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第三章 ちゃんと私を見てくださいよ先輩!

目覚め

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「……心臓が止まってるわ」
「は!?」

 千歳が麗紗の脈を測って私にそう告げる。
 し、死んだ……? あの麗紗が……? 

 いやいやいや。
 あれだけ強かった麗紗がこんな簡単に死ぬわけが……。

 でも、千歳が言うって事は……。
 本当に、尊死したのか。

 死因が酷すぎてもはや笑えてくる。
 なんで私が水着着ただけで死者が出るんだ! 

「ねえ千歳……ほんとに麗紗死んじゃったの……」
「ああ大丈夫。生き返らせるから」

「いやさらっと自然の摂理無視した発言しないで! 余計頭が混乱……」
「よいしょ……っと。これで蘇生できるはず」
「ええ……」

 千歳がどこからか怪しげな機械を取り出し、麗紗の近くに置く。
 そして更に赤い謎の液体が入った巨大な注射器を麗紗の腕に刺した。

「な、何なのそれ……」
「まあ見てて~。えいっ!」

 思わずそう聞く私に千歳は自信たっぷりに笑ってみせ、機械のスイッチを入れた。

 すると麗紗の身体が陸揚げされたマグロのように痙攣し始める。
 電流的なものが流れてるのかな? でっかい注射器は何なんだろう。

 そうして私の頭の中が疑問符でいっぱいになっていると、結構すぐに痙攣が収まった。
 おもむろに、麗紗が目をパチリと開ける。

「あれ……私はいったい……」
「まだ動いちゃ駄目よ。人工血液がまだ行き渡ってないわ」

「嘘……生き返った……!」

 千歳は起きようとする麗紗を抑える。
 でも見た感じ麗紗は元気そうだ。

 ちょっと顔色は悪いけどね。
 ていうかあの注射器は人工の血液だったのか。どうりで真っ赤なわけだ。

「今の麗紗ちゃんにはあの琥珀ちゃんの水着は刺激が強かったわね。ごめんなさいね」

「うっ!? ちょっと千歳、思い出しちゃったじゃないハァハァ……」
「あらごめんなさい。でもセクシー過ぎる琥珀ちゃんも悪いわよ」

「誰がセクシーだ! ていうか麗紗! こんなのでいちいち死なないで!」
「ごめんなさい琥珀先輩……だって琥珀先輩の水着姿があまりにも尊すぎたんですよハァハァ……」

 麗紗は病人のようで変態のような呼吸をしながらそんな事を言ってくる。
 まだ鼻血出してるし……。

 これは早く着替えよう。
 私は更衣室に入って元の服に着替えた。

「よし、これで死ぬ事は無いでしょ麗紗。一回死んじゃった訳だし今日の所はもう帰ろうか」
「よし、もう動いていいわよ麗紗ちゃん。それじゃ水着選びを再開しましょ」

 私と千歳は同じタイミングで別の事を言った。

「ってはあ!? 千歳それ本気で言ってる!?」
「えっ? どうしたの? 何か問題でも?」

 千歳のセリフに思わず自分の耳を疑いながらそう突っ込むと、千歳はあっけらかんと言ってのける。

 いやいやいや。
 今麗紗が死んだばっかりじゃん……。

「麗紗が倒れちゃう事なら心配無いわ。また生き返らせるし。それに、むしろここで耐性つけておかないと麗紗ちゃんがあなたと一緒に海で遊べないじゃない」

「でもこんだけ鼻血出してたら大迷惑……」
「お店にはちゃんとお詫びしておきますから大丈夫ですよ、琥珀先輩♪」

「ああそう……」

 麗紗が満面の笑みでそんな事を言ってくる。
 札束で殴る気か……いつもながら恐ろしいなこの子……。

「それじゃあどんどん着てもらうわよ~! ほら麗紗ちゃんにはコレ! 琥珀ちゃんにはコレ!」

「ええ……」
「布面積少ないわね……日焼けしそうじゃない」

「いいから着てっ! ほらっ!」
「千歳あなた絶対着させたいだけでしょ!」

 そうして私達は千歳に着せ替え人形にさせられ、時々麗紗が死につつもゆっくりと水着を選んだ。



 桜月財閥支社の一室にて。

「ふふ、まあまあの成果じゃない」
「はあ……そうっすか?」
「いいんですか羽田さん? 私達あの子を逃がしちゃったのに……」

「いいのいいの。今回はとりあえずあなた達の能力を覚醒させてざっくりと能力レベルを計るのが目的だから。話を聞く限り二人ともレベル7から8くらいはありそうね。お疲れ様」

