麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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第二章 もう絶対に離しませんからね、先輩!

琥珀VS童顔その3

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 あいつ壁突き抜けていったけど倒せたのかな……。
 また戻ってきそうなんだよな童顔……。

「確認しておくか……」
 壁に空いた穴から下を覗いてみると、童顔の姿はどこにも見当たらなかった。
 居ない……? じゃああいつは今どこに……。

「どけクソガキがあッ!」
「なっ!?」

 突然目の前に童顔が現れ、壁の穴に掴まって私を蹴り飛ばし中に入って来た。
 バネで跳んだのか……! どうりで居ないわけだ。

「はっ……はっ……さっきはよくもやってくれたわね……! ガキの癖に運だけはいいんだから……っ!」
「そりゃ日頃の行いがいいからだよ」

 息を荒くしながら童顔がそう言ってくる。
奴のスーツはボロボロになっており消耗を物語っている。
 何で立っていられるんだろう。執念が凄いな。

「でもあんたの強運ももう年貢の納め時よ。ガキは大人しく学校行って勉強でもしてれば良かったのに調子に乗りやがって! 自分の身の丈を知って絶望の中で死ね!」

「……ねえあんたさ……最後に聞きたいんだけど……何でそこまで大人に拘るわけ?」
「……は?」
「いや……めっちゃ私の事ガキ呼ばわりするし、昔何かあったのかなって……」

 怒りのあまりもの凄い形相で吠える童顔に私はどうしても気になって聞いてみた。
 すると童顔は一瞬怪訝な顔をした後、すぐにまたさっきよりも凄い表情になって答えた。

「……何であんたみたいなクソガキが知ったような口を利く訳? 本当に調子に乗ってるわね。もう許さない……あんたはさんざん苦しめた後内臓売り飛ばして殺してやる!」
「火に油注いだ……言うんじゃなかった……」

 どうやら図星だったみたいだ。
 口は禍の元ってよく言うよ……。

「社会のゴミが! 喰らいやがれえええええええええええ!!!」
 童顔が足に複数のバネを出し仕掛けてくる。
 私はそれに対し――。



 まだ、羽田真乃が青春真っ只中の女子高生だった時。

「真乃はほんとちっちゃくてかわいいなあ~。ぬいぐるみ欲しいわマジで~」
「も~ちっちゃいって言うな~! あと頭撫でるのもやめてってば~」

「いーじゃん別に~。真乃がかわいいのが悪いんだよ! おらっ!」
「きゃーっ! 髪ボサボサにしないでよ~!」

 その頃の彼女は友人などの周りの人間から子供のように可愛がられる事を大して気にしていなかった。

(なんか皆楽しそうだし別にいいよね。癒し系癒し系)
 むしろそれが自分の個性なのだと受け入れていた。

 そんな彼女にも、恋は訪れる。
 相手は年上である同じ高校の先輩。一目惚れだった。

(三年の鍬田先輩……かっこいいなあ……!)
「どうしたの真乃? ニヤニヤして……もしかして好きな人できた?」
「な、何で分かったの!?」

「だってめっちゃ乙女の表情してたもん! このおませさんめ! 相手は誰なの?」
「三年の……ごにょごにょ……」

「……うん……頑張ってね。私は……うん、その……否定はしないよ……?」
「何でそんな事言うのよー! 鍬田先輩を悪く言うなあー!」

 その相手というのは相当の札付きで、何でも強すぎるあまり他校の番長は全員一回は彼に潰されているだとか、ナイフで刺されても逆にナイフの方が折れたとか、サッカーでゴール決めようとしたらボールが破裂してシュートが出来なかったとか、そんな噂がまことしやかに流されていた。

 それでも彼女は、一切臆する事なく、彼に想いを寄せていた。

(今日もかっこいいな……学校でも甚兵衛を着てくるそのファッションセンス……素敵です……っ!)
 若干ずれているのはさておき、想いは日に日に募っていった。

 話してみたい。
 一緒にデートもしてみたい。
 ……恋人になりたい。あの人の傍に居たい。

 そしてある日彼女はとうとう決意をする。

(今まで勇気が出なかったけど……今日こそ鍬田先輩に告白するんだ……っ!)
 呼び出しの手紙は何度も書き直した。
 告白の言葉も考え詰め、夜通し考え続けた日もあった。

