクッキーを取り出し、領民に配るが、誰も食べようとしない。
 子供が「リリー様のムースの方が美味しいよ!」と叫び、農夫が「聖女だろうが味が悪けりゃ意味ねえ!」と笑った。
 カルディスの顔が真っ赤になり、「黙れ! このムースに何か力があるなど認めん! お前ら全員、王命違反で捕らえる!」と怒鳴る。
 騎士たちが剣を構え、領民に迫る。リリアナは一瞬怯んだが、ムースを手に持つ領民の笑顔を見て踏み出した。

「私のスイーツにはみんなを幸せにする力がある。それを認めなくても、私には関係ないよ。カルディス、あなたにはこんな力、作れないよね?」

 その言葉に、カルディスが「何っ!?」と声を詰まらせた瞬間、群衆の後ろから聞き慣れた声が響いた。

「確かにそうだな。こんな力、カルディスには作れんよ」

 ルカスがゆっくりと前に進み出てきた。旅装のマントを翻し、穏やかな笑みを浮かべている。彼はリリアナの隣に立ち、カルディスとエミリアを見据えた。

「何者だ貴様! 田舎者は口を出すな!」

 カルディスが怒鳴ると、ルカスは軽く笑い、堂々と言い放った。

「俺か? 俺はグレンツェル帝国第三王子、ルカス・ヴァン・グレンツェルだ。帝国はこんな小さな国の王子に指図される謂れはない。カルディス、お前が勝手に帝国法を持ち出したんだろ? その権限、俺が預かる」

 広場が一瞬静まり返り、次の瞬間、領民が歓声を上げた。

「王子だって!?」
「リリー様を助けてくれるのか!」

 ソフィアが「ルカスさん、王子だったんですか!?」と目を丸くし、リリアナも「え……王子?」と呆然とした。
 カルディスは顔を真っ青にし、「グレンツェル帝国の……第三王子だと? 何故こんな田舎に!」と声を震わせた。
 ルカスは冷静に続けた。

「俺は旅の途中でこの店を見つけた。リリアナのスイーツに価値があると分かったからな。カルディス、お前が帝国への貢物とやらで彼女の店を潰そうとしたのは知ってる。だが、そんな小細工より、彼女の力の方がよほど帝国に貢献する。お前如きに潰される筋合いはないよ」

 エミリアが慌てて口を挟んだ。

「聖女の私がいる限り、こんな菓子の力など認めません!」

 だが、ルカスが「聖女? でもお前のクッキーに何の力もないのは、みんな知ってるようだぞ」と一蹴すると、領民が笑い声を上げた。
 エミリアの微笑みが崩れ、「偽りだなんて……!」と呟くが、誰も彼女に目を向けなかった。カルディスは歯軋りし、「帝国の王子だろうが、王命は撤回せん! だが……しばらく様子を見る」と捨て台詞を残した。
 ルカスが

「賢明な判断だな。次はお前が後悔する番だよ」

 と冷たく返すと、カルディスはエミリアを連れて馬車に乗り込み、逃げるように去っていく。騎士たちも後に続き、広場に安堵の空気が広がった。

「ルカスさん……王子だったなんて」

 リリアナは呆然と彼を見つめた。ルカスが、

「驚かせて悪かったな。でも旅人ってのは半分本当さ。ただ、君のスイーツに惚れて、放っておけなかっただけだ」と笑うと、リリアナは涙ぐんだ。

「ありがとう。あなたがいてくれたから、私、諦めなかったよ」

 ルカスは優しく頷き、「君の力だよ。俺は少し手伝っただけさ。この団結は、君がスイーツで繋いだものだ」領民が「リリー様、最高だ!」「これからもよろしくな!」と声をかけ、リリアナは照れながら笑った。

「うん、私、もっと頑張る。みんなと一緒に、この店を守るよ」

 昼が近づく頃、店は再び開かれた。封鎖の札は剥がされ、扉が開くと、甘い香りが再び広場に漂った。
 リリアナはルカスを見上げ、「私、もっと大きな夢を叶えたい。ルカスさん、一緒にやってくれる?」と尋ねた。
 彼が「おぅ、もちろんだ。一緒に叶えようぜ」と微笑むと、二人の間に新たな絆が芽生えていた。
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