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第三章 ちゃんと私を見てくださいよ先輩!

私が教えますね琥珀先輩!

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 え……いやいや待って……。
 これ私普通に死ぬんじゃ……。

 私がそう考え青ざめているのもおかまいなしに、麗紗は修行を開始した。

「行きますよ琥珀先輩……よーいドン!」
「ちょ、ちょっと待って心の準備が!」

 麗紗はさっきと同じ合図をすると同時に桃色の糸を放った。
 いや急すぎる! でも実戦じゃそんな事言ってられないか。

 私は加速で糸を回避する。
 さすがに手加減してくれているみたいで糸は私の目でも追える速度だった。

 死ぬ心配は無さそうだ。
 よくよく考えたらこんな所で麗紗が本気出す訳ないな。

 心配して損した。

「今のは挨拶替わりですよ、琥珀先輩!」
「ならこっちも返さなきゃね! 黄玉!」

 私は黄玉を何個か麗紗にぶつけた。
 黄玉は麗紗に直撃し爆ぜる。

 前の私よりかは強くなってる筈だ。
 千歳の薬が無くてもちょっとはダメージが入ってるといいな……。

「ふう……服が八重染琥珀で少し焼けてしまいましたね……琥珀先輩の能力の跡……ふふっ、この服は永久保存しないといけませんね!」

「うっそ……全然効いてない……」

 麗紗がまた何か言ってるけど、それ以上にヤバいのは麗紗が黄玉を食らっても無傷な事だ。

 童顔はもちろん、あの二人の特色者にも通用した黄玉が……。
 どんだけ強いんだよ麗紗! 

 能力が強くなる条件が狂気じゃ、そりゃ勝てないのもしょうがないけどさ……。
 ちょっとは効いてくれよ。

 この前麗紗に勝てたのは千歳の薬と奇跡のおかげだったんだな。

「まだまだ行きますよ琥珀先輩! “恋色紗織”」
「うわっ!?」

 麗紗が再び糸で攻撃してくる。
 さっきよりも速い! 

 八重染琥珀で躱そうとするも躱し切れず攻撃を食らう――。
 かと思いきや、糸は私の身体の手前で止められていた。

「琥珀先輩、実戦なら確実に食らってましたよ」
「うう……確かに……」

 麗紗にそう言われても何も言い返せない私。
 ここまであしらわれるとは……相手が悪すぎるのもあるけどね。

 そんな私の甘い考えを読んだのか、麗紗がなにやらニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて言う。

「ふふっ……琥珀先輩、手加減をすると緊張感が無くなりませんか……?」

「まあそれもそうだね……」

「ではここは一つ、賭けをしましょう! 私が琥珀先輩に勝ったら琥珀先輩は私の言う事をなんでも聞いて、琥珀先輩が私に勝ったら私が琥珀先輩の言う事をなんでも聞くというのはどうですか? これなら緊張感が出ますよね?」

 麗紗は漫画とかでよくある賭けを提案してきた。
 いや、賭けがまるっきり成立してないからこれは賭けじゃない。

 だってこれ絶対麗紗が勝つじゃん……。
 私は麗紗にそこをツッコもうとするが、麗紗はそれを遮って私を煽ってきた。

「いやいやいや! それは……」
「まさか逃げるんですか先輩? それで本当に強くなれるんですかねぇ~?」

「くっ……!」

 痛い所を突いてくるな……。
 確かに、まだ勝負は付いてないのに諦めるのはどうかと思う。

 でも賭ける内容が重すぎる! 
 どうしよう……いや、いっそこの位賭ける方が緊張感が出ていいかもしれない。

 悩んでいると、麗紗が更に揺さぶりをかけてきた。

「じゃあ、ハンデを設けましょう。私が使っていいのは右腕だけ……。これだけ制限すれば琥珀先輩の勝ちは決まっていますよ。乗らない手は無いと思いますが?」

「うーん……」

 ハンデ貰ったとしても負けそうなんだよな……。
 いや、後輩にこんだけ譲歩されて勝てないっていうのも……。

 私は合理性を取るかプライドを取るかの二択に迷わされた。
 それでしばらく悩んだ後、私は……。

 先輩としてのプライドを取った。

「いいよ。じゃあやろう!」
「ふふっ……琥珀先輩ならそう言うと思いました!」

 さすがにこんだけハンデ付けられて逃げたら恥だ。
 それに私はまだ、出していない奥の手がある。

 勝てる算段は、無い訳じゃない。

「では早速行きますよ琥珀先輩っ!」

 麗紗はそう言って右の拳を構え、私の目の前に瞬間移動してきた。
 あまりの速さに夥しい数の麗紗の残像が見えた。

 その時にはもう遅く、私は成すすべもなく風圧に吹き飛ばされ障壁の天井にぶつかった。

 パンチ本体ではなくパンチの風圧に。
 風圧ってよりかは衝撃波って言った方がいいかもしれない。

 うん。
 想像してた以上に次元が違い過ぎる! 

 当の麗紗もきょとんとしている。
 絶対加減しなかったな今の……! 

 でもこれはチャンスだ。
 私は吹き飛ばされている間に黄玉を最大限まで溜めていたのだ。

 これで勝てる! 
 溜めた黄玉は麗紗に使ってなかったから、効く可能性も十分にある!  

 私は彗星のように眩しく、綺麗な光を放つそれを麗紗に撃った。
 お願い……私を勝たせて……! 

 彗星のようなそれは、バチバチと電気のような凄まじい音を立てて麗紗に当たる。

「きゃっ!?」
「くらえ……! 私の全力……!」

 次の瞬間、庭が轟音と炎に包まれた。
 まるでそこだけ災害でも起きたように。

 耕一郎に撃った時とは違って、今出来得る限り最大の出力だ。
 これならいけるはず……! 

 炎と音が止み、庭の様子が露わになる。

「ふう……今のはちょっと痛かったです……えへへ」

 そこに居たのは、ほとんどダメージを受けていない麗紗だった。
 今出来得る限りの最大火力……。

 私は、あまりの現実にただ呆然とするしかなかった。







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