「あ、あざっす」
「どうもありがとうございます~」

 真乃は頭の中で情報を整理しながら自分の新しい部下、根津右近ねづうこん霜降しもふりつみれに労いの言葉を掛ける。

 そう、この二人は琥珀を襲撃した特色者であり、そうするように指示を出したのは真乃である。

「はは、お前意外ときっちり上司してんじゃん」
「ふんっ。駄目な上司持つと色々苦労するのを知ってるからよ。私達が部署の移動を食らう羽目になったみたいにね!」

 榎葉がふらりと部屋に入ってそう言う。
 そんな榎葉に真乃は一身上の都合により姿を消した上司への嫌味を込めて言葉を返した。

「まあ、あのクソオヤジの下で働くよかこっちのが数百倍マシだろ。アイツが居なくなったおかげで私らむしろ出世してねーか?」

「面倒な役回り押し付けられただけじゃないの……全く、何で私が対桜月麗紗用特色者なんちゃらを先導しないといけないのよ……」

 真乃と榎葉は天衣が消えた後、彼女らは財閥から『対桜月麗紗用特色者育成計画』の先導を任されていた。

 そこに選ばれた理由はたまたまタイミング良くある程度信用があり手の空いた特色者が居たからという上層部の考えがあったからだ。

 一応真乃は上層部から、桜月麗紗に遭遇した天衣に最も近い為対策が講じやすいのではないかという建前を聞かされているが。

 そんな事は真乃もそれを聞かされた時から気付いているが、彼女にとってはさして重要な事ではなかった。

「まあ上層部もなりふり構ってられなくなったんだろ。アイツらも半分ヤケクソなんだろうな。ま、適当にやろうぜ」

「そうね~。にしてもあのクソガキ……ガキにしてはやたら強いわね。インスタントとはいえ、特色者二人から逃げ切るなんて……」

 真乃は憎々しい金髪の女を頭に思い浮かべ、頭に青筋を浮かべながらそう呟く。
 榎葉はそんな真乃を見てくっくっとこみあげるように笑って言う。

「仕返し失敗って訳か……ダルいからやめとけって言ったのに……くく」

「はっ、別にどうでもいいわ。負けたのはあの二人であって私が負けた訳じゃないんだし」

「そういうのを世間一般には負け惜し……いいや何でもねえ」

 慌てて口から出ようとした言葉を飲み込もうとしたが漏らしてしまう榎葉。
 真乃は榎葉をじーっと湿度の高い目で睨んでから、ぽつりと言う。

「……それに今は、もっとムカつく奴を見つけたからね」
「ふーん。あっ、つーかそれよりお前に伝える事があったぜ」

「何よ?」
「上層部からだ。今週の土曜日桜月麗紗とその使用人がどっかの島に行くから、そこでそいつの使用人とうちの特色者を戦わせろ、だってよ」

「……はあ? そんなのあの子を刺激するだけでしょ。何考えてんの?」

 上層部の指示に眉をひそめる真乃。
 榎葉はため息をつきながら続ける。

「上層部が言うにはお嬢様の周辺の人間はお嬢様に近い戦闘能力を持ってるらしい。だから多少リスクを冒してでもその戦闘データが欲しいんだってさ」

「なるほどね……でもリスクに見合ってなくない?」
「上層部がヤケクソになってる証拠だな。そんだけお嬢様にビビってんだよ」

「はあ……情けなっ。まあいいわ。指示出されたからには動くしかないわね」
「お? 今回なんかやたら乗り気だなお前?」

「私もあの子の使用人にちょっと用があるのよ……みんなー! 集まって!」
「「「「はい!」」」」

 真乃の声に四人の部下が一斉に答え、彼女の前に集合する。
 そして真乃は指示を部下に一通り伝えた。

「と、まあそういう訳よ。休日出勤でムカつくだろうけど、ちゃんと月曜日休みあげるから頑張ってね~」

「は~い。分かりました~」
「了解っす」

「左目が疼くぜ……」
「今月の振り込み額は期待しておきますね!」

 四人の部下は各々の返事をすると、真乃は満足した顔で彼女自身の仕事部屋に戻っていった。
 残された部下達は自ずと喋り始める。

「わざわざ休みくれるとか羽田さんマジいい上司だよな~。なんかやる気出てきたわ俺!」
「そう……それより右近あなた、ほっぺたにご飯粒付いてるわよ?」

「えっ何で付いてんだよ!? おいつみれやめろ! 自分で取るから取らなくていいって!」
「あまり騒ぐな。俺はそういうのが嫌いなんだ。左目に響く……」

「大丈夫ですか? いいクスリがありますよ晴衣はれぎぬさん。一服どうです?」
「この俺にそんなものは必要無い……俺の力はその程度の物じゃ抑えきれないんだ……!」

 イチャつく右近とつみれに、厨二病に怪しげな白い粉を渡そうとする童顔の男。
 真乃の部下は中々カオスな感性の持ち主が多い。

「あっそうだ思い出した。確か白い粉押し付けてくる危ないアンタって、俺達の中で一人だけ元から特色者なんだよな? どんな能力を持ってるんだ? 良かったら教えてくれよ」

 右近がふと、顔のご飯粒に指を伸ばすつみれを払いのけながら、童顔の男にそう聞いた。
 すると童顔の男は、薄く笑ってから答える。

「危ないアンタとは酷いですね~。でもいいですよ。教えて差し上げましょう。僕の能力は……力の強い熊に変身する事が出来る“豪傑熊”。具現発動型のレベル5に分類されるんですよ」






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