 友達に化粧も教えてもらった。
 緊張しないように何回も何回も告白の練習を重ねた。
 そうして、準備を一切怠らなかった本番。

「また決闘か? めんどくせーな……相手お前?」

「あっいや違うんです! 決闘じゃなくて……今日は鍬田先輩、あなたに伝えたい事があって来て貰ったんです……!」
「あ? 何だよ?」

 来てくれた。
 面と向かって話せた。
 その感動を抑えながらも真乃は深呼吸をして、はっきりと想いを伝えた。

「私……! 鍬田先輩の事が……好きですっ!」
「……え?」

 言った。
 言ってしまった。

 心臓が人生で一番ばくばくと脈を打つ。
 差し出した手の震えが止まらない。

 何とも言えない沈黙が辺りを満たす。

 真乃がおずおずと顔を上げて耕一郎を見ると、ぽかんとした表情をしてからニヤニヤと笑い、真乃の頭に手を置いてこう言った。

「あのな……お前まだ小学生だろ? そういうのはもうちょいでかくなってから言え」
「えっ……」

 耕一郎は用事は終わったとばかりにその場をスタスタと立ち去った。
 しかし真乃の中では、耕一郎の言葉が重みと共に反響し続けていた。

――お前まだ小学生だろ?
――お前まだ小学生だろ?
――お前まだ小学生だろ?

 あまりの衝撃に真乃は膝から崩れ落ち、泣き喚いた。
「そんな……うわあああああああああああああああ!!!」

 制服着てるのに。
 その言葉は溢れる涙にかき消された。



 後日。
「真乃~! 今日もちっちゃかわいいね!」
「……クズが死ね!」

 真乃の拳が友人の腹に入り込む。

「うぐっ……あっ……! 何で……!」
「…………」

(どいつもこいつも子供扱いしやがって……だからあんな風に間違われるんだ……もう二度と小さいだなんて言わせない。小学生だなんて言わせない。子供だなんて言わせない。絶対に誰にも舐められない大人になるんだ……っ!)

 蹲って苦しみながら驚愕の表情を浮かべている友人を見下ろしながら真乃はそう決意した。
 こうして彼女は、“大人”になった。
 自分の、魅力を捨てて……。



 私は、とてつもない執念を籠めた真乃の蹴りに対し――。
 推しの力で応えた。
 身体に八重染琥珀を纏い、加速させる。

「……? さっきの力は使わないの? ……そう。舐めてる訳ねぇッ!」
「いやそれは違うよ。この状態の私が全力なんだよ!」

 こいつの何がここまで私を倒そうと搔き立てるのかは知らないけど、この執念はにわか仕込みの黄玉じゃ絶対に勝てない。

 それ相応の精神、覚悟が必要だ! 
 童顔の執念を超える精神と覚悟を持ってる力……ストームの力じゃないと勝てないんだ! 

「クソがっ!」
「おらぁっ!」
 推しの力を借りて凄まじい速度を得た私の蹴りと真乃の執念が凝り固まった蹴りがぶつかり合う

「ぐうああああああああああああああああっ!」
「はあああああああああああああああああっ!」
 強大な二つの力がせめぎ合い、拮抗する。

「ガキに負けて堪るかぁ……っ! 舐められて堪るかぁ……っ!」
「推しが力を貸してくれてる……っ! それに凍牙を助けないといけない……っ!」
「「負けるもんかぁっ……!!!」」

 私と童顔がそう叫ぶと、二つの力がまるで共鳴するかのように光り輝いた。
 でも私の八重染琥珀の方が、強い輝きを持っていた。

 私の足が、童顔の足を押し返して、童顔の身体を空高くまで弾き飛ばした。

「はあっ!」
「ぎゃああああああああああああああ!!! クソがっ……! 顔は覚えたからなクソガキ! 次私と会った時の為に遺書書いておきやがれぇっ!」

「はっ……はっ……凄い奴だったな……」

 私は童顔が飛んで行った方向を見ながら、ただただそれしか言葉が出なかった。
「それより……凍牙を助けに行かないと……!」

 こんな所で休んでなんかいられない。
 私は急いで階段を駆け上がった。